第13話 続・村デビュー
雑貨屋で買った物を魔法収納バッグに収めると、店番のマーサがそれに驚いていたが、そのままお店を後にした。
お店を出ると、まず、生活魔法で水を出してティアの足の裏を洗い、魔法収納バッグからタオルを出し綺麗に水を拭き取る。
そして早速、革の靴を履かせた。
「タロ、足がムズムズする」
裸足で十八年間過ごしてきたティアには、革の靴でも違和感があり過ぎるようであったが、これも慣れの問題だろう。
しばらくはこれで生活してもらうしかない。
「次は材木屋のダッチさんに会いに行こうか」
タロが、履きたての革の靴で周囲を走り回るティアに声を掛ける。
「ダダッチ?」
「ダが多いぞ、ティア」
タロはティアの間違いを指摘する。
「ダダダッチ?」
「ダが増えてるから! ──わざと間違えているだろ?」
ティアは、いたずらっ子みたいに笑うと、タロと手を繋ぐのであった。
二人は材木屋に到着すると、ダッチが店内の作業場で何か作っていた。
「ダッチさん、こんにちは」
「おお! タロとティアちゃんじゃないか! 会いに来てくれたのか? ──ああ、うちの息子に合わせる約束していたんだったな。上の子はハクと言って九歳、下はロック、六歳だ。──おーい! ハク! ロック! 表に回って来い!」
ダッチの声が裏庭まで響き渡る。
「「はーい!」」
裏から元気そうな男の子の声が聞こえてきた。
少しすると木の靴のコツコツと地面に触れる音をさせながら、男の子が二人現れた。
ダッチは黒髪の短髪で目も黒色なのだが、息子達もダッチに似たのか黒髪に黒色の瞳を持つ兄弟であった。
「なぁに。父ちゃん!」
と九歳のハク。
「わっ! 変な髪の色してる奴がいる!」
と六歳のロック。
「先にお客さんに挨拶だろうが! それになんだ、失礼な事を言うな、馬鹿野郎!」
ダッチはそう言うと、ロックに拳骨を落とす。
「痛いよ、父ちゃん!」
ロックは涙目になりながら、ダッチに言い返し、初めて出会うティアを見た。
「僕はタロ、こっちはティアって言うんだ。この村には来たばかりだから、これからよろしくね」
タロが自己紹介をする。
「ハクです!」
「……ロック」
兄弟二人はそれぞれタロに挨拶した。
「しつけがあんまり行き届いてなくてすまんな、タロ」
ダッチが子供の代わりに謝る。
「いえ、十分ですよ。──二人共うちのティアと仲良くしてくれるか?」
タロがティアの背中を軽く押しながら、二人に聞く。
「はい!」
とハク。
「……変な色の髪」
とロック。
二度目の髪色の指摘にティアは、タロを見る。
そして、
「ティア、この子、嫌い」
と、ティアは顔をほのかに赤くすると、はっきりそう答えた。
ティアにとってこの銀色の髪の色は、自慢であった。
魔法でタロの髪は黒色にしているが、本当は銀色の髪である事をティアの目は見破りわかっていたからこそ自慢だったのだ。
タロと同じ色の髪の色が大好きなのに、この子は変な色の髪だと二度も言うのだからティアが嫌いと言うのも仕方がない事であった。
「コラ、ロック! ティアちゃんに謝れ!」
ダッチが怒って再度拳骨をロックの頭上に叩き込む。
「だから痛いよ、父ちゃん!」
再度の拳骨にまた、頭を押さえる。
「お前が悪い! 自分の髪色を変だと言われて傷つかない女の子がいるか!? ティアちゃんに謝れ!」
「……ごめんなさい」
ロックはまた拳骨を食らいたくない一心で、ティアに謝った。
「……」
ティアはそれがわかるのか、何も言わずにタロを見つめる。
「ティア?」
タロは許して上げろと言っているのがわかった。
ティアは、タロの気持ちを察すると不服そうながら無言で頷く。
「すまんな、俺も親として謝らないといけない。そして、うちの子を許してくれてありがとうな」
ダッチはそう言うと、ティアの頭を撫で、感謝するのであった。
「仲直りもした事だし、今度からはティアと遊んでくれるかい?」
タロがハクとロックにお願いする。
ハクはすぐに、「はい!」と返事をし、
ロックも下を向きながら、「……はい」と答えるのであった。
こうして、ティアの村デビューはまずまずのものになった。
お友達が出来たとは言い難いものであったが、ティアに同年代の知り合いが出来ただけでも良しとしよう。
タロは、ティアの手を握って村外れの自宅までゆっくり歩いて帰る。
そこへ丁度、美人母娘の母の方のステラが二人を見つけて声を掛けてきた。
「こんにちは、タロさん、ティアちゃん。こっちに来ていらっしゃったんですね。どうですか村の方は?」
「あ、こんにちは、ステラさん。今日は雑貨屋さんで買い物と、材木屋のダッチさんにお子さんを紹介してもらいました」
「ああ、あそこの息子さんはどちらとも良い子ですよね」
この狭い村では知らない者はいないのだろう、ハクとロックを褒めた。
「ロック君の方はちょっと、ティアにいじわるでしたが、あの年齢の子は女の子に対してああいう態度は仕方がないのですかね」
と苦笑いでタロは答えた。
「あら、そうでした? うちのアンナにはとても親切な子なのですけど……」
ステラが首を傾げて見せた。
ロック君、ダッチさんと同じ年上好きかだったのか!
タロはここで初めて、ロック六歳が親と同じ年上好きである事を看破するのであった。
「ははは……。そうですか、うちのティアも将来は美人になると思うのですが……。そうか、……性癖には勝てないか」
タロは最後の部分はぼそっと小声でつぶやく。
「え? 何か?」
ステラは聞こえなかったのか、聞き返してきた。
「いえ、ロック君も親であるダッチさん似だなと思っただけです、はい……」
タロは言葉を少し濁して誤魔化すと、苦笑するのであった。
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