第10話 大工さんと二人

 美人母娘ステラとアンナが食後帰っていくと、それと入れ替わるように、材木屋の店主であるダッチがタロとティアの様子を見る為か、尋ねてきた。


 その手には大きな取っ手付きの箱が握られている。


「よう、二人共! やってるか?」


「ダッチさん、こんにちは! どうしました?」


 丁度タロが室内の扉を作りあげて、室内に運び込もうとしているところで振り返り、違う来客に思わず聞き返した。


「どうしたも、こうしたも、昨日の今日だぞ? 二人の様子くらい見に来るだろう。お嬢ちゃんの様子はどうだい?」


 ダッチがティアの様子を確認しようとチラッとティアを見た。


 ティアはまた、ステラ達が訪問した時と同じように、タロの背後に移動してダッチの様子を窺っている。


「昨日会ったのに、俺はまだ警戒されているのか?」


 ダッチは苦笑いする。


「ティアは、人見知りするだけです。昨日はダッチさんがいた時はほとんど寝ていましたから仕方がないですよ。はははっ。──昨日会ったおじさんの一人だぞ、ティア。良い人だから大丈夫。挨拶しな」


 タロがティアの頭を撫でて挨拶を促した。


「ダダッチさん、こんにちは!」


 ティアはタロの後ろからヒョコッと顔を出すと、左手はタロのズボンの裾を握ったまま元気よく挨拶した。


「こんにちは。『ダ』が一つ多いぞ、お嬢ちゃん。かわいい子だな、はははっ!」


 ダッチは自分の家には男の子しかいないので、女の子のティアを余程気に入ったのか、顔を綻ばせると嬉しそうに答えるのであった。


 タロは挨拶のできたティアを褒めて頭を撫でると、ダッチに視線を送る。


「ああ、そうだった。木材を大量購入してもらったし、このお嬢ちゃんの様子の確認と合わせて大工仕事の手伝いをしに来たのさ。さすがにまだ、補修作業は時間掛かるだろう?」


 ダッチはそう言うと手に握っていた箱から金槌やノコギリなどの大工道具を出し始めた。


 タロはこの申し出をどうしようか少し困った。


 というのも、作業はティアの指導もあって魔法で効率よく出来ていたし、その作業風景をダッチに見せて良いものかと思ったのだ。


「なんだ、迷惑だったか?」


 ダッチもそれを感じたのか道具を出す手を止めた。


「いえ、本職の手を借りるのは気が引けるなと思ったので」


 タロは嘘も方便と、ダッチに気を遣ってそう答えた。


「なーに、辺境の村の大工だ、大した事はねぇさ。とっとと補修作業終えてお嬢ちゃんとゆっくりしたいだろ。──って、その扉、あんたの自作か!? なんだよ、すごくいい出来じゃないか!」


 タロが自分で作って室内に運び込もうとしていたドアに目を止めるとダッチは目を見開いて驚いた。


「本当ですか? 本職であるダッチさんに褒めて貰えると嬉しいなぁ」


 タロは褒められ慣れていないから、評価されて素直に嬉しかった。


 その様子をティアも見て一緒に胸を張って喜ぶ様子がまた、かわいい。


「これは参ったな。本当に俺が出しゃばる必要がなさそうな出来だ……。まさか、この村では大工をするつもりかい?」


 ダッチは同業者が現れたかもしれないと、確認して来た。


「いえ、この村で何をするかはまだ、あまり考えていませんが、他の方の職を邪魔するような事はやらないつもりでいます。ステラさんにも少し相談しましたが、今は忙しい人のお手伝いが出来ればな、と」


「……なるほどな。何でも屋ってやつか? それをやるのには体力や、器用さ、力なんかも求められると思うが、大丈夫かい?」


 ダッチはタロの華奢な姿をちょっと心配そうに見た。


「先日までなら駄目だったかもしれませんが……、今はティアのお陰で大丈夫です」


 タロはティアの頭に手を置くと力強く答えた。


 これは文字通りの言葉だ。


 ティアの名付けによる契約が結ばれて、体力や力は自分でも底がわからないくらいにはパワーアップしている気がする。


「……そうか。守る者が出来る事で強くなるって事はあるよな。俺も最初の子が生まれた時は無限の力を得た気がしたなぁ……。その分、責任もアップしたけどな? わははっ!」


 ダッチはタロの言う意味を、保護者としての精神的な意味と解釈して納得するのであった。


「タロ、強い。ティアもお手伝いするよ!」


 ティアは、タロの傍で小さい手を握り締めてガッツポーズをして見せた。


「そうか、ティアちゃんもお手伝いするのか。それは心強いな!」


 ダッチは健気なティアを見て、自然と笑顔がこぼれた。


 そして、「では、とっとと作業してしまおうか! 俺は裏に回って補修が必要なところを確認してくるわ」と、告げると裏に駆けていく。


「よし、ティア。僕達も室内の補修をやってしまおう!」


「うん!」


 ティアはそう答えると、タロが運ぼうとしていた扉を片手で軽々と持ち上げる。


「ティア、みんなの前でやっちゃいけないぞ。絶対驚かれるから」


 ティアが、小さい体に似合わず、タロと同じように力持ちである事は、補修作業の手伝いと称して作業するタロに木材を渡してくれた事から発覚していた。


 最初、タロも魔法を使っての木材の加工に集中していたので、気づかなかったのだが、軽々と次から次にティアが木材を手渡してくれるから、二度見する程に驚いたものだ。


「わかった!」


 ティアは素直だ。


 元々お利口だし、頭もいい。


 ただ、生まれてから十八年もの間、地下神殿に閉じこもっていたから、外の情報を知らないので本能に刷り込まれた知識以外は常識外れではある。


 それも、タロを観察して一つ一つ着実に学んで常識を身に付けつつある。


 ステラとアンナの母娘の所作も真似して学んでいたし、本当に学習能力は高い。


 タロはそんな相棒で保護対象であるティアが可愛くて仕方がないのであった。

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