第26話 三人で雑貨屋へ
タロとティア、そして、服を乾燥させて着替え終えたネイの三人は、何でも揃う村の雑貨屋さんにまた、訪れていた。
今回もいつも通り店番をしている女性マーサであった。
「いらっしゃい。タロさんと、ティアちゃん。そっちのべっぴんなエルフさんはお友達かい?」
マーサは遠慮する事なく質問した。
「はい。うちに住む事になったので、身の回りの物を揃えようかと思いまして」
「あら、そうなのかい? なによー、タロさんも隅に置けないわね! でも、ティアちゃんがいるんだから控えめにしなさいよ? うふふっ」
マーサは近所のおばさんらしく茶化すのであった。
「あははっ。そんな関係じゃないですよ。以前住んでいたところで少し関りがあったんですが、数日前、偶然出会ったのでその縁でうちに住む事に」
「そうなのかい? まぁ、偶然でも縁は縁さね。大事にしなさいな」
マーサはそう言うとネイの為に色々見繕ってくれた。
それにしても、店内に無い欲しい物も、マーサに聞くと奥から出てくるのだから、この雑貨屋は本当に何でも屋であった。
「エルフさんに合う服かい? これはまた、難しいわね。こんな美人さんだと村の娘が着るようなデザインの服では似合うかどうか……。そうだわ。今その美人さんが着ている服の同じものを数着作ろうかい? 今着ている服はぴったり合っているし、都会のデザインって感じがするわ」
何でもあると思われた雑貨屋にネイに似合う服は無いというが思わぬ提案をされた。
「出来るんですか!?」
「出来るわよ」
マーサは親指を立てて答えた。
「それではお願いします」
「手頃な価格で作る代わり、服のデザインや縫製技術は盗ませてもらうわよ?」
マーサはニヤリと笑って答える。
なるほど、田舎の雑貨屋は都心の技術をこうやって吸収するのか。
タロは感心すると、「もちろんOKです。それではお願いします」と承諾するのであった。
「じゃあ、一時、その服を預かるから、その代わりにこの服を貸すわ」
マーサは、奥からネイのサイズに合いそうな服を出して来て渡した。
ネイはその場で服を脱ぎ出そうとした。
「ちょ、ネイ! ここで着替えちゃ駄目だって! マーサさん、奥の部屋貸してくれますよね?」
「はははっ! せっかちなエルフさんだね! 奥で着替えて頂戴な。それと下着はその今見えた感じのでいいのなら、奥にあるから持ってくるわね」
マーサはそう言うとネイを連れて奥に引っ込んでいく。
え? あの紐みたいな下着も、ここのお店置いてるの!?
タロは、絶対エロい意味ではなく、本当にこのお店に置いていないものはないのではないかと内心驚くのであった。
「タロ、イヤらしい顔してる」
ティアがタロを見上げて指摘した。
どうやら、エロい意味もあったようだ。
「ティア、勘弁して……。そうだ、この後、お肉屋さんに寄ろうか魔法収納に備蓄していたお肉も底をついてるから」
「やったー! お肉ー!」
ティアは万歳して喜びを全身で表現した。
よし、誤魔化せた!
ガッツポーズをするタロ。
そこに、ネイが着替えを終えて奥から戻って来た。
村でよく着られている地味目のワンピースであったが、豊満なボディのネイが着ると胸の辺りが協調されて厭らしく映るから不思議なものである。
「胸の辺りが窮屈だが、服が出来るまでの我慢だな」
ネイはそう言うと、マーサにお礼を言って、精算を済ませた。
「はいよ、お釣り。服は二日後に取りにきなさいな」
「タロさん、これを見てくれ。下着は可愛いのが多くて悩んだのです」
ネイは買い物袋から下着を取り出してタロに見せる。
ネイは喜びを誰かと分かち合いたいだけなのだろうが、相手は男のタロである。
「う、うん。可愛いから、人前では出すの止めておこうか。他の村人の目の毒になるし」
タロは頬を赤らめて目を逸らし下着を片付けさせるのであった。
そして、ティアが喜ぶ肉屋さんに三人は向かった。
通りの数軒横だからすぐであったが、表に新鮮な肉は並んでいない。
表に並んであるのは少しの干し肉だけであった。
「いらっしゃい。──おお! なんだい、その美人さんは!」
肉屋の店主はタロの後ろにいるネイに釘付けになる。
エルフ自体が珍しいのであろうが、村にはいないタイプなのだろう。
それに胸が強調されてしまっている地味なワンピースとネイのギャップにも肉屋の主人の性癖を刺激したのかもしれない。
「あの、お肉は何がありますか?」
「……え? ──ああ、肉か? それがなぁ(チラッと奥を見る素振りを見せる)。最近大きな地震があっただろう? あれのせいで近くの獣がほとんど森から逃げて取れなくてな。鳥はホロ鳥が数羽獲れたんだがすぐに売れちまった。残っているのはうちで処理しようかと思った、捌いた時に出た切れ端だけなんだよ」
「ガーン!」
ティアが分かり易いリアクションでショックを受けている。
ティアはやはり竜の化身、肉は大好物だったからそのショックも大きいようだ。
「その切れ端のお肉を売ってもらえませんか?」
「別にいいが、普段なら処分しちまうような切れ端だぞ?」
「上手く調理してみます」
「そうかい? じゃあ、わかったよ、待ってな」
肉屋の店主は奥に引っ込むと肉を紙に包んで持って来た。
「それではこの干し肉も一緒に」
タロは、店主の計らいで安くしてもらい、精算を済ませるとティアの手を取ってお店を後にするのであった。
「タロ、料理大丈夫?」
ティアが今晩の食事の心配をした。
「ああ。何とかしてみるよ」
タロはティアの心配そうな顔に笑顔で答えるとネイと三人。帰途に就くのであった。
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