第27話 初めての共同作業
タロとティア、そしてネイの三人の帰り道は注目の的になっていた。
ネイがエルフである事、そして、それが美人であり、スタイルも抜群だからだ。
村の男達は、どこから聞きつけたのか、
「おお!」
とか、
「マジか……!」
とか、
「エルフってあんなに美人なのかよ……!」
と、三人が村外れに帰っていく後姿を見送るのであった。
その中で、
「俺は断然ステラさんの方が良いね!」
「俺もステラさん派だな」
「亜人はちょっと興味はあるが、俺はビビっちまうな」
という意見もあり、いかに薬草屋のステラが根強い人気があるかというものであった。
そんな事はつゆ知らず、タロ達は家に到着するとすぐに晩御飯の準備をする事にした。
タロはまず、買って来た切れ端お肉を包丁で完全に切り刻んでミンチにした。
「お肉、元の形なくなった……」
ティアはタロの傍でショックを受けて呆然自失な状態で見ていた。
「美味しくなるから待ってて」
タロは苦笑して料理を続けると、玉ねぎとパンを魔法収納から取り出し、こちらも玉ねぎはみじん切りに、パンも小さく刻んでしまった。
「こっちも、形なくなった……」
ティアがまた、ショックを受けている。
「まずはみじん切りの玉ねぎを炒めて──」
タロは慣れた手つきで油を垂らし、火の通ったフライパンで玉ねぎがしんなりして色が変わるまで炒めていく。
そして、炒めたものを風魔法でしばし冷やす。
「?」
ティアはせっかく火を通したものを冷やす意味が分からなかった。
「熱を持ったままだと、お肉の脂が熱で溶けて旨味が逃げてしまうんだ」
「……わかった気がする!」
絶対わかっていないティアの反応であったが、タロは作業を続ける。
「ではこれらを全て味付けして混ぜていくよ」
タロは魔法収納から取り出した塩と胡椒の入った壺を取り出し、混ぜたものにパラパラと振りかけていく。
そして、ミルクを足して混ぜていった。
それを手のひらサイズにして掬い取り、右手と左手でキャッチボールをする様にパンパンと音を立てながら塊内部の空気を抜く作業をするのだが、ティアはここで初めて「おお!」と、喜び出した。
「ティアもやりたい!」
「ああ、いいよ。手の平サイズにお肉を掬って──」
タロは丁寧にティアに教えるとティア力強く頷きタロの真似を始めた。
「うまい、うまい!」
二人は一緒にパンパンと音を立ててその作業を続けるのであった。
「タロさん、ティアさん、私もよろしいですか?」
ネイは手持無沙汰で後ろでずっとうろうろしていたが、ティアが料理作りに参戦した事に勇気をもらったのかタロに声を掛けてきた。
「じゃあ、三人でやろう」
タロは微笑むとネイにもコツを教えながら三人はこの料理「ハンバーグ」作りを行うのであった。
その作業が終わったらあとは焼く作業であったから、それはタロが担当した。
ネイは自分達が捏ねたハンバーグに火が通り、焼き目がついていくのを楽しみなのだろう、覗き込んでいた。
「いい匂いだね!」
ティアが、ネイに声を掛ける。
「はい、ティアさんいい匂いです」
ネイは頷くと、身長が足りず覗き込めないティアを両手で持ち上げると、もっとフライパンの上を眺められるように持ち上げた。
そんな二人の姿が微笑ましいタロであった。
完成した料理はハンバーグであった。
ドラゴニア王国の、王都の下町で屑肉を出す安いお店で出会った料理だ。
タロは何でもやり方ひとつで良くする事は出来ると学んだ料理で、一時期、貴族である事を隠して通っていた事があるほどだ。
これもそのお店の若主人が借金に困ってレシピを売りに出したのを買い取ったものであるから今は、タロが権利を持つ料理になっている。
「それでは頂こうか」
タロは二人に食べるように勧めた。
テーブルには、ハンバーグとパン、そして、干し肉のスープが並んでいる。
二人はまず最初にスプーンで干し肉のスープを掬って口に運んだ。
この料理は人参とゴボウを細かく刻んで炒め、鶏がらで出汁を取り、その出汁に炒めた野菜、干し肉を入れて煮込んだスープだ。
干し肉の塩味も効いていてお腹の空いた胃に染み渡る。
「「美味しい!」」
二人は最高の笑顔でタロに感想を言ってくれた。
今度はパンを浸して食べると、また、「「美味しい」」と、満面の笑顔だ。
タロは作った甲斐があったな、と満足した。
そして、今度は三人で作ったハンバーグである。
タロとネイはナイフとフォークを使って、ハンバーグを一口サイズに切り分けて口に運ぶ。
それを真似してティアも同じように食べて見せた。
タロとネイはティアの感想を聞く為に、敢えて何も言わない。
「……今まで食べたお肉の中で一番美味しいよ!」
ティアがこの日一番の笑顔を見せると、タロとネイもその笑顔につられて笑顔が漏れた。
「ティアさん、私も初めて食べる味に感動してしまいました!」
ネイがティアに賛同した。
「確かに、以前作った時よりも、美味しいよ。──きっと、三人で作った料理だからかもしれない」
二人に賛同すると最高の調味料は一緒に作った事だろうな、と気づくタロであった。
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