第12話 村デビュー
新居の補修作業が大工のダッチの協力で一段落した翌日。
ティアに村デビューをさせる為、二人で村へと向かっていた。
ティアはその小さい体に合った短い足でタロの横をトコトコと早足で歩く。
最初、タロはティアの歩調に合わせようとも思ったのだが、ドラゴンであるティアは体力的には全く苦では無いから見た目に反して遅れる事はなかった。
「タロと、手を繋ぐ」
ティアがタロを見上げて小さい手を伸ばした。
「ああ、いいよ」
タロが左手を伸ばし、ティアの小さい右手を掴む包み込むように握る。
ティアそれだけで嬉しいのか、横でスキップしながら歩くのであった。
二人は村に到着した。
ティアにとっては多くの人がいる場所は初めてである。
とはいえ、そこまで多いというわけでもないのだが、ティアには十分な人の数である。
ティアの村デビューにはいくつかの目的があった。
ひとつはティアの服と靴である。
服はタロの上着をワンピースのように着ている状態であり、足は裸足であった。
もちろん、ドラゴンの化身であるティアには靴など履かなくても全く支障は無いのだが、美人母娘ステラとアンナに注意されていたのである。
だから、村にある雑貨屋兼何でも屋のお店にティアに合う服を買いに来たのであった。
もう一つは、村の子供達と引き合わせる為である。
ティアは生まれて十八年経つが、見た目は四歳児だし中身もまだ、見た目通りの幼さである。
確かに四歳児にしてはしっかりしている方だし、ドラゴンとして生まれ持った知識も備わっているのだが、見かけ的に年が近い子供達の友達が必要なのではないかとステラとアンナ、それに大工のダッチに指摘されて思ったのであった。
「ティア、まずは、服と靴を探しに雑貨屋さんに行こうか」
「ティアの服? 今のじゃダメ?」
ティアは今着ているタロの匂いがする服がお気に入りであった。
「それはサイズが合っていないからなぁ。今日はティアに似合う、可愛い服を買おうか」
タロはティアの格好を見て苦笑すると、頭を撫でて抱っこした。
裸足のまま歩かせているのが申し訳なく感じたのだ。
そして、そのまま、お店に入る。
「すみません! 誰かいますか?」
店内に人がいなかったので、タロは室内の奥の部屋に聞こえる様に声を掛ける。
「はーい! ちょっと待ってね。今、おしめを替えている最中だから! ──よーし、これで大丈夫ね? べろべろばー! ちょっと待ってるのよ~」
奥から赤ちゃんをあやす声が聞こえてくると、女性が一人奥から出て来た。
「ごめんなさい。主人が今出かけてて。──あら? 初めてみる顔。ああ、最近、村の外れの家を買った人ね? あと、子供も拾ったって聞いたけど、その子がそう?」
「はい。初めまして。僕はタロ、この子はティアと言います。この子の服と靴が欲しくて来たのですが、丁度いい大きさのものありますか?」
「あたしは、マーサよ。うちのお店は何でも屋だから欲しいものがあったら何でも聞いてね。──その子の服と靴ね? ──あるわよ」
店番をしていたマーサは店内の棚のひとつに向かうと、いくつかの積み上げられた服を取り出し、それらを広げて確認する。
「服はこれと、これが大きさ的に合うかもしれないわね。ただ、藍色だから地味だけど、ティアちゃんだっけ? その銀髪と赤い瞳が目立つから、服は地味なくらいが丁度いいわよ」
ともっともらしい理由をつけて、タロにおんぶされているティアに藍色のワンピースを当てて、大きさを確認した。
タロは子供のそれも女の子の服については全く分からなかったから、ティアに聞いてみる事にした。
「ティア、これでどう?」
店番のマーサが広げるワンピースをじーっと見ていたティアだったが、「タロが良いならこれ着るよ」と、頷いた。
ティアもあまり服の事はよくわかっていないのだ。
「じゃあ、これを下さい。あと同じ大きさのものがあれば、それも数点お願いします」
タロはティアの大きさに合う服は数が少ない上に地味なものしか置いていないので、まとめて買う事にした。
「はいよ! 毎度あり。後は靴だね?」
マーサは店の奥に引っ込むと、両手に靴を持って戻って来た。
そこには小さい木の靴と、革の靴を手にしていた。
「今は、この二種類さね。木の靴は丈夫だけど、重いから小さい子には、最初の内は大変かもしれないわ。革の靴は履き心地、歩きやすさどちらもいいけど、すぐに傷んで駄目になるわ。革の材質によっては、丈夫なものもあるのだけど、うちで扱っているのは、今、安い物だけだから」
「うーん……。──では革の靴の方を」
履き心地が悪いものは、ティアが嫌がって裸足になる未来が視えたタロは、革の靴を即決した。
「あいよ。他に必要なものはあるかい?」
「それでは──」
タロはこれまで食器類などは、一人分しか魔法収納バッグに入れていなかったから、この機会にと、ティアとお揃いの食器類を買い揃える事にした。
「タロとお揃い!」
ティアはタロと一緒の食器類に喜ぶのであった。
ティアはタロの抱っこから降りて店内を物色して回り始めた。
全て初めて見るものばかりだから、タロに「これ、何?」と、聞いてくる。
その度にタロは丁寧に答えて教えた。
店番のマーサはそんな二人を微笑ましく見守る。
「あんたら本当の親子みたいね。何か似ている気がするわ。まあ、あんたもまだ若いから、子供がいる年齢でもないだろうけどさ。はははっ!」
マーサの言葉は十分な褒め言葉であった。
「親子ではないですが、立派な相棒です」
タロはそう言うと、ティアを左腕で抱っこし直し、右手でティアとハイタッチする。
「ティアはタロの相棒!」
ティアも満面の笑みでマーサにそう答えるのであった。
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