第18話 荒れた畑も復活してみる

 タロとティアは家でやる事がまだいっぱいあった。


 まず、裏庭は雑草を刈り綺麗にしたが、この家には畑も付いていた。


 丁度、お風呂を設置した石造りの小屋の窓からその畑を見渡せるのだが、その光景は必ずしも綺麗なものではない。


 というか、長年放置されていた畑となると荒れているのが当然で、雑草が生え、土は痩せ、表面はカチカチに固まっている。


「ティア、今度は畑を綺麗にしたいのだけど何か案はあるかい?」


 タロは畑の惨状を見て、ティアに協力を求めた。


「雑草を刈るだけじゃダメなの?」


 ティアが、タロを見上げて首を傾げる。


「畑は作物を育てるところだから、雑草も刈らないといけないけど、土自体を耕さないといけないんだよ」


「タガヤス?」


「そう、耕す。土を掘り返して、農作に都合がよいように土を柔らかくするんだ。何か出来ないかな?」


「うーん……。多分、出来るよ!」


 ティアは少し考える素振りを見せるといつものように親指を立てて見せた。


 ティアの案はタロの使える魔法、風と土の応用であった。


 土魔法で、地中の泥の塊を突き上げ、空中で風魔法で切り刻む。


 すると土に空気が入り柔らかくする事が出来るというわけだ。


 早速、タロはティアに教えられた通りに土魔法で地中の泥の塊を空中に突き上げ、すかさず風魔法で切り刻んでいく。


 これを連続して行うと雑草ごと刻んで土に返っていくから一石二鳥であった。


 タロは慣れてくると、徐々にその規模も大きくしていく。


 最初は泥の塊も五十センチ範囲だったのが、一メートル範囲になり、慣れてくると最後は数メートル範囲の塊をこの要領で、耕していく。


 タロはこれを普通の感覚で行い、ティアも当然のようにそれを見守っていたが、他人から見れば、それはとんでもない事を行っている。


 しかし、誰にも指摘されない事から気づかないのであった。


 一時間程この作業を行っていると、かなりの広い範囲の畑を耕す事に成功していた。


「あとは、肥料かな」


「ヒリョウ?」


「そう、肥料。この畑はずっと長い間放置されていたから、土が痩せているんだ。だから何かしらの肥料を土に混ぜて土地を肥えさせないとね」


「どうするの?」


 ティアはタロが何をするのか楽しみになって来たのかワクワクしていた。


「そうだな……。今、出来る事と言ったら、ここの傍には森があるし、そこから拝借するかな」


 そう、森には腐葉土がいくらでもあるのだ。


 それを利用しない手はない。


 もちろん、腐葉土には多くの菌が含まれていて畑に必ずしも向いてるとは限らないが、その解決は容易だ。


 タロの魔法収納バッグに一度収納すればいい。


 収納バッグには微生物は収納できないからその時点で排除できるのだ。


 タロはこれらの知識も王都の若い平民農学者から学んでおり、あまりに斬新な知識に王都では理解されず、埋もれていたものであったが、タロはここでその知識を信じて活用する選択をした。


 早速、タロはティアと一緒にその知識を実践すべく、森に向かうのであった。



 森は数日前の大きな地震が原因でやはり静かであった。


 鳥は少し戻って来ていて、鳴き声が頭上からちらほらと聞こえるが、地上の獣は鳴き声も気配も感じない。


 今考えると小さいとはいえ、地震を起こす程の竜であるティアの存在を恐れて逃げてしまったのかもしれなかった。


「獣が戻ってこないと猟師さんも困るって言ってたな」


 タロは、ティアの存在が生態系を狂わせる事になるのではないかと少し心配した。


「大丈夫だよ。ティア、タロと会えたから『竜の加護』でこの地を豊かにするの」


 ティアはタロの心配を理解したのかそう指摘した。


「ああ! 書物で読んだ事があるよ。そうか……、数百年前の書物だからどこまで信じて良いのかわからなかったのだけど、本当に『竜の加護』って、あるんだな……!」


 タロが知識としてだけ知る、とうに滅んだ数百年前の竜に関する知識は伝説や寓話である可能性のものが多く、ほとんどは当時の迷信であると、最近の学者の中では当然のように語られているのだ。


 その証拠の一つにタロの存在が上げられていた。


 タロが紋章を持って生まれた事で、紋章が実在したと当初、伝説が事実であった事が騒ぎになり、ドラゴン伝説真実説を唱える学者が勢いを持ったのは確かだった。


 しかし、タロがずっと伝承の通りに力を発揮しない事、ドラゴンが滅んで五百年以上経っている事などから、また、疑念は再燃した。


 その為、タロの紋章は何の効力もないただの痣であり、当時の人々が伝説上の強力な生物であったドラゴンに結び付けて盲目的に崇拝したという専門家の説が盛り返したのだ。


 王家はそんな伝説にすがろうとする程、国の先行きに危機感を持っていたのだろうが、タロが使えない事に絶望して最後は無関心になっていた。


 タロが当てにしてクサナギ王国に来た伝承も、数ある伝説の中でも最も信憑性がない説の一つとして専門家の間では相手にされていなかったから、いかにタロが絶望の淵ですがりつくようにこの地を訪れたか、わかるというものであった。


「ティア、小さいけど『竜の加護』は強力だから安心だよ」


 そう言うとティアは、自分の小さい体を大きく見せようと腰に手をやり胸を張った。


「今でもティアは僕を絶望の淵から助けてくれた立派なドラゴンだよ」


 タロは笑顔で答えるのであった。


「ティアもタロに会えて良かったよ。ずっと寂しかったもの!」


 ティアもそう答えると満面の笑みを浮かべる。


 タロは「そうだな、僕も寂しかったから良かったよ」と答えると、ティアに与えてもらった土魔法で森の腐葉土を一気に浮かせると魔法収納に回収していくのであった。

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