第42話 耳!?

 4時限目終了のチャイムが鳴り教科書や文房具を机の中にしまっていたら島崎侑人しまざきゆうとが照れたようなニコニコ顔をしてやって来た。


「朝世くん、今日も一緒に弁当たべようか……」

「あ、オレ今日まだ弁当買ってない、購買に買いに行かないと」

「そっか……じゃあ僕も一緒に行く」

「まじで……だったらそのまま外で食べるか? たまにはいいんじゃね? 天気も良いし、きっと気持ちイイゾ」

「わかった……」

 と言う事で一緒に購買に向かったんだが島崎はまるで子鴨こがものようにオレの後ろから遅れてちょこちょことついてきて、ちゃんとついきているのかと何度も後ろを確認しなければならなかった。


 購買にはついたが島崎を待たせるのも悪いので適当に前の方に置いてあった弁当と飲み物を買って「どこで食べるか? 日陰があるほうが良いよな?」なんて会話をしながら座れる場所を探し歩いていたら後ろから「おい、金髪!」と呼び止められた。


 声の方を振り向くと夢原ゆめはられんたちがベンチテーブルの所に集まっていて「昼飯いまからだろ? こっちこいよ、一緒に食べようぜ」と誘われてしまった。


 島崎もいるしどうしようかと迷ったが「何してる、早く来いよ」と夢原が言うので、島崎も一緒に食べればいいだけの話で断る理由にはならないなと思ったので不安そうな顔をしている島崎に「行こうぜ」と半ば強引に誘って夢原達の所へ近づいていった。


 オレが夢原たちの横に座ると、島崎は2メートルくらい離れたところで気まずそうにして突っ立ったままだったので、オレの隣を手で示して島崎にここに座れと呼ぼうとしたら「何だこいつ?」と夢原が島崎を見て言った。

 

 島崎は不安そうにもじもじするだけで何も答えなかった。


「何じろじろ見てんだよ?」


「彼はオレのクラスの島崎ゆ」

「は? 朝世のクラスのやつか?」

「うん……」

 夢原の取り巻き達が島崎を見て「ダサッ」と鼻で笑った。


「何でこんな所で突っ立ってんだ? はやくどっか行けよ、うぜぇ」

「シッシッ」

「キモ」

 

 オレは何も言ってやる事が出来なかった。

 島崎はきびすを返すと肩を落としてぼとぼと行ってしまった。

 



 それから島崎は自分からオレに近づいてくることはなくなった。

 悪い事したなと思ったけど元々タイプも違うし趣味も合わないしそこまで仲良くなるつもりもなかったし、関係を修復したとしても島崎と夢原たちが仲良くなれるとも思えなかったしこの先も同じような事が起こって傷付けるだけだと思ったのでこれで良かったんだと勝手に納得して島崎に謝ることもしなかった。

 挨拶をしたら島崎はニコっと笑って返してはくれるし授業で近くの席になったりしたら少しは話したりもするけどそれだけの関係になった。

 

          ◎


 夏休み。


 母さんが長谷川さんと結婚した。

 こんなズボラな母さんが結婚相手で良いんだろかと思ったが長谷川さんの家には家政婦が居るというような話を聞いたし、たぶん何も問題ないんだろう。

 今度ハワイで新しいビジネスを始めるらしく母さんも一緒にハワイに行って暮らす事になった。

 長谷川さんに「立春くんも一緒に来ないか?」と誘われたけど断った、知らない人にあまり世話にはなりたくなかったし2人の邪魔もしたくないし、オレにはハワイは眩しすぎる。

 それなら今住んでいるアパートの家賃と生活費は自分に払わせてくれとも長谷川さんは言ってくれたけどそれもなんか悪い気がして断って、オレは母の実家に戻ることにした。高校はちょっと遠くなるけど一時間早く家から出ればじゅうぶんに通える距離だ。


 早速荷物をまとめて引越した。

 母の実家に住むのは小学4年の時以来だ。

 あの頃は母さんの兄のヒロシおじさんと、9歳年の離れたいとこのタクシ兄さんと1歳下の妹のナツミ姉さんも一緒に住んでいて本物の家族のように可愛がってもらった。

 今はみんな家を出て2階にある部屋には誰も住んでいなかった。

 じいちゃんばあちゃんはオレと暮らすことを喜んでくれた。

 

         ◎


 冬休み。


 実家の風呂場で頭を洗っていたら頭皮の二か所に何だか小さいヒダのような物が出来ている事に気がついた。

 その時はフケの固まりかイボか何かだろうと思ってまったく気にしていなかったけどそいつは日に日に成長していきふわふわの産毛まで生えだして、冬休み最後の日になる頃には髪の毛から先っちょがちょこんと飛び出して見えるほどまでに大きくなっていた。

 オレは鏡の前で髪の毛をペタンと押さえつけてそいつの全貌を確認し絶望した。


 何だこれは!?

 なんか犬の耳みたいなんだが!?

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