第5話 お家の購入
タロは美人母娘ステラとアンナの案内で村で普段利用するであろうお店や場所を把握する事が出来た。
最初、ステラには、うちに泊まるように誘われたが、聞けば夫とは死別して母娘二人っきりと言うから、そこは遠慮して村唯一の宿屋に数日泊まる事にしたのだった。
宿泊している間に、改めてステラに村長を紹介してもらい、そこで永住目的である事を伝え、空き家を譲ってもらう交渉をした。
ステラは自分達を盗賊から救ってくれた時に、タロが大金を失った事を知っていたので、生活費の心配をしたがその点は大丈夫だった。
タロの全財産は盗賊に渡した革袋二つどころではなかったのである。
だからステラ母娘には、まだ、持ち合わせがあるので大丈夫ですよ、と答え、村長から村外れの空き家を紹介してもらった。
「村の中にも空き家はあるのにこっちでいいのかい?」
村長は、タロが物好きにも村外れの物件の方を見たいと希望した事に呆れていた。
「はい。広い家の方がいいので」
タロの言う通り、村の中にある空き家と比べると、この外れの空き家の方が格段に広く申し分ない。
だが、タロはまだ若いし、独り身である。
村長から見るとここまで大きな家が必要とも思えないのだが……。
「あ、まさか、君。ステラ母娘と一緒に住む気か!?」
村長は、疑惑を口にした。
「え? ち、違いますよ!? そんな関係ではないですから。はははっ! ただ単に、色々と作業したり設置したいものがあったりするので広い家の方が良かったんです」
「本当かい? ステラさんはこの村一番の美人だからなぁ。未だに彼女に言い寄る男は多い。この村に来たばっかりでステラさんと噂になったら住みづらくなる可能性もあるから気を付けた方がいいぞ?」
村長は村内の人間関係にも気を遣っているのかタロにアドバイスした。
「はははっ! わかりました。確かにステラさんは美人で優しい人ですが、僕が不釣り合いな事くらいは理解してますよ」
タロは笑って村長を安心させるように答えるのであった。
「ならば良かった。実は君がこの村に来た時からちょっと噂になっていてな。村の男どもが少し騒いでいたんだよ。そういう意味では外れにあるこの家は君に合っているかもしれんな」
村長は、納得すると家の中を案内する。
「部屋の数は一階に四部屋。二階に二部屋だ。外には倉庫兼作業場があるし、裏庭にも小さい石造りの小屋が一つと井戸もある。表には薪を入れておく為の小屋があるのは最初に見たと思うが……、本当に一人でこの家でいいのかい?」
村長は部屋の中を簡単に説明していくとタロに再度確認する。
やはり、広いから持て余すのではないかと思ったのだ。
「気に入りました。ここでお願いします」
タロは迷う事無く即決した。
そして、値切りつつ、一括で支払うのであった。
タロはすぐにもこの新たな住居に移り住みたいところであったが、長い事使われていなかった事から傷んでいるところもありそうで、調べてみたところ、補修が必要だと判断した。
幸いタロは、十八年の間に自分に出来る事を色々と身に付けていたから、簡単な大工仕事は出来ない事もない。
タロは早速、村にある材木屋に足を運ぶ事にした。
「いらっしゃい。うん? 見ない顔だな。あんたもしかしてステラさんを狙っているとかいう余所者かい?」
材木屋の店主が明け透けにそんな質問をした。
「そんな噂が広まっているんですか? 別に狙っていませんよ。ここに来る途中、馬車が一緒になったのでその誼で村の中を案内してもらっただけです。それに年齢差を考えて下さい、はははっ!」
タロははっきりと笑い飛ばして否定した。
ここではっきりしておかないとまた、変な噂が広まりそうだからだ。
「そうなのかい? 確かにあんたまだ若そうだな。──十八? じゃあ、ステラさんの良さはまだ、わからないのかもなぁ!」
材木屋の店主は妙に一人納得するのであった。
タロはそんな店主を急かして木材を一通り売ってもらった。
「家は村の外れだろ? 午後からなら運ぶの手伝ってもいいぞ?」
「いえ、僕にはこれがあるんで」
と、タロはバッグを軽く叩いて見せた。
「?」
店主はタロが何を言いたいのかわからないようだ。
「それでは、お見せしますね」
タロはそう答えると、購入した木材を魔法収納付きバッグに一瞬で収納して見せた。
店主は目を丸くすると、タロとバッグを交互に確認した。
「そ、それって魔法収納ってやつかい!? 初めて見たよ……。聞いた話じゃあ、店で作ってもらう際に登録した本人以外使えないっていう一点物なんだろう? 結構な値がするとも聞いてはいたが、本物を目にするのは初めてだ!」
店主はまだ、驚きが収まらない。
「自分の住んでいたところでは結構持っている人は多かったんですけどね」
タロはそう答えながらも侯爵家からの手切れ金の一部で購入したバッグだったから、本当は持っている人が多いというのは嘘に近い。
確かに持っている者はドラゴニア王国の王都では多かった。
だがそれは、貴族や商人などで大枚を叩かないと作れない魔道具であった。
「あんたどこの出身だい? ドラゴニア王国? ……なるほど、あの大国ならあり得る話なのか……? まぁ、良い物を見せてもらったよ。それじゃあ、大工が必要な時は呼んでくれ。うちはそっちもやっているからな」
店主は商品代金を一括で受け取ると、ホクホク顔で愛嬌を振りまき、タロを見送るのであった。
タロは家に戻ると、早速、掃除から始めて、その後、補修を行おうと思ったのだがお昼になったので、先に昼食でも取るかと思案を巡らしていた。そこへ、ステラ母娘が簡単な食事を用意して訪問して来てくれた。
「タロさん、食事の用意がないかもしれないと娘のアンナが急かすので持ってきました。一緒にどうですか?」
ステラが家の前で材木の山を前に立っていたタロに声を掛けた。
その心遣いに、
確かに、こんな美人に気を遣ってもらえると歳が離れていても心揺らぐかもしれない……。
と、タロは材木屋の店主の言葉が初めて少し理解出来る気がするのであった。
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