第四話 見えないものと見えるもの

プロローグ 闇に朝日が差し込む前に

――先が見えないと言うことは、真っ暗で光もなく。そこには、不安や危険が隠れている。でも、同時に何か素晴らしいものが潜んでいるかもしれない――



月の明かりも届かないほど、真っ暗な空間。

周囲は闇に包まれ、何も見えない。


ここがおそらく森の中だと言うことは、湿った土の匂いと、そよ風にゆらめく葉音でかろうじて分かった。


そんな暗闇をかき分けるように、一つの小さな明かりがゆらゆらと揺れながら進んでいた。乾いた落ち葉を踏みしめる足音は慎重なリズムを奏でながら闇の中に消えていく。


ふと、若い少年のような声が訊ねる。

「ねえ。本当にこっちであってるの?」


すると、少し間を置いて別の声が答えた。

「たぶんね」


その声を待って、最初の声が再び訊ねた。

「前、見えてるの?」

「見えないね、全く」

「だよね…」


そこまで言うと、別の声の主は片手に握るランタンを高く掲げた。

しかし、ランタンの光は暗闇に吸い込まれ、周囲どころか、足元すらろくに見えない。


「あんまり動かない方がいいんじゃない?」

最初の声が訊ねると、別の声は「そうかもね」と答え。やがて足音が止まった。


「お先真っ暗って感じ。文字通りに」

「でも、もうしばらくしたらあたりも明るくなって、そうすればすぐにまた見えるようになるよ」


足音がなくなった森の中には、静寂だけが残された。

時折どこかで動物の鳴き声のようなものが聞こえるが、暗闇の中ではその声の主を見つけることはできない。


「暗くなる前はただの森だったけど、明るくなったらどんな景色が広がっているのかな?実は、花畑の真ん中でしたってなってたら少し嬉しいよね」

何も見えない空間を眺めながら、最初の声は少し嬉しそうに呟いた。


ランタンを握る別の声の主は、地面の感触を確かめ。そんなことはないことは分かりながらも「そうだね」と返す。


「そんなことないって思ってるでしょ?」

「いや、実際のところは、明るくなってみないとわからないよ」


疑るような最初の声に優しく返すと、また足を動き始めた。

足を木の根に取られないように慎重に、ゆっくり、一歩ずつ。小さな明かりを頼りに進んでいく。何が待っているかわからない道の先に向かって。


「夜明けまで後どのくらいかな?」


最初の声が訊ねると、すぐに答えが帰ってくる。


「きっと、もうすぐだよ」

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