第24話 新たな?

 ティアは自室の毛布の上で横になっていた。


 そして、目が覚めると傍にタロが横で寝ている。


「タロ?」


 ティアが小さい手でタロの顔に触れると、タロがゆっくり目を覚まし、ティアが起きているのに気づくと目を見開いた。


「ティア! 良かった、目を覚ましてくれたんだな……」


「?」


 ティアの感覚では熟睡して目が覚めた感覚であったから、タロが心配げに自分を覗き込んでいる事が理解出来なかった。


「ティア、ネイの呪いを解こうとしたのは覚えているか?」


「……うん。覚えてる」


「その後、ティアは気を失って丸三日寝たままだったんだ」


「ティア、三日も寝てたの?」


 ティアはビックリとばかりに目を見開いてタロに聞き返した。


「ああ、だから僕も気が気でなかったよ……。でも、目が覚めて良かった……。そうだ、体は何ともないか?」


「うん! ティア、大丈夫!」


 ティアは元気よく答えた。


「そうか、良かった……。これで一件落着だな」


「はっ! ティア、ちゃんと出来てた?」


「呪いの事かい? ああ、ティアが寝ているこの三日の間にその効果が出て来て、びっくりしていたところだよ」


 タロが、ティアに答えていると、一人のエルフが入って来た。


「誰?」


 ティアが首を傾げてそのエルフを見上げた。


 そのエルフはよく見ると、ダークエルフのネイに似ている気がした。


 ただし、髪の色は金髪、目の色は緑色、肌も白い。


「私だ、ティア様。ダークエルフのネイだ。どうやら、呪いを掛けられる前の私の一族はエルフだったようだ!」


 確かに声を聞くとネイのようだ。


 ティアはそれだけでも驚きだが、それはつまり呪いが解けたという事がはっきりわかる証拠であった。


「呪いが解けて良かったね」


 ティアは傍に跪いた金髪のネイの頭を撫でる。


「……ありがとうございます、ティア様……。このネイ、一生を捧げてティア様とタロ様にお仕えします……!」


 ネイはそう言うとボロボロと涙を流して感謝した。


「ネイ! だからそれは良いって何度も言ってるじゃない!」


 ティアが寝ている間に、何度もタロが言われていたのだろう、ネイの言葉を注意した。


「いえ、お陰様で私の一族は助かりました。元は我が家系の先祖が犯した罪ですから、一族を代表して呪いを解いて頂いた恩に報いるのも私の務めです。それにお二人は目立たずに生活したいとか。私がその手助けをしたいと思います」


 ネイは是が非でも二人の役に立ちたいと思っている様子だった。


「いや、君がいると逆にややこしくなりそうだから……」


 タロが心配するのも仕方がない。


 ダークエルフ時のネイは、禍々しい色気漂う美女であったが、呪いが解けて本来のエルフの姿に戻ったネイも黙っていれば清楚系の美女に見えなくもない。


 口を開くと脳筋系エルフっぽいが、その見た目はやはりスタイルの良い美女である事に違いはないから、まだ十八歳童貞であるタロには何かと目の毒なのだ。


「呪いが解けたお陰で一族の本来の力にも目覚めたみたいです。伝承では元々、ドラゴンと対峙する事もあった一族らしいのでティア様、タロ様をお守りする事も十分できるかと思います!」


「それは心強いのだけど……。それよりも君は一族に呪いを解いたという報告が先じゃないの?」


「それは自分の姿と呪いの刻印の消滅を確認すれば一目瞭然でしょう。皆の者も今頃、私と同じように見た目から変わっている事と思います。それで充分です。それに、呪いが解けた原因を一族に知らせればティア様とタロ様の存在が広まる危険もあります。それなら私はこのままお二人の傍にいる方が外部に情報が洩れる事が無く良いかと思います」


 ネイの言う事ももっともであった。


 脳筋に見えてしっかりと分析が出来ている。


「……ティア、どうしようか?」


 タロは、ティアの意思を聞いてから判断する事にした。


 相棒であるティアの意見は優先させたい。


「ティアは、ネイ、好き。タロも好き、ね?」


 ティアはタロの心を察する事がやはりできるのだろう、タロ自身が、ネイに対して好感が持てる女性であると思っている事を感じたのだ。


「……うーん。嫌いではないけど……。ネイは本当に僕達と一緒で良いの? 一族には恋人や家族もいるんじゃないの?」


 タロはその確認だけはしておかないといけないだろうと、踏み込んだ質問をしてみた。


 答えの内容によっては自分達の事を口止めして帰ってもらう事も考えないといけない。


「それなら大丈夫です。先祖の事もあり、一族で私は鼻つまみ者です。それに、私の家系は呪いの事もあり、私で最後です」


「え?最後?」


 タロは最後の意味が分からずに聞き返した。


「母は、『一族の呪いを解く為にのみ生きなさい』と、言い残して私を出産して亡くなったそうです。父も、子作りの際に亡くなっていますし、兄妹はいません。私の家系は私の代で終わりなんです」


 寂し気な表情で答えるネイにタロはそれ以上何も答えられなくなった。


 ネイの家系は先祖の罪を償う為だけに生きてきたのかもしれない。


 それは壮絶なものだったろう。


 呪いの効果が効果だけに子孫を少しでも残して一族が滅びる時を少しでも稼いで呪いを解こうとするだけでも大変だったはずだ。


「……それなら呪いが解けた今、ネイは自分の人生を歩んでいいんじゃないの?」


 タロは、もう呪いに縛られる事がないはずのネイに問いかけた。


「呪いを解いて貰った代償は払うべきです。お二人にその代償を払うのは私の家系の最後の生き残りである私の役目です」


 この子は、まだ呪いに縛られている。


 そう思うタロであったが、それなら一緒に生活してその呪縛から解いて上げるまでが真の意味でのこちらの仕事かもしれない。


「わかったよ。それではネイ。君は僕達と一緒にこの家で生活しよう。部屋は今、使っているところね。あと、僕とティアの事を様付では呼ばないで」


「──ありがとうございます! それではこれからはお二人を主と呼ばせて──」


「それも一緒だから!」


 タロはネイの答えを最後まで聞かずにツッコミを入れるのであった。

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