第30話 街への道中

 タロとティア、そして、ネイの三人は近くの街の商業ギルドにドラゴニア王国で得た特許の数々を登録し直すべく、片道馬車で半日の旅に出掛ける事にした。


 そこには美人母娘であるステラとアンナも同行していた。


 なぜ二人も付いて来ていたかというと、それはただの偶然だった。


 ステラがアンナと一緒に朝から薬草の束を大きなバッグに入れて村の出口で門番と話していたところに出掛けようとしていたタロ達が遭遇したのだ。


 聞けば、また、出掛けて薬草を街の大きな商会に売りに行くのだという。


 それでタロは二人の荷物を魔法収納バッグで運んであげる事にしたのだ。


 ティアはステラ、アンナ母娘が好きだったから、嬉しそうだ。


 ネイも何度か顔を合わせているのだが、こちらは少し事情が違って娘アンナがネイに対してライバル意識があるようであった。


 何のライバルかはステラも穏やかに笑うだけで教えてくれないのでタロも困っていた。


 ネイも家族だから村のみんなとは仲良くして欲しい。


 ましてやこの母娘には良くしてもらっているからなおの事である。


 行きの乗り合い馬車内でもアンナはタロの左横に座るのだが、右にはもちろんティアが座っている。


 ネイはタロの左側に座ろうとしていたら、アンナが間に入って座った格好だ。


 ネイはちょっと意気消沈するとティアの横に移動して座る。


「ごめんなさいねネイさん。うちの娘、思春期で色々あるのよ……」


 と、申し訳なさそうにステラが謝る。


 ネイは十八歳なので村で年齢が近く同じ女性で十四歳のアンナとは色々と聞いて仲良くしたかったのだが、初めて会った時から敵対心を持たれているようであった。


「……いえ。大丈夫だ……」


 明らかにネイは凹んでいる様子だったから、ステラは揺られる馬車内でネイの横に座るとこっそりと耳打ちする。


「……あの娘、タロさんに気があるんですよ。それで突然綺麗なあなたが現れてタロさん達と同居しているから、恋敵だと熱くなっているの」


「……!? わ、私をですか? そんな……、タロさんは確かに優しい人ですが私なんか相手にしてませんよ……?」


 ネイは謙遜して答えた。


 確かにこの一か月間、タロはネイを家族として見ていて、そんな雰囲気は微塵も見せないからネイも最近ようやく割り切って家族の一員として振舞うようにしていた。


「……そうなの? あなたみたいに魅力的で美しい女性が傍にいたらタロさんの心も穏やかではないと思うのだけど……」


 ステラはちょっとびっくりしてネイに耳打ちするのであった。


「……幼少期に唯一の家族であった祖父も亡くなってからはずっと一人だったので、タロさんやティアさんの家族として迎え入れてもらっているだけで私は今、幸せなのです」


 ネイはステラに耳打ちするのを忘れてそう答えた。


 そうなるとタロ達もその話が聞こえていたので、しんみりとした雰囲気になった。


「……」


 一人タロへの恋慕で盛り上がっていたアンナもこの言葉に静かになった。


 自分は父を亡くして母一人子一人で寂しい思いをしていたのだが、ネイはそれ以上に寂しい思いをしていたのだ。


 そんなネイをライバルとして敵視し、嫉妬していた事が恥ずかしく思えてきた。


「ネイさん……。譲れないものはまだあるけど、これからはお姉さんとして仲良くしてくれますか?」


 アンナはタロの事を置いておいて仲良くできる方向で歩み寄る事にしたようだ。


「も、もちろんだ! 私も仲良くしてくれると嬉しい……。私はどうやら女として足りていないものが多すぎて……、それに何も知らずに生きて来たから、ステラさんとアンナさんには色々聞いてみたかったのだ」


 ネイは、アンナの歩み寄りに嬉しそうに答える。


「なんだか仲良くなれて良かった」


 タロはまさか自分が原因で不仲になっていたとは思いもよらなかったから、手放しでこの光景を喜んだ。


「……タロ。鈍感」


 ティアがクスクスと笑いながら傍でタロに指摘した。


 どうやら、ティアはアンナのタロに対する好意には気づいていたようだ。


 まぁ、当人とネイ以外は気づけるほどにはアンナもオープンにしていたのだが……。


「え?」


 タロは、ティアの言葉が理解出来ずに聞き返す。


「ティアちゃん、タロさんにそんな事言っても駄目よ」


 ステラがタロの鈍さは仕方がないと言わんばかりに言う。


「何かわからないけど、僕があまり良い事言われていないのはわかってるからね?」


 タロは困惑しつつも自分が何かしたようだというのは理解するのであった。



 そんなタロと四人の年齢バラバラな女性達は、乗合馬車に揺られて近くの村で一人二人と乗客を増やしながら、目的地であるサイロンの街へと夕方には到着するのであった。


「タロ、ネイ、沢山の人がいる!」


 ティアは自分達が住むアシナの村しか知らないから大勢の人がいるサイロンの街の雰囲気に驚くのであった。


「初めてのティアにはびっくりだよな」


 タロはそう言うと、ティアを抱きかかえる。


 迷子になられたら困るからだ。


「ステラさん達はいつもどこの宿屋に泊まっているんですか? 良ければ僕達もそこにご一緒したいのですが」


 タロはティアが好奇心でキョロキョロしているのを微笑みながらステラに聞いた。


「私達はいつもこの街に来たら『緑の安らぎ亭』に宿泊しています。安い宿屋に比べたら少しお高いですが、安全で清潔、料理もおいしいのでお勧めですが、そこでいいですか?」


 ステラとアンナ母娘は女性二人だから、少し高くても安全な宿屋を選んでいるのだろう。


 それにステラさんがそんなに評価するなら良いところのはずだ。


「そこにご一緒させて下さい。ティア、ネイも良いかい?」


「うん!」


「はい」


 二人も賛同し、ステラのお勧めの『緑の安らぎ亭』に五人は宿泊する為に向かうのであった。

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