第23話 呪いの原因
翌日、ダークエルフのネイはまた、森から現れるとタロとティアの元で跪いた。
「お願いです。我々ダークエルフ一族の呪いを解いて頂きたい! 五百年越しの悲願なのだ!」
そう言うとネイは頭を下げる。
「ネイさん……。確かにあなたのご指摘通り、この子は竜の化身です。そのティアとも昨日話したのですが、この子はまだ子供であなた方のその呪いとやらを解くほどの力はないそうです」
「そ、そんな……。ですが、成長すれば呪いを解ける……、ということですよね?」
「ティア、大きくなるの時間掛かるよ?」
「……呪いを解ける程に成長するにはどのくらい時間が掛かるのでしょうか?」
「うーん……。百五十年くらい?」
「そ、そんな……」
ネイはショックを受けてうなだれた。
「あの。ダークエルフに掛けられた呪いとは一体どういうものなのですか?」
「それは……、ダークエルフ一族の間でも口外厳禁なのだが……、そうだな、説明無しに呪いを解けとお願いする私が失礼だった。……実は、五百年前にドラゴンによって掛けられた呪いは、私達のほとんどの能力の封印と子供を作る為の行為が死と隣り合わせになった事なのだ……」
「能力の封印は想像ができますが、子作りが死と隣り合わせとは一体……?」
「文字通りですよ。私達は長命な一族。ですがこの呪いによって、その行為そのものがあまりの痛みにショック死する事もある程です。それを覚悟して、愛する者との間に子を宿す事が出来たとしても出産は命懸けです。ほとんどの女性ダークエルフはこの一度か二度の出産で命を落とします。その為、この五百年でダークエルフの人口は大幅に減少し、絶滅の危機に陥っています……」
確かに現在のドラゴニア王国内のダークエルフは希少なくらいその数は少ない。
だが、国が信奉するドラゴンに呪いを掛けられたのは五百年前に大罪を犯したからだと言われているから、同情される事も無く卑下される対象でしかなかった。
「ちなみに、ドラゴンからかけられた呪いの原因はなんでしょうか?」
タロは、そんな非道な呪いを掛けられた理由を知りたくなった。
「言い伝えでは……、浮気……、だそうです」
「え?」
「私のご先祖に当たる女性のダークエルフが、竜の化身と交際していたらしいのですが、それにもかかわらず、ご先祖様が同族と浮気した為、呪いを掛けられた……、そうです……」
ネイはご先祖がやらかした恥ずかしさと、絶望感からうなだれながらそう告白した。
……余程そのダークエルフが好きだったのかな当時のドラゴンは……。でも、その為にそんな呪いは酷だ……。
「もししかして、口外厳禁というのは、それを恥じてということですか?」
「……はい。そんな事で滅びゆく一族は恥でしかないと、五百年もの間、口外厳禁に……。全ては私の先祖のせい。だからこそ、私の家系は同族の為にも命を掛けて呪いを解かなくてはいけないのです……。ですが、あと百五十年……、ですか……。それでは今、適齢期の者達は愛する者との間に子供を作る為に死を覚悟しなくてはなりません……」
タロはかける言葉がなくなった。
呪いの理由は、安易なものであったが、呪いの内容は、残酷過ぎた。よくぞここまで滅ばずにいたものだと思わずにはいられない。
きっとダークエルフの女性達は一族が滅ぶのを避ける為に、文字通り命と引き換えに子供を産んで来たのだろう。
想像以上の深刻な呪いにタロは思わずティアの方を見た。
「タロ、ティア、呪いを解いて上げたい……」
ティアはタロのズボンの端を握ると、見上げて言った。
「……いいのか? ティアの卵の欠片はもう……」
「……ティア、助けたい!」
ティアはタロがこの目の前のダークエルフを助けて上げたいと思う気持ちを察したのだ。
タロの望む事はティアの思いでもある。
そのタロの深く思う強い気持ちがティアにはとても大切なのだ。
「……よし。──でも、ティア。ティアには呪いを解く事で負担はないのかい?」
「竜の卵の欠片あれば、ティア、負担ない、大丈夫」
ティアは答える。
これでも、銀色のドラゴンは歴史上でも珍しく、その力はとてつもなく強いと言われている。
そのティアでも解けないのは、その呪いが強すぎるからであったが、それも自分の生まれた卵の欠片を使用して解けば、問題はない。
「……ネイさん。これからティアがあなた方に掛かった呪いを解いてくれるそうです」
「え!?」
ネイは思わぬ言葉に衝撃を受け、次の言葉が出てこなかった。
その代わりにタロが言葉を続けた。
「もし、呪いが解けなかった場合、逆恨みはしないと約束して下さい。さらに呪いが解けた場合、この事はあなた方一族内での秘密にして下さい。あなた方一族ならお判りだと思いますが、ティアはドラゴン最後の生き残りだと思います。だから、大きな騒ぎにして今後生きにくい世界にしたくはありません」
「も、もちろんです……! 呪いが解けるのであれば、どんな条件を付けてくれても構いません! いえ、先祖の無礼を考えると私の家系はティア様に生涯お仕えする事を今、ここで誓います……!」
ネイの目は本気だ。
もしかしたら、ネイの家系はダークエルフの中でも、さらに迫害されてきた可能性もある。
ネイは先祖の犯した罪を一身に背負っているのかもしれない。
ネイの真剣な言葉にたじろぐタロであったが、ティアは、自分の魔法収納から卵の欠片を一つ取り出して呪いを解く準備は万端であった。
「ティア、ネイの体を通して、呪い解く」
タロの代わりにそう答えるティア。
「お願いしますティア様……!」
ネイはもうすでに、泣きだしていた。
一族の五百年に渡る呪いが解かれようとしているのだ。
ネイが背負ってきた重い責任も今、取り除かれるかもしれない。
それを思うとネイは涙を流さずにはいられないのであった。
ティアは、前触れもなく家の裏庭でタロの傍で、ネイ達に掛けられた呪いを解き始めた。
ティアの手の平にあった卵の欠片が光り出す。
それは空中に浮かび、その光は昼間にも拘らず、より神々しく輝き、タロとネイの視界を奪った。
二人があまりの眩しさに目を逸らした瞬間であった。
卵の欠片が音も無く砕け散った。
ティアは、それを見届けるとその場に倒れるのであった。
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