第3話 駆け引き

 盗賊達はタロの言葉を、信じかけていた。


「もう一度、何か持っていないか調べてみろ!」


 リーダー格の盗賊が、他の盗賊に命令する。


 盗賊は言われるがまま、タロの身体検査をしてまた確認した。


「何も持ってない。やっぱりハッタリだぜ!」


 盗賊がリーダー格の盗賊に報告した時だった。


 タロの右手の先には小金貨が一枚握られていた。


「!? どこから出しやがったこいつ!?」


 盗賊はタロの指先から金貨を取り上げると本物か確認する。


「ほ、本物だ! ──この野郎、まだ、あるなら出しやがれ!」


 盗賊は、剣先をタロに突き付けた。


「だから、あんた達のお頭が来たら渡すって言っているだろう?」


「ど、どうする、ガゼ。こいつ、本当にまだ持っているかもしれないぜ?」


「馬鹿野郎、俺の名前をここで呼ぶんじゃねぇよ! ──本当にさっき同様、金の入った袋がまだあるんだな?」


 リーダー格の盗賊ガゼは、タロを値踏みする様に見た。


「ああ、そうだ。みんなに手を出さず、そちらの首領が戻って来たら渡そう。あんたはそれを見抜いたと言えば手柄になり、いくらか特別報酬が貰えるだろう?」


 タロは交渉に応じそうだと安心して取引条件を確認した。


「……いや、やはりこいつの身ぐるみを剥いでしまえ。きっと、こいつの持ち物に仕掛けがあるんだ。それは後で見つければいい。そして、俺達はそこの母娘も頂いて良い思いをするのさ!」


 交渉成立間際と思われたが、盗賊ガゼは、ニヤリと笑みを浮かべるとタロの思惑を見抜いたとばかりに他の盗賊達に命令した。


「──そういう事だ! とっとと服を脱げ、そのバッグも投げて寄越しな」


 盗賊達は全員の身ぐるみを剥ぐべく、乗合馬車の乗客達に剣を突き付け命令する。


「それだと、本当に追加のお金は手に入りませんよ?」


 タロはまた、盗賊ガゼに進言した。


 そして、タロは続ける。


「僕とあなたとの間に契約が交わされれば支払えますが、出来ないと身ぐるみ剥いでも何も出て来ませんよ? では、試しにひとつ僕と約束してみて下さい。──例えば、これから言う事についてと誓ってみて下さい」


 ガゼは妙な自信を持って話すタロに引き込まれた。


「約束を守る、だと?」


「ええ、誓えますか?」


「(約束は反故にすればいいだけか……)よし、約束を守ろう」


 すると、次の瞬間、タロの右手の指先に小金貨が一枚現れた。


「なっ!? 小金貨が現れた、だと!?」


「ね? 今、僕と約束した事で、報酬に小金貨が一枚現れました。身ぐるみ剥いでも一緒と言ったのは、こういう事だからです」


 タロは淡々と自分には何かの能力があるかのように、ガゼに説明した。


 だがこれは全てただのハッタリであった。


 まず、バッグは魔法収納付きのもので、これはバッグの持ち主にしか使えないものだから、他人が調べてもただのバッグでしかないのだ。


 そして、小金貨はそこから取り出して、手の甲に一枚忍ばせて起き、タイミングよく取り出して何かの能力で現れたかのように見せただけ、つまり手品の類であった。


 タロは十八年もの間、ありとあらゆる努力と苦労を重ねてきたから、自分を少しでも良く見せようと手品の類までも練習していた。


 それをハッタリと合わせて使用したのだ。


「どういう事だ? ……お前、何かの能力者か?」


 ガゼが目を細めて胡散臭そうにタロを見た。


「ええ、そんなところです」


 タロはここぞとばかりに上着をめくって紋章を見せた。


 その紋章は役にも立たない「竜の守人」の紋章だが、その紋章に意味があるかのようにハッタリに利用した。そして、ここぞとばかりに続ける。


「つまらない能力で、少し貯金が出来るくらいのものですが、さっきも言いました通り、あと一袋分の小金貨の入った袋が出せます。それが僕の全財産です。それを出すには約束してもらわないといけません。みんなに危害を与えず、身ぐるみも剥がさないと僕と契約してもらえれば、あなたのお頭が訪れた時、その袋を渡します」


 タロは背中に冷や汗をかきながら、淡々とさも本当であるかのように話した。


「……よし、こいつを拷問して残りの金も出させろ」


 ガゼはまた良い案を思いついたとばかりに、悪い笑みを浮かべると盗賊達に命令した。


「ガゼ、そんな事してたら時間が掛かっちまうだろ! それにもう、結構な時間が経っちまった。今から拷問して、それから母娘に手を出してたら本当にお頭にバレて俺達が酷い目に遭っちまう! そのガキの言う約束とやらを守った方が良いかもしれないぞ?」


 部下達はガゼの最悪の提案を否定すると、タロの提案に賛同する姿勢を取った。


 タロの勝ちだった。


 さっきから無駄に話してハッタリばかり言っていたのは時間を稼ぐ為だったのだ。


 タロは自分の思惑通りにいった事を内心大喜びしながらも、平静を装いガゼに確認の視線を送る。


「……くそっ! わかった。約束しよう……。これでいいか!」


「……では、契約だ。──あとはあんた達の首領が来るまで待とうか」


 タロはまだ、油断しては駄目だと自分に言い聞かせながら、冷静な素振りを見せるのであった。



「──で、お前らはこの男が怪しいと見抜いた、と?」


 ガゼ達がいない事に気づいた盗賊の首領は、思ったよりも早くタロ達のところに引き返してくると理由を問い質していた。


「へい、お頭! 思った通り、こいつ小金貨の入った袋をまだ持っているみたいで、──おい、持ってるもの出しやがれ!」


 ガゼが、首領に怯えながらもタロに約束を守る様に要求する。


 タロはバッグから取り出すようにお金の入った袋を出す。


「……ほう。こいつの持ち物を確認した時には何も無かったはずだが……。お前の言う能力者だとしたら便利だな。──おい、お前、うちで盗賊をやる気はないか?」


 首領は、タロの能力を便利だと思ったのだろう、盗賊団への誘いをかけてきた。


「僕の能力は本当に少しのものしか収納できないので役には立ちません。そうじゃないと、ここにこうしてはいませんよ。それに盗賊として捕まったら縛り首でしょう? そんな怖い真似できません」


 タロは首領相手にも怯える事なく首を振ると断った。


「わははっ! いい度胸の野郎だ! 気に入ったが仕方ない……。──お前らとっとと帰るぞ!」


 首領は、タロの肩を叩くとあっさり勧誘を諦め、小金貨の入った袋を受け取ると、ガゼ達を率いて去っていくのであった。

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