第43話 大人すげえ!

 頭に生えてきた犬の耳のようなものを隠すため普段からニット帽をかぶって生活するようになった。

 耳の形をしているくせに穴は開いてないし音も聞こえない、ただの飾りみたいなもので何の役にも立たない。遠くの音まで鮮明に聞き取れるとかの特殊能力のひとつでもあれば気分的に少しはマシなのにこんなのただの嫌がらせでしかねえ。


 じいちゃん達には「なんで立春はいつも家の中で帽子をかぶってるんだ」と言われたけど「この帽子オレのお気に入りだから」と言ってごまかした。

 帽子を脱がないといけないコンビニのバイトは辞めた。


 学校へもニット帽をかぶったまま登校してそのまま授業を受けていたら男の教師に「お前何だその帽子は、なめてんのか、授業中くらい脱げ」とキレられたので睨みつけてやったら「なんだ、文句でもあんのか?」とさらにキレてきたので無言で教室から出て行ってやった。 その日はテキトーに公園で時間をつぶして帰った。


 次の日の朝は学校へ行くふりをして家を出たが、サボって本屋さんやショッピングモールの中を色々見て回って時間をつぶした。

 ばあちゃんたちに何かお土産でも買って帰ろうかなとドラッグストアで健康食品なんかを見て回っていたらたまたま包帯が売られているのが目に入った、見た瞬間「これだ!」と思った。

 

 それからオレの包帯生活が始まった。

 もともとよくケガをしているタイプなのでオレが頭に包帯を巻いていてもまたかと言う感じで誰もあまり気にしないのはよかった。


 それでもさすがに毎日包帯姿だと「まだ治らないのか」と怪しまれるし「またぶつけた」という言い訳も苦しくなってくる。

 次第に学校に行くのも億劫おっくうになり朝になると体調を崩したふりして学校を休んで部屋に籠って寝ている日が多くなった。

 じいちゃんたちは最初は「どうしたんだ? 学校で何かあったのか?」としつこいくらいに心配してくれていたけどその度にオレが「別に何もないよ、大丈夫、ちょっと調子が悪いだけ」と意味深に言っていたら勝手に何かを察してくれたのか何も言わなくなった。


 学校へ行ったり行かなかったりの生活が3か月ほど続いて、担任に職員室に呼び出されこのままだと留年りゅうねんだぞと言わわれた。

 留年しても何も変わらないし、だったらさっさと退学して働いた方がいいと思ったので自分から「高校辞めます」と言った。


 その帰りにコンビニによって求人誌と髪を黒く染める液を買った。


         ◎


 とにかく働きたかった、働けるなら何でもよかったので求人誌に載っていた未経験可、年齢不問と書いてあった建設現場で働くことにした。


 とても疲れるけど体を動かしたり鍛えたりするのは大好きだったから力仕事はすごくテンションが上がった。

 ずっとヘルメットを被っていても何も言われないしオレにぴったりの職場だと思った。

 だけど荷物を運んでいる時にヨロヨロとバランスを崩してしまう事が多く、コケそうになったり運んでいた鉄パイプや踏板を色々な所にぶつけたり地面にぶちまけたりというミスを何度も犯してしまい先輩たちには「何やってんだ! ちゃんとまっすぐ歩け!」「うわあ! びっくりしたあ! 誰だハンマー落としたバカは!」「ひぃえええ! てめぇオレを殺す気かあああ!!」と毎日のように怒鳴られた。


 そんななか作業中に足場から落っこちてしまった。

 そこまで高い所じゃなくて下に何もなかったため運よくかすり傷だけで済んだけど親方がめちゃくちゃぶちギレれてクビになってしまった。

 

 すごくショックだったけど落ち込んでも居られない。

 次は倉庫で働いた。


 荷物を仕分ける仕事だ、重い荷物が多く何時間も続けるのはきつかったけど体も鍛えられるし帽子もかぶりっぱなしで良いし最高の職場だった。

 そんなに移動もしないし、長距離を移動させるときはカートで運ぶのでバランスを崩してぶちまけるなんて事もほとんどない。

 もちろん大切な荷物を傷つけないように慎重に運んだ。

 作業が終わる頃にはフラフラで家に帰ったらすぐに寝るという生活が続いた。


 夏になった。


 倉庫の中はすごく暑い。

 汗も出尽くしてTシャツに白い模様ができてくちびるもカサカサになるくらい乾燥する。

 大きな扇風機は回っていたが生ぬるい風をまきちらしているだけで何も涼しくない。

 家から持ってきた大きい水筒はお昼になる前に空になり、それでも身体が渇くので作業途中に抜けて自販機でスポーツドリンクやエナジードリンクを買って一気に流し込んで作業にもどるというのを何度も繰り返していた。

 あえて計算はしなかったけど時給分全部飲み物代に消えているんじゃないかと思うくらい飲みまくっていた。


 同僚はみんな年上で結構年配の方もいるのに何でこんなきつい作業が続けられるんだろう、昼飯と小休憩以外休んでいるところを見たことがないし水分もオレに比べたら10分の1くらいしか摂っていないように見える、凄すぎる。

 オレは休憩をもらったりしながら何とか作業を続けていたが視界が狭くなり意識が飛びそうになった時は流石にヤバいと思って早退させてもらっていた。

 そういう事が何度かあって結局クビになった。


 ショックだ、でも落ち込んではいられない次の仕事をみつけないと。


 こんどは飲食店で働く事になった。

 覚えることが多くて大変だけど、制服はなかなかカッコいいしバンダナ風の帽子もあるから犬耳も隠せる、美味しそうな料理は見ているだけでテンションが上がるし料理を美味そうに食べて喜んでいるお客様を見ると自分まで嬉しくなる。


「おいっ! オマエまた料理を全部床にぶちまけたんだってな! これで何度目だ!」

「サーセンッ!」

 

「また皿割ったのか! いったい何枚割ったら気が済むんだ!」

「サーセンッ!」


「朝世ーっ!! オマエはまたお客様にビールぶっかけたのか! バカヤロウ!!」 

「サーセンッ!!」


「おい、朝世、オマエ誕生日のお子さんに顔面ケーキをお見舞いしたらしいな……」

「サーセ

「クビだあっ!!」

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