第6話 夢か現実か?
新居の補修を行ったその日の深夜。
タロは宿屋の一室ですっかり疲れて熟睡していた。
すると、夢か現実かタロはいつの間にか新居からドラゴニア王国との国境線になっている山脈の麓の深い森を歩いていた。
「あれ? なんでこんなところを……? 夢……、なのか?」
タロは自分の息遣いと草木をかき分ける手の感触のリアルさに困惑する。
ただ焦るように無意識に歩き続けていると、森を抜けて広い空間が現れた。
木々の間を抜けてその中心に光が注いでいる。
そこには一匹の小さい一見すると銀色に輝く蜥蜴の魔物に見えるものがいた。
さらによく目を凝らしてみるとその背中には羽が生えている。
これは魔物ではない、もっと神々しい何かだ。
タロの心臓はそれに反応して激しく脈打つ。
「竜の守人」を証明する紋章のある左胸が熱くなる感覚がある。
タロは思わず右手でその紋章のある左胸に手をやった瞬間、夢から目覚めた。
「今のは……? 夢だけど、あまりに現実的な……。そして、僕が探し求めていたものだった気がする……。あれがもしかして……、──ドラゴン?」
タロは現実としか思えないリアルな夢に汗をびっしょりかいていた。
そこへ、
ゴゴゴゴゴゴ……。
部屋が揺れ始めた。
地面が揺れている!?
タロはベッドから起き上がると窓を開けて外を見る。
村人達も深夜の地揺れに驚いて外に飛び出してくる者が多い。
タロも同じように外へ出ようと部屋から廊下に出ると、宿屋の女将と丁度鉢合わせになった。
「あ、お客さん。落ち着いて荷物を手にして外に出て下さいな。いつものより今回のは大きいから」
女将はそう言うと、他の部屋に泊っているお客の部屋をノックして避難を呼びかけるのであった。
タロは、荷物を手に外に出ると、ようやく揺れが収まった。
「今回は結構揺れたな!」
「最近多くなっていたが、何かの前触れかもしれないぞ」
「何も起きなきゃいいがな……」
村人達はそう口々に何かの天災の前触れかもしれないと気にした。
そして、自分の家へと戻っていく。
「女将さん、最近地揺れが多いんですか?」
「そうさね……。ここ二十日くらい前から急に揺れ始めたわ。今まで無かった事だから、みんな災いの前触れじゃないかって噂してるけど、どうなんだろうねぇ?」
二十日前と言えばタロが道に迷ってこの村を訪れ、引き返して首都に向かった頃だろうか?
どうやら、入れ違いで地揺れが起きるようになったようだ。
先程の夢といい、この地揺れといい、タロの胸は何とも言えない高揚感で高鳴るのであった。
一夜明け、宿屋で出される食事を早々に済ませる。
そして、今日も新居を補修する為に出掛けようとしていると、表が少し騒がしくなっていた。
タロが外に出てみると、村人達が集まって点呼を取っていた。
「どうしたんですか?」
タロが女将に声を掛ける。
「昨夜の地揺れが大きかっただろう? 村の周辺に異変が起きていないか確認する為に、人を集めて森や山の麓の方を巡回するのさ」
女将が親切に答えていると、
「お? あんた! タロって名前だったよな? あんたの魔法収納は便利だから村に馴染む一環だと思って俺達に付き合ってくれないか?」
と前日、家の補修の材料を購入した材木屋の店主が声を掛けてきた。
タロは正直自分の新居が気になっていたから、どうしようかと悩んだ。
「もちろん、まずはあんたの家から確認しに行っていいぜ? それで被害がなけりゃ俺達に付き合ってくれ。それに確認後、補修の手伝いもしてやるからさ!」
材木屋の店主は交換条件とばかりに提案した。
そこまで言われると断るわけにもいかない。
今後この村で生きていく為にも村人の間に波風を立てたくはない。
「──わかりました。そういう事ならば手伝います」
タロは頷くと材木屋の店主をリーダーとした五人編成の中に入ると、新居のある村外れへと向かうのであった。
新居は、無事であった。
あちこち傷んでいたから、もしかしたらと心配であったが、意外に元が丈夫な作りみたいだ。
「……一通り見てみたが、無事そうだな! 大丈夫、大工の俺が言うんだから間違いないぜ!」
材木屋の店主兼、大工はタロの新居を仲間達と一緒に見て回って確認すると、そう保証した。
タロの見た目からも大丈夫そうだったし、大工でもある店主の言う事なら十分信じていいだろう。
「それでは今から森に入る。みんな得物から手を離すなよ。タロ、あんたも得物はあるか?」
店主の手にはお手製の槍が握られている。
槍と言っても木の棒の先に大工道具のノミを括りつけているだけなので心配になるところではあったが……。
他の者も、同じく木の棒に包丁を括りつけている者、鎌を持っている者、こん棒を手にしている者もいる。
タロは、魔法収納バッグから、一振りの質素な剣を取り出した。
旅の途中で購入したものだが、使う機会がなかったから、購入後初めて取り出した。
「「「「おお!」」」」
村人達はそのタロに歓声を上げる。
「そんなに剣が珍しいんですか?」
タロは村人達の反応に困惑した。
「違うよ。そのバッグだよ!」
「本当にいきなり物が出てくるんだな!」
「こいつはすげぇぜ!」
村人達は口々にタロのバッグを褒める。
あ、こっちか!
当然の事ながらタロは人生において期待はされど、ほとんど褒められる事のない人生であったからバッグが褒められただけでも持ち主としてちょっと嬉しいのであった。
タロと村人達は森に入って進む。
最初は固まっている一行だったが、大きな地揺れの翌日だからか、森は静かで落ち着いていた。
近くの獣や魔物は危機を感じてどこかへ逃げ出してしまったのかもしれない。
「猟師には悪いが、大きな地揺れのお陰で森から獣や魔物はいなくなっているみたいだな」
材木屋の店主が安堵して周囲に漏らす。
「はははっ! 確かにこの分なら、これから当分の間は村に魔物が出る事も無いだろうな!」
「「そうだな! はははっ!」」
村人達は店主の冗談に付き合うと一緒に笑うのであった。
それからは確認の為、村人達は大きく横一列に広がって森を進んで様子を窺ってみたが、何にも遭遇する事がなく山の麓までやってきた。
そこには大規模な土砂崩れの後があり、この辺りが地震の震源だったのかもしれないと思われる惨状だった。
「さすがにここから先は行かない方がいいな、危なそうだ。ある程度確認できたし、引き返そう」
店主がそう提案するとみんな賛同し、帰りも横一列に広がって戻るのだった。
タロは一番左側に広がって戻って森を引き返していると、何か見覚えがある木や草が視界に入って来た。
それとともに激しく心臓が鼓動を打つ。
これは、夢? いや、現実のはず……!
タロは夢の中で見た景色と同じ草木に何か激しく突き動かされると、走って奥へと分け入っていく。
そして夢に見た通り、その先には広い開けた場所があり、木々の間から日差しが中央に注いでいる。
その先には、夢で会った小さい銀色に輝くドラゴンがいた。
タロは夢なのか現実なのか区別がつかないままその小さいドラゴンに躊躇する事なく駆け寄るのであった。
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