第41話 島崎侑人
そのうち島崎はお昼にオレの席までやってきてボソッと「一緒にお弁当食べようか……」と言ってくるようになった。
島崎は悪いやつではないし気もあまり使わなくていいから一緒にいて楽といっちゃあ楽だけど正直同類だとは思われたくない、だけどオレは誰にでも優しいからいいぜと言って一緒に食べてやることにした。
島崎は食事中はほぼ無言だったが食べ終わるとアニメの話ばかりしてきて「朝世くんはマジパイ観た事ないの? もったいない、すごく面白いから観たほうが良いよ」とか「キャラデザが幼女アニメのキャラみたいだから子供向けと勘違いされやすいけどストーリーはすごく練り込まれていて深くて大人のファンの方が多いんだよ」などと嬉しそうに言ってきて、大人っていってもオタクのロリコンのヤバい大人だろと内心思いながらも「そうか」、「そうなんだ」、「おもしろそう」、「機会があったら観てみる」とテキトーに返事を返していた。
別の日にはアイドルの話をしてきて「ウェーブスって知ってる? いま一番きてるグループなんだよ」とか「メンバーの中でもゆめゆめっていう子が俺の一番の推しだなぁ。なんか声とか仕草とかが癒し系って感じがする。天然な所とかオタク趣味なところもいいなぁって思う」だとか「でもピッちゃんとりりたんの仲良しコンビもすごくいいんだよなぁ、ピッちゃんは最年少だけどすごく元気があっていつも頑張ってるしりりたんはリーダーでダンスも一番上手いしメンバーにも教えてあげたりしてて偉いなあって思う」だとか言ってきて、鞄からアイドルの写真のカードを取り出して色々みせてきた。
そういうのに全く興味がなかったオレはこいつヤベエと内心引いていた。その見せてきたカードに写っているアイドルもいかにもオタクが好きそうな黒髪でどこにでもいそうなどこか垢抜けない純粋無垢な少女って感じの女の子達でオレの趣味じゃなかったけど出来るだけいい所を見つけて「この子けっこうかわいいな……」とか「オレはこっちのほうがいいかも……」と適当に返事をしていたら「今度CD持ってくるから聴かせてあげるよ」と言ってきて、次の日にはポータブルのCDプレーヤーを持ってきてて「この曲とっても良いよ、聴いてみて」と嬉しそうにイヤホンを差し出してきた。
うん、すっげー歌ヘタクソ。声もアニメキャラみたいに高くてぶりっこな歌い方でちょっと引いた。メロディもごちゃごちゃしていて雑音みたいにしか聞こえなかった。これのどこが良いんだ。
「こんな曲はじめてきいた……、かわいくていいな……」
「でしょ! 次の曲もすごくいいよ、これも聴いてみて」
「……」
◎
7月も過ぎた頃、プールの授業に出るのが嫌で学校を抜け出して帰ろうと思ってバス停でバスを待っていたら突然「おい、そこの金髪」なんて呼ばれて振り向いたら別のクラスの不良がこっちに向かって歩いてきた。
そいつは校内で何度かみかけた事があるヤツで、いつも取り巻きを
「何?」
「お前どこの中学から来たんだ?」
「
「草林中か、名前は?」
「
「何組だ?」
「3組」
「学校サボってどこに行くんだ?」
「帰る」
「何で?」
「……退屈だから」
最初は喧嘩腰な感じだったがオレが素直に答えていたせいか良いやつだと思われたらしく「タバコ吸うか?」と差し出してきた。
「タバコは味が苦手だから吸わない、ありがとう」と断った。
その時にちょうどバスが来た。
よかった助かったと思ってバスに乗り込んだ。
中はすごくガラ空きで不良は後ろの特等席に着くだろうと思ったからオレは出来るだけ離れた前の方に座ったら不良はオレの隣に座ってきやがった。
「何でここに座る」
「いいだろ、悪いか?」
「別に……」
「どうせお前これから暇なんだろ? ゲーセン行こうぜ」
「バイトがある」
「何時から?」
「5時……」
「まだまだ時間あるじゃねえか」
「……」
言い返せなくなってしばらく沈黙が続いた。気まずい……。
「……名前は?」
「俺?
で、結局夢原についていく事になってゲーセンに着いたら夢原の不良仲間も居て、彼らのどうでもいい話を黙って聞いていたり、ゲームの対戦相手にさせられたりしてバイトの時間まで付き合うことになった。
そんなことがあってから学校で夢原に見つかるたびにちょくちょく絡まれるようになってスマホのアドレスも交換してたまに遊びに誘われたりもするようになっていった。
遊びといってもカラオケとかボーリングとかゲーセンだ。合コンみたいなのにも誘われたけど出来るだけ女とは目も合わさず会話もしないようにして早めに帰るようにした。
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