第44話 ゲームたのしい!
次の仕事を探す気になれなかった。
なんとなく部屋の模様替えがしたくなってついでにいらなくなった物も捨てようとごちゃごちゃしていた押入れの中の物を全部出していたら奥の方からあやしいダンボール箱が出てきた。
中を開けてみると昔よく遊んでいたゲーム機と沢山のゲームソフトが入っていた。
タクシ兄さんは今はアメリカで働いていて現地の人と結婚して子供も二人いる、なかなか日本には帰ってこれないけど毎年クリスマスにはカードと幸せそうな家族写真が実家に送られてくる。
ゲーム機を居間のテレビの所に持って行ってセッティングしてみた。
オレが一番気に入っていたソフトを入れてスイッチオン。
軽快なラッパ音とともに画面にでっかく”ワイバーンクエストⅦ~いにしえの亡者たち~”の文字が表示された。
まだ使える!
「お~なつかし~!」
せっかくだからちょっとだけやってみるかとウンチという名前で登録して新規で冒険を始めてみた。
楽しすぎてその日はじいちゃんたちが帰ってくるまでぶっ続けでプレイして、じいちゃん達が寝た後も深夜遅くまでプレイした。
結局嵌ってしまって時間があればゲームばかりする生活になってしまった。
ワイバーンクエストをクリアした後もラストファンタジー、ゴンザレスパーティー、ウイニング100、ポケットクリーチャーなど次から次へとやりまくった。
ゲームたのしい!
◎
ある晩のこと、夕飯を食べ終わった後の食器を洗っていたら居間でテレビドラマを観ていたばあちゃんのケータイに電話がかかってきた。
「はい、どうしたの? うん、え? もうそんなに? 体調は? 大丈夫なの? そう、よかったね、うん、へぇ、そうなの、うん、いいんじゃない? 最近ずっと家にいるし、うん、言っておくね、わかった、はい、じゃあね無理しないようにね、うん、はい、じゃあね」
「誰から?」
「ナツミ、もうすぐ赤ちゃんが産まれるかもしれないって」
「え、そうなんだ」
「それで明日から入院するからミチをここで預かってくれないかって」
「で?」
「いいんじゃないって言ったよ」
「なんで!? ばあちゃんたち明日仕事じゃん!」
「うん、だから立春がみてちょうだい」
「はあ?」
「立春はずっとお家にいるし暇でしょ? 帰ってきたら私達もみるから」
「子供の世話とかひとりでした事ねえし!」
「まえに遊びに来たときにミルク作ったりオムツ替えるの手伝ったりしてたじゃない、ミチももう1歳半だしそんなに手もかからないわよ」
「旦那さんは?」
「今は仕事が忙しい時期みたい」
「はあ……」
◎
次の日ばあちゃんたちが仕事に出かけた後、大きなお腹をしたナツミ姉さんが大きな荷物とミチちゃんを抱っこしてやって来た。
「立春おはようー!」
「おはよう……」
「ごめんね~急に」
「いいよ……」
「ミチ、立春お兄ちゃんにあいさつして、ほら、よろしくおねがいしま~すって」
ミチちゃんは不安そうにオレの顔をじっと見つめるだけだった。
「まだわからないんじゃない?」
「少しづつ喋れるようになってるよ、最近はおいし~も言えるようになったよね~、はい、じゃあ抱っこして」とナツミ姉さんがミチを渡してきた、ミチはこわばった顔をしていたがおとなしくオレに抱っこされた。
「必要な物は全部このカバンに入れてあるからね、あとこのメモ帳にミルクの量とか食事の時間とか寝る時間とかも書いてあるから」
「わかった…‥」
「お菓子も入っているけどあまりあげないで、泣いた時とかにあげてね、あと何かあったら電話して」
「うん…‥」
「じゃあ頼んだよ、お願いね、行ってくるね、ミチ、いい子にしててよ~、またね~」
「いってらっしゃい……」
ナツミ姉さんの姿が見えなくなったとたんミチは顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
「ウッ、スッ、ヒィィィィ~、ヒィィィィ~ン」
何だこの泣き方は。
すげー弱々しい泣き方だった。
「ヒェェェェン~」
「泣くなミチ、お前の母さんはまた戻ってくる、それまでオレが面倒見てやるから」
「ヒィェェン~ヒィェェェン~」
全然泣き止みそうにない、困った。
そうだ、カバンにお菓子がはいってるって言ってたな。
ミチを抱っこしたまましゃがみ込み床に置いてあった手さげカバンをひっくり返して中身を全部出した。
かわいらしい小さい服が何枚も出てきて粉ミルクの箱や哺乳瓶やレトルト食品やおもちゃやらが色々出てきた。
これはいけるかもとマラカス風のおもちゃを拾ってカラカラカラと鳴らしながらミチに見せてみたらバチンと叩き落されてしまった。
気に入らなかったみたいだ。
次はお菓子だ。白いせんべいみたいなヤツがあったので食べやすいように小さく割ってミチに差し出してみた。
「ほらミチ、見ろ、お菓子だぞ、食べるか?」
バチンと叩き落されてしまった。
「ウェェェェンェンェン~ウェェェンェン~」
さらに泣き出したミチはオレの顔をバシバシと叩いてきた。
「おい、やめろミチっ、たたくな」
「ウェェェ~ン、ッひッひ、ウェェェェン~」
そのときだ、ミチはオレが頭に被っていたニット帽を剥ぎ取ると床にバシッと投げつけてしまった。
一瞬ドキッとしたが、ミチは何事もないように泣きながらオレの頭に着いた耳をバシバシと叩いたりひっぱったりしていた。
犬耳を見られたのはこいつが初めてだが、とくにびっくりしている様子はなかったので安心した。
きっとまだ赤ちゃんみたいなものだから何も知らないから人の頭に犬の耳が生えてても変だと思わないんだろう、よかった。
「ベロベロベ~」
「ウェェェェ~ェンェン~」
「いないいないばあ~っ!」
「ウェェェェ~ェンェン~」
結局その後何をやっても泣き止まず、約1時間後泣き疲れたのかいつの間にか眠ってしまった。
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