第19話 竜の卵の欠片

 タロとティアの二人は森で腐葉土を魔法収納に大量に収納したのだが、ふとタロの方はある事が気になった。


「ティア、地下の神殿からこの森まで上がって来たんだよな」


「うん、そうだよ」


「その地下神殿は今どうなっているのかな?」


 タロはティアの十八年の記憶を共有していたが、直近の記憶の方は定かではなかったのだ。


「地震で埋まってしまったよ。ティア、急いで崩れる中、ここまで飛んできたの」


「あ、やっぱりのあの落石の合間を凄い勢いで通過している記憶は飛んでいたからなのか!」


「うん!飛んでみる?」


 ティアがこともなげに聞き返した。


「いや、誰が見ているかわからないから、ドラゴンの姿に戻るのは危険だよ。前にも言った通り、この世界でドラゴンは五百年前に滅んだと記述されているから、ティアの存在がバレると大騒ぎになりかねないからね」


「わかった! ティア、ずっと秘密にする!」


 ティアは自分の守護者であり相棒であるタロに全幅の信頼を寄せているから、素直に頷くのであった。


「一応、ティアが抜け出してきたところまで行って穴が塞がっているか確認してみようか」


 タロはそう言うとティアを肩車して、木の枝や葉っぱがティアに当たらない様に配慮してタロは森の中を疾走していくのであった。


 前回見に来た時は、山の斜面が地滑りを起こして森の傍まで土砂が崩れていたのだが、その跡は今も残っていた。


 タロは肩車にティアを乗せたまま、軽々とその土砂を飛び越え、安全と思える足場を選んで移動していく。


 自分でも驚きだが、ティアと出会えた事で身体能力は全面的にアップしているようだ。


 馬鹿力ばかりだと当初は思っていたのだが、体が身軽だし体力も華奢な体からは想像もつかない程上がっているのが、色々な作業をする中でさすがのタロも気づいていた。


「ティア、僕の力はティアから離れると落ちたりするのかな?」


 タロはふと疑問に思った事を聞いてみた。


「タロは『竜の守人』。ティアの傍にいて欲しい」


 ティアは肩車された状態でタロのおでこを小さい手でペシペシと叩きながら言った。


「痛い、痛い! ──もちろん、傍にいるよ。でも、ほら、何があるかわからないだろう? その時距離があったら力が出なかったりするのかなって。知っておかないといざという時、対応できないだろう?」


 タロはティアあっての能力だと思うからこそ、万が一の事を考えたのであった。


「離れ過ぎると良くない。だから傍にいる」


 ティアはそう言うと甘えるようにタロの頭に抱きつく。


「ああ、もちろんだよ。僕とティアは相棒だからね」


 タロは笑ってティアの背中を軽く擦ると、ティアの指差す斜面まで駆け上がるのであった。



「ここが、ティアがいた地下神殿までの道があった場所?」


 タロはティアに確認した。


 そこには、道というよりはただの洞穴があり、その洞穴も上から崩れてきた土砂に半ば埋もれていた。


「うん。ティア、小さな隙間を飛んで地上に出たの!」


 ティアは、タロの肩車の上で両手を広げて飛ぶ素振りをする。


 確かにティアの言う通り、タロが共有したおぼろげな記憶にもそんな映像は残っていた。


 ティアも必死だったから記憶が定かではなかったのだろう。


 共有したタロにもそんな感情が残っている。


「それじゃあ、人が地下神殿まで到達する事はないのかな」


「元々、地下神殿に出入り口無かった。ティア、だから十八年間ずっとそこにいたの」


 ティアはちょっと沈んだ表情になる。


「そうだったね。それなら大丈夫かな。ティアの卵の殻、残りがあるなら回収しておいた方が良いかなと思ったのだけど」


「殻はティアが持ってるよ。でも、後は二欠けらしかない」


 ティアはそう言うと、その両手に一瞬で卵の殻を手にしていた。


「魔法収納がティアは使えるんだね? それは大事にしまっておきな。悪用されたら問題だから」


 タロが注意するのも仕方がない。


 ドラゴンの卵の欠片はあらゆる特殊な武器や防具、薬や道具の素材になるのだ。


 王家が所有する国宝級の物のほとんどにそのドラゴンの卵の殻が使用されているのだ。


 ドラゴンが絶滅して五百年もの時間が経過しているので、ほとんどの道具などは魔力が切れ、壊れて使い物にならないらしいが、伝説級の素材であったのは確かである。


 だからこそ、王国は『竜の守人』の紋章を持って生まれたタロに期待したのだ、伝説の復活だと。


 タロは誰よりも深くドラゴンについて調べていたから、その殻の価値をよくわかっている。


 ティアが生き残る為の食事として殻を食べていたのはある意味良かったのかもしれない。


 自分がそれを手にしていたら、欲に目が眩んでいたかもしれないのだ。


 今も、二欠片だけティアが持っているが、それだけでも欲しい人間、国家は沢山あるはずだから怖いアイテムではあったが、ティアが持っておくなら一番安全だろう。


「その欠片はティアの為だけに使いなよ」


 タロにそう言われると、ティアは自分の魔法収納に片付けるのであった。


「タロ、欠片で色々作れるよ」


「そうらしいね」


「秘薬も作れるよ」


「秘薬?」


「寿命を延ばす薬、人を生き返らせる薬も」


「!……それは、絶対秘密にしておこう。本当に誰かに知られると危険だ」


 タロは、ティアに口止めをすると念の為、土魔法で洞穴を完全に塞いでその場を後にするのであった。



 その二人が去っていくところを岩陰で見ていた者がいた。


「……」


 フードを目深に被ったその人影は二人を追うように山を急いで下りていくのであった。

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