第20話 お風呂タイム
その日の夜。
タロはやっと湯船に張った大量の水を熱魔法で適した温度に温め、ティアと一緒にお風呂に入る事にした。
「ティア、お風呂に浸かる前に、体を洗うぞ」
タロはそう言うと、桶に入れておいた、薬草屋で購入した薬草の入った布の袋を別の桶に入った水に軽く浸けるとそれをティアの背中でゴシゴシする。
そうする事で泡が出来てそれで頭や体を洗えるのだ。
「タロ、泡がいっぱいだよ!」
ティアは目を輝かせてキャッキャと喜ぶ。
「頭も洗うから目に泡が入らない様に目を閉じているんだぞ?」
タロがそう指摘すると、ティアは素直に目を閉じる。
指先でゴシゴシと頭を洗われているティアは、
「気持ちいいねぇ~♪」
と満足そうだ。
するとタロは少し遊び心が出て来た。
泡でティアの頭に角を付けて見せた。
もちろん、ティアは目を瞑っているから気づかない。
「ティア、目を開けて鏡を見てみな?」
お風呂に設置しておいた鏡の前にティアを連れて行きそう告げた。
「あっ! ──ティアに白い泡のお角が生えてる! 面白い!」
ティアは興奮気味に鏡を見て自分の姿を確認し、喜んだ。
タロを見上げた拍子にその角がふにゃっと折れたから、ティアはすぐにショックを受けるのであったが、タロがまた泡で角をパワーアップして、一本から二本にしてあげた。
「二本になった! タロ、お風呂って楽しいね!」
ティアは満面の笑みを浮かべて初めてのお風呂に感動するのであった。
「ティア、お風呂はこれからだぞ」
そう言うと、タロは湯桶にお湯を汲むとティアの頭からお湯をかけ、泡を全て流す。
「タロ、お角さんが全部流れちゃった……」
またもショックを受けるティアであったが、タロはそんなティアを持ち上げて湯船に入れた。
「ほら、ティア。お風呂はこうやって湯船に浸かってゆっくりするのが醍醐味なんだぞ」
そう言いながらタロは一緒にお風呂に入ると、「あ゛ー」という心の底から漏れる声を出して肩まで浸かる。
それを見たティアも「あ゛ー♪」と言いながら、マネして入った。
二人はゆっくりリラックスした表情でしばらくの間、何も言わずに湯船に浸かっていた。
そして、
「ちょっと照明魔法を消してみるか……」
とタロは、室内を照らしていた照明魔法を消し、お風呂の灯りを大きな窓から覗く満月の灯りだけにしてみた。
「……タロ、お風呂、気持ちいいね」
そこでティアが大きな窓に手を掛けて満月を見上げながら感想を漏らす。
「……そうだな。久しぶりにゆっくりできた気がするよ。ここまで長かったなぁ」
タロはティアに賛同すると、王都以来となるお風呂に色々な思いを込めて嘆息した。
タロには激動の数か月だったのだ。
いや、十八年間、激動の日々であったかもしれない。
そして、今、ティアと出会えた事でこんなにゆっくり出来るのは初めてだった。
期待され続け、見切りを付けられ、冷淡にあしらわれ、役に立たないと罵倒された日々を思い出す。
ドラゴニア王国を出国するまでの旅の最中は、誰にも気づかれないかと冷や冷やする思いだったし、クサナギ王国に入国してからは知らない国に緊張もした。
そして、この村に移住して日も浅い。
ティアとは長年の友人であるようにお互いがお互いを必要とし、相棒として対等な関係でいられる。
そんな二人が裸でゆっくり湯船にゆっくり浸かっているのだ。
これ以上リラックスできる時間はないだろう。
「ティア、お風呂大好き!」
「これからも時々用意して入ろうな。さすがに毎日は準備が手間で難しいけど……」
タロとしては二人で毎日入りたいところではあったが、何度も井戸から水を汲み上げるのは時間が掛かり過ぎるから、鍛冶屋のロンガに頼んだ手押しポンプの試作品が出来るまでは我慢なのであった。
「タロ、体、ポカポカだね!」
ティアはお風呂上り、体の底から温かくなっている事に感想を漏らした。
夜は山からの風が冷たいくらいであったが、その風もポカポカの体には丁度いいくらいだ。
タロはそこに牛の乳から搾ったミルクの入ったコップをティアに渡す。
「良いかティア。左手は腰に添えて、両足は肩幅まで広げて、ミルクを飲むんだ」
「うん!」
ティアはタロに言われるがまま風呂上がりのミルクの正式な飲み方をレクチャーされるのであった。
「美味しいね!」
ティアは口元にミルクで出来た白いひげを付けて感想を漏らす。
「ぷはー! うまい!」
タロもミルクを飲んで口元を白くして感想を言う。
「ぷはー、美味しい!」
ティアは残りのミルクを飲み干すと、タロの真似をして再度感想を漏らすのであった。
「そうだな。やはりお風呂上がりの一杯は最高だな。──それじゃあ、今日は早めに寝て明日に備えようか」
「明日は何をするの?」
毎日が楽しみで堪らないティアはワクワク顔でタロに聞く。
「明日のお楽しみだよ。はははっ!」
タロはティアの笑顔に癒されながら、お布団を敷いてティアに寝るように促すのであった。
そんな二人のやり取りのある家を森の木陰から探りを入れている影があった。
「……きっとあれが、探し求めていたもののはず……」
影の人物はそう漏らすと、森の中に消えていくのであった。
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