第16話 失敗もあるよね
裏庭と井戸を綺麗にしたタロとティアは、次はお風呂作りに着手する事にした。
これが出来れば、この数日、生活魔法で桶に溜めた水を利用してそれを湿らせたタオルで体を拭くという日課からおさらばできるのだ。
タロにとっては貴族時代の贅沢であったが、ティアにとっては初めての事だろうから、そのお風呂の良さを味合わせて上げたかった。
まずは湯船をどうするかだ。
石を積み上げ隙間を粘土で塞ぎ、表面を火魔法で焼いて作るか?
それとも、樽を作る要領で大きな木製のものを作るか?
他に考えられる方法と言うと、土魔法を使えれば、湯船の形に岩を生成してしまう事も可能だろう。
「ティア?」
タロがこの小さい頼れる相棒に事細かに説明して自分に土魔法が可能かどうか確認した。
「出来るよ!」
ティアはタロの説明に元気よく頷くと一言そう答え、親指を立てて見せる。
その言葉に早速、ティアが地面に枝で土魔法の魔法陣を描いていく。
タロはそれを凝視して頭の隅にしっかり記憶する。
そして、大地から魔力を吸い上げるような魔力の流れを感じてそれを手に集中。
脳裏に土魔法の魔法陣を描きつつ、発動する魔法の明確なイメージを持って、詠唱するというのが、ティアの説明からタロが結論付けたやり方であった。
「よし、じゃあ、もう一度、やってみる」
何度目かの失敗の後、タロは集中する為に目を閉じ、イメージを具体的に思い浮かべる。
「お風呂生成!」
タロがそう唱えると、地面から岩がせり上がり、お風呂の形に出来上がっていく。
「よし、今度は上手くいった!」
タロは満足する声を上げた。
「タロ、これがお風呂?」
ティアは石造りの小屋いっぱいに出来た四角い箱型の湯船を見て首を傾げる。
思ったよりも単純な出来にイメージが湧かないようだ。
「これにお湯を入れていっぱいに満たしてそれに浸かるんだ。それはもう、天国さ。そうだ、この小屋の壁に穴を空けよう。外を眺めながらの方が絶対気持ちいいだろうし」
そう言うと、タロはその馬鹿力で簡単に石造りの壁に穴を空け、木材で窓枠を作り、粘土で隙間を埋めて完成させた。
「うん。これで後は、お湯を──、ってお湯はどうしようか? 貴族時代はお抱えの魔法使いに熱魔法で温めてもらっていたけど……」
またもタロはチラッとティアを見る。
「出来るよ!」
今回もティア、小さい体をのけ反らせて胸を張り親指を立てて見せた。
タロはティアから今度は熱魔法についての講義を受ける。
脳裏に魔法陣を描く事をもちろんの事、今回の説明は体内の魔力を溢れさせるイメージなのだそうだ。
それを手の上で集中させて球体に生成し、水に放てば、大丈夫なのだという。
土魔法で物を形作るコツは掴んでいたので、球体にするくらいは容易であった。
ちなみに、これは攻撃魔法としても使えるそうだから、使用は十分気を付けないといけないのはよく理解出来た。
タロはそれならば、水魔法も使えるかもと思い、ティアに聞いてみた。
「タロ、氷魔法には適性あるけど、水魔法にはほとんど適性無い」
「氷魔法? そんな特殊な方に適性があるのに一般的な水魔法には無いのか……。それなら仕方ないな……。自力で汲み上げるか!」
タロは苦笑すると開き直り、早速、綺麗にした井戸から水を何度も汲み上げては、作り上げたばかりの湯船に入れていく。
これが地味に大変であった。
タロはティアのお陰で華奢に見えても力だけは怪物級であったから、井戸から水をくみ上げる作業自体は苦ではない。
しかし、汲み上げる為の桶が小さいから大きな湯船に水を一杯にする事自体が大変だったのだ。
「お風呂の大きさ、もう少し、小さくするんだった……」
そう後悔しながら、タロは一杯入れ、二杯入れと地味に繰り返し、何百杯目だろうか? あまりに何度も水を汲み上げている間に日も落ちて来て、夕暮れで一帯がオレンジ色に染まった頃、ようやく湯船一杯に水が溜まった。
「……よし。これでようやくお湯が沸かせる!」
タロは、熱魔法に集中した。
水の量が多いから相当な魔力が必要だろう。
きっと、ミスったら、ぬるま湯になってしまうから、熱めになるようにしよう。
タロは色々と考えながら脳裏に魔法陣を描き、右手の手の平に球体の魔力を練り込み、それを湯船に向けて飛ばした。
熱魔法の球体は湯船の水に吸い込まれて行く。
次の瞬間、
ジュウウウウウウゥゥゥゥ!
という音と共に、石造りの小屋の室内が水蒸気で白くなる。
大きな窓からはその水蒸気が引っ切り無しに漏れていく。
「「熱い!」」
タロとティアは二人して高温の水蒸気に慌てふためき、室内から飛び出し避難するのであった。
幸い、二人は火傷する事は無かった。
それは運が良かったのか、それとも火傷しない強い耐性を持つ体なのかはわからなかったが、二人共怪我がなかったので、そこまで考えが思い至らないのであったが……。
しばらくすると水蒸気が晴れてきた。
「これはお湯が相当熱くなっているかもしれないとけど、水を足せば大丈夫だろう」
とタロは、安易に湯船を覗いて見た、すると……。
「水が無くなっている!?」
そう、タロは自分の魔力のさじ加減がわからず、大きな湯船の水を全て蒸発させてしまう程の熱魔法を使用していたのだ。
「タロ、魔力を込め過ぎた」
ティアが原因を指摘する。
「……そっか。魔力の込め過ぎか……。──ティア、残念ながら今日も体は水タオルで拭く事になるけど、我慢してくれるかい?」
タロは申し訳なさそうにそう答えるのであった。
「ティア、タロと一緒だから大丈夫!」
ティアは笑顔で答えると、人差し指で照明魔法で夕闇の庭を照らし、タオルを取りに家へとパタパタと駆けていくのであった。
「明日はちゃんとお風呂に入れて上げるからね!」
そんな健気なティアの後姿にタロは二度と失敗しない事を誓うのであった。
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