第37話 盗賊達の運命

 乗合馬車を襲った盗賊は前回、タロ達が遭遇した盗賊達であった。


 ただし、そこには前回、寛大であった首領はおらず、乗客の身ぐるみを剥いで全てを奪おうとしたガゼとその仲間達だけがいた。


「うん? どこかで見た事がある美人と思ったら前回、手を出し損ねた美人母娘じゃないか! へへへっ! これは付いてやがる……! お? それに美人のエルフもいるじゃないか! 首領の留守中にこっちに来て良かったぜ!」


 ガゼは下卑た笑みを浮かべて女性陣に近づこうとした。


 それを阻むように、タロが前に出る。


「邪魔だ、死にたいのか!? うん? てめぇ、どこかで……。あ、貴様もあの時いた野郎か! 野郎ども、今回は本当についてやがるぞ! あの時の連中と良い胸したエルフの女もいる。そして、今日は首領もいない。この意味がわかるかてめぇ」


 タロに向かって残忍な笑みをガゼは浮かべた。


「話を聞く限りだと、あの時の首領さんの留守を狙ってこちら側に遠征して来たという事ですか? つまりそれは、今ここであなた達がいなくなっても残念がる人はいないという事でいいですね?」


 タロは、前回同様、まるで時間を稼ごうとしているかのように話し始めた。


「また、前回の続きか? 今回はどんなに時間を稼ごうが、てめぇの命はここで終わりだぜ? 手間が省けるように持ち金は先に出しておきな。そうすれば、少しは楽に死ねるかもしれねぇぞ?」


 ガゼはタロがまた駆け引きをするつもりだと思って、残酷な選択を迫った。


「──ネイ。ティアを頼んだよ」


 タロは後ろを振り向かず、お願いした。


 ネイがティアを抱きかかえ頷く。


「ふっ! そのエルフと顔見知りか? お前が死んだらたっぷりと俺達が可愛がってやるよ! ──ほら、死にたくない奴は身ぐるみ全て俺達に差し出せ! 服も全てだ! その間に貴様は、俺がゆっくり切り刻んでやる!」


 ガゼが、乗客達に命令する。


 農民と行商の男は、怯えると命欲しさに急いでお金の入った荷物を盗賊達に渡すと急いで服も脱ぎだした。


「女どももさっさと服を脱げ!」


 ガゼがタロの背後にいるネイ達に恫喝した。


「タロ!」


 ティアがその恫喝に反応してタロを呼んだ。


「わかった!」


 タロがティアの言いたい事がわかったのか、魔法収納付き鞄から剣を出して抜き放つ。


「なるほど、前回のトリックは、魔法収納付き鞄だったか! ふん! 一丁前に剣を抜いたら強くなれると思ったか? 野郎どもやっちまえ!」


 ガゼの味方は十人、相手は御者を合わせた男四人、女三人、子供一人。


 そのうちで歯向かうのはタロ、一人だけだ。


 圧倒的な戦力差である。


 そう、圧倒的な、差である。


 ガゼの率いる仲間達は、あっという間にタロ一人によって倒されていった。


 タロを相手に、わずか十人は圧倒的に戦力として不十分だったのだ。


「そ、そんな馬鹿な!? ──ちょ、ちょっと、待ってくれ……!」


 ガゼはあまりの圧倒的な実力の差に驚き、剣を捨てると命乞いをした。


「僕が負けていたら、あなたはみんなも含めて命を奪っていましたよね?」


 タロは、ガゼの命乞いに眉一つ動かす事なく答えた。


「前回、命を助けただろう!?」


「前回は、首領さんのお陰ですよね? それに、命のやり取りに前回も今回もあるのですか? 殺されたら終わりですよね?」


「……わ、わかった! じゃあ、大人しく捕まるから領兵に引き渡してくれ! それでいいだろう?」


 盗賊行為は縛り首だ。


 領兵に引き渡されても死は免れないのだが、ガゼは少しでも生き延びる可能性を考えているようだ。


「……では、捕縛して領兵に引き渡しましょう」


 タロはそう判断すると、魔法収納バッグから縄を取り出すとガゼ達を縛る為に近づいた。


 そうすると、


「かかったな!」


 とガゼは隠し持っていたナイフでタロに襲い掛かった。


「だと思いましたよ」


 タロはガゼの動きを最初から予測していた。


 そして、ナイフを握った右手首をがっちり掴み、その手を捻り上げる。


 その拍子に肩から鈍い音がした。


「ギャー! か、肩がぁ!」


 ガゼは骨が折れた痛みに絶叫する。


 タロはその痛みに苦しむガゼを無視して縛り上げた。


 他にやられて負傷している盗賊達も同様だ。


「次の村で引き渡す事にしましょう」


 タロは命が助かった事に安堵する乗客達を前に、御者さんに声を掛けるのであった。


「え、ええ! 助かりましたよ! ──あなた、あの時、命を助けてくれた人でしょう? こんなに強いならあの時も助けてくれたら良かったのに! はははっ!」


 御者はもちろん冗談である。


 今回は前回と違い、盗賊団の一部で数も少なく、首領と呼ばれる人物もいなかったから、戦ってくれたのだろうと御者も理解した。


「タロ、強い!」


 ティアはネイに抱っこされた状態で万歳して喜んだ。


「タロさんは腕も立つ人だったんですね!」


 ステラもタロの強さに素直に感心した。


 アンナも同じなのだが、こちらはタロに対する恋心にまた再着火したのか「ネイさんやっぱり負けないからね!」と、恋敵と思われるネイに再戦を申し込むのであった。


「あんた強いじゃないか。お陰で商売道具を失わずに済んだ。助かったよ」


 と、商人がお礼を言った。


「これで稼いだお金を家族に届けられる、ありがとう!」


 と、出稼ぎ帰りの農民男性も感謝するのであった。


 乗合馬車は、縄で縛り上げた盗賊達を縄で繋げた状態で最後尾に連行して次の村に到着、農民の男と商人がそこで降りると言うので、盗賊達の事を任せてタロ達は帰路につくのであった。

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