第25話 エルフの感覚?
ネイとは、自分とティアの二人を何と呼ぶかでかなり揉めた。
どうしても敬称で呼びたいネイに対し、こちらは同居する一員として親しく呼んで欲しいからだ。
だが、ネイは頑として聞かないのであった。
話し合いの結果、「タロさん」と「ティアさん」で、妥協してもらう事にした。
「くっ……、命の恩人である二人をさん付けとは……。しかし、確かにタロ様、……さんの言う通り、周囲から不審に思われてもいけないのも事実……。私の我が儘でした、すみません」
「いいんだよ。本当はさんづけもいらないくらいだけどね?」
「ティア、ネイが一緒なら全然構わないよ」
ティアは一緒に暮らせるとわかって満面の笑顔だ。
「そうだ。ネイは今までどこに泊まっていたの? 荷物はいい加減こちらに持ってきなよ」
タロが、小さい革袋一つのネイに早速うちに引っ越す様に促した。
「? 私の荷物は短剣と弓矢、あとはこの革袋一つですよ?」
「え?」
「ちゃんとお金は入っています」
「ええ!? ──ネイ、僕達に会うまでの間、どういう生活していたの?」
「? ほとんどは森で野宿です。お金は食料がどうしても調達できず、空腹が耐えられなくなった時だけなのでほとんど使う事もないですから、この革袋一つで十分ですよ、変ですか?」
「……替えの服とか下着とかも必要じゃない?」
「それは着ているものを脱いで小川で洗い、半日も干していれば乾くので、それまでは裸で──」
「ちょ、ちょっと、もういいから!」
タロはこのサバイバーな美女エルフのその姿を想像しそうになったから説明の途中で止めに入った。
「はぁ……。──ネイ、それじゃあ、今日は僕の服を貸すからそれを着て今着ている服は洗濯しようか」
「わかりました。タロ様、……さん」
ネイはそう言うとその場で服を脱ぎ始めようとした。
「ま、待ってネイ! 男の人の前で服を脱いじゃ駄目!」
どうやらネイは、エルフという性への関心がただでさえ薄い族性の上に、呪いのせいで性的な事は苦痛でしかない事を刷り込まれているので、男性の視線も気にならない程に羞恥心に欠けているようだ。
「いいかいネイ? 僕達はこれから同居人になるけど、僕は男だし、君は呪いが解けてそういう事にも今後興味を持っていく事になるであろう妙齢の女性だから不用意に裸にならないでくれると(僕の精神衛生上的にも)助かるよ」
「……なるほど。確かに呪いが解けたから、そうなのかもしれない……。それは盲点でした! 以後気を付けます!」
ネイはそう答えると、タロから服を受け取り、自分の部屋へと戻っていくのであった。
「……これは思った以上に大変な生活になるかもしれない……」
タロは美女と同じ屋根の下、正気を保てるか不安になるのであったが、ティアもいるからそこは死守しないといけない。
タロはこれから最大の戦いを常に強いられる事になるのかもしれないのであった。
「よくわからないけど、頑張れ、タロ」
ティアは小さい拳でガッツポーズをして見せるのであった。
華奢な体形のタロの男物の服を着たネイはそれだけで十分強力な見た目であった。
元々、胸が大きめだからタロのシャツでは胸がきつそうに谷間は強調されるし、男物のシャツ姿というギャップからも、タロには完全に目の毒であった。
「……ネイの服を洗濯し終えたら、全力の風魔法で死ぬ気で乾燥させよう……」
タロは悲壮感溢れる姿でそう誓うのであった。
タロは下着の方はネイ自身に洗濯してもらいつつ、服を必死になって洗い、『竜の守人』としての全力で風魔法を使用し、乾燥させるのでった。
「凄いな、タロさんは! 私は呪いが解けてもどうやら風魔法は苦手のままのようだから、助かります」
タロの必死になっている姿を少し疑問に思いながらも、自分の服を乾かしてくれる姿に素直に感謝するネイであった。
「う、うん。──ところでネイにはまだ、聞きたい事があるのだけど……」
タロはネイに視線を向ける事無く質問した。
「なんであろうか? 何でもお答えしますよ」
「どうやって、あの山麓まで辿り着いたのかという事です」
「……それならご安心を。私の家系は呪いの原因からか、ドラゴンの存在についてはとても過敏というか近くにいれば予兆を感じるようで、ひと月近く前にティアさんが卵から
「他のエルフ達にはない能力という事?」
「はい。祖父が私の幼少の時に亡くなる直前にそう言っていました」
「……なるほど。それなら、僕達を察知する人は他にいないと思っていいのかな?」
「ドラゴンの誕生に気付くのは、伝承通りなら『竜の守人』だけです。私は呪いのせいで特殊だったみたいですが」
「そっか……。それなら安心かな? ──この服が乾いたら、三人でネイの着替えでも買いに行こうか。君用の雑貨も必要だろうし」
「わかりました。──タロさん、私の下着も乾かしてもらっていいですか?」
ネイが面積が小さい二つの布をひらひらと振って見せた。
「それはほっといてもすぐ乾くから!」
タロは顔を少し赤らめるとそっぽを向いて答えるのであった。
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