第36話 みぃたん

 息を止め、視線をどこに向けたらいいのか迷っていたら、みぃたんさんのまぶたが開いて目が合った。

 みぃたんさんは唇を離すと「緊張してる? もしかしてはじめて?」ときいてきたので首を小刻みに横に振った。


 みぃたんさんは吹き出すように笑うと「その反応は絶対はじめてでしょ、カ~ワ~イイ~」と立ち上がってオレの両肩に手をのせると膝の上にまたがって座った。


「ねぇ、もっとキスしよ」

みぃたんさんはささやくような声でそう言うとオレの頭を左右からガシっと掴んで大きいアンパンにかじりつくかのようにオレの唇をパクリと包み込んだ。

 それからみぃたんさんの舌がオレの唇と歯をこじ開けるようにして口の中に入ってきてニョロニョロと暴れ出した。


 これは⁉ ディープキスだ!!


 ヤベェ、どうしよう、こんな事して良いのか!? 

 でもみぃたんさんが一生懸命舌を入れたり出したりして頑張ってくれているっていうのにオレだけただじっとしているのも失礼だ。

 とりあえず舌をゆっくり動かしてみた。

 映画とかでやっているのはよく見ていたけど口の中までは見れない、どんな動きをしたらいいのかわからん! とにかくみぃたんさんの舌を噛まないようにだけ気を付けた。


 10数秒後、みぃたんさんは顔を離してハァハァと息を切らし顎に垂れた唾液を手で拭うと栗色の髪をかきあげオレを見下ろすように見つめてきた。

 オレはやっとで息が出来てたすかったと思った。


 その時カラオケマシンが新曲の紹介と言ってノリノリなやつを流してきた。

 それを聞いたみぃたんさんはニヤリと笑いブルッと身震いすると何かのスイッチが入ってしまったかのように目の色を変え、オレの胸元のシャツとTシャツを同時にぎゅっと掴んで力強くビリビリビリと引きちぎって破り捨ててしまった。


 唖然としていると、みぃたんさんは立ち上がってオレの両肩をガシっと掴んでソファーに寝かせるように押し倒した。

 それからオレの膝の上にまたがって座ると髪の毛をぐるんぐるんと振り回し、顔にかかった毛を色っぽくかきあげたかと思うと興奮したような目でギロリとオレの股間を睨んでカチャカチャカチャとベルトを外しはじめた。

 ベルトは簡単にはずれ、オレはすぐに体を起こしてみぃたんさんの手を制止した。

「みぃたんさん! それ以上はヤバいっス」

「コンドームならたくさん持ってるっ」

「ちがうっ、そういう事じゃなくてっ」

「なんでっ? いいじゃんっ、やろうっ?」

 みぃたんさんは制止する手を振り払うとオレの肩に体重をかけるようにして押し倒してきた、そして再びズボンに手をかけフックとチャックが壊れるんじゃないかというくらい手荒にブチッ! ビリビリビリとこじ開けてきた。

 オレは再度身体を起こしてみぃたんさんの手を制止した。

「みぃたんさんダメっス! まだ心の準備がっ」

「大丈夫っ、わたしが教えてあげるからっ」

「無理ッス!」

「痛いっ! 握力強すぎっ」

「あ、すいませんッ」

 力を弱めるとみぃたんさんは再びオレの手を振り払ってズボンを脱がしてきた。


 だめだこの人、絶対にヤル気だ。

 今は何を言っても無駄だ、とにかく逃げるしかないと思った。


 みぃたんさんがズボンを下ろすのに必死になっているのをいい事に、つま先で靴を脱ぎ捨てズボンから脚をスルッと引っこ抜いて「みぃたんさんごめんなさいっオレ帰りますっ」と強引に立ち上がろうとしたら2人ともソファからころげ落ちてしまった。

「ああっ!」

「キャッ!」


 床に尻もちを付いたみぃたんさんを見て悪いなと思いながらも「すいませんっ、さようなら!」と急いで立ち上がって逃げようとしたら片方の足にズボンに引っかかったままちゃんと脱げきっていなくて、みぃたんさんがズボンの裾をお尻で踏んづけていたせいで、足を引っ張られ体勢を崩し顔面をテーブルにぶつけてグラスを倒してびちょびちょになりそのまま床に倒れてしまった。

イテーッ」

 ズボンは脱げたけど足首がグキッていった! 顔もクソいてえ。

 手で口元を触ったら血が付いていた、たぶん鼻血、でも痛がっている場合じゃねえ、早くこの場から逃げねえと。

 足首が痛すぎて立ち上がれそうになかったので床に腕をつき這いずるようにして必死に逃げていたらみぃたんさんが飛びかかってきて「つ~かま~えたっ!」と上に重なるように乗っかってこられてオレは床に顎を打ちつけてしまった。

「タッツ~どこいくの~? お楽しみはこれからだよ~」とみぃたんさんは耳元でささやくと上半身を起こしてオレの太腿ふとももの上にまたがって座りビリリとトランクスを破り捨ててしまった。

「あれ? タッツーってパンツ二枚も穿いてるんだぁ~、ガード堅すぎぃ~」

 やべーと思った時にはもう手遅れで、ブリーフもビリ、ビリビリと音をたてて破かれてしまった。

 その瞬間。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!!!! 何コレぇぇ!! イヤアアアアアーー!!!」


 みぃたんさんはまるでGBに遭遇したかのようにびっくり飛び上がると慌てて部屋の隅まで逃げてソファの上にのぼり壁に背中をくっつけるようにして避難した。

 そしてオレのしっぽをまるで汚物を見るかのような目で凝視していた。


「何なのソレ!? キショッ!!」


「こ、これは……し、しっぽというか…‥生まれつき」

「キモいんだけど!!」


 オレが体を起こそうとするとみぃたんさんは「動かないでっ! 近づかないでバケモノっ!」と叫んで「もうヤダ~」と身震いするように移動して自分の上着と荷物をサッと取ると、「オエーッ、まぢサイアクこんなのとキスしちゃった、ふざけんなっ シねっ! 地獄に落ちろ!」と吐き捨てて半泣きで逃げるように部屋から出て行ってしまった。


 開けっぱなしになったドアからメガネの女性店員さんが何事かと覗いてきてオレのしっぽを見てキャアアアアアアアと持っていたトレーをひっくり返して片付け途中のグラスとお皿をぶちまけて走って逃げて行った。

 叫びながら走っていく店員に気がづいたのか、他のお客さん達が何事かとぞくぞくと部屋をのぞきに集まって来て騒ぎになってしまった。

「うわっ、何なんだアレ、キモくね?」

「うわキメェ」

「気持ちわるいな」

「人間か?」

「あんな人間いる?」

「バケモンだろ」

「う~怖っ、鳥肌立ってきた」


  なんなんだよこれは……。


 そこまで言うことねえだろ……。


「キャアアアアーヘンタイ!!!」

「誰かっ! 警察呼んでーっ! 早くー!」

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