第37話 嘘つきはドロボウの始まり

「うわあああああああああああああああああああー!!!」


 自分の叫び声にびっくりして飛び起きたら自室のベッドの上だった。


「はぁはぁ‥‥‥何だ…‥夢か‥‥‥」


 12月だっていうのにすごい寝汗だ。

 枕元の時計を取って時刻を確認したら朝の9時半過ぎ。


 再びベットに倒れ、天井を眺めながら昨夜の事を思い出した。


 シュウゾウたちが帰った後、みぃたんさんにディープキスをされたのは現実だ。


 だけどオレはその先に進むのが怖くて『あっ大事な約束をしていたのを忘れてた!』とバレバレの見苦しい嘘をついて『すみませんっ、残りの料金はオレが払っておくのでみぃたんさんはゆっくりしていってください!』などとぬかし半ば強引に会計をすませて帰ってきたのだ。


 みぃたんさんは無理矢理襲ってきたり『しね』とか『地獄に落ちろ』と暴言を吐くような人じゃない、あれはオレの夢が勝手につくりあげた幻想だ、本人はすごくやさしくていい人だった。


 カラオケの個室を出ていくときにチラッと見たみぃたんさんの姿が鮮明によみがえる。

 すごく残念そうな顔をしていた……。


「はぁ……まじでサイアクだ……」

   



 実はオレにはしっぽがある。


 オレにとってはできるだけ思い出したくも考えたくもないものなので今までこのことは語らないようにしていたが、実はオレには生まれつきしっぽが生えているんだ。


 保育園に通っていた時にしっぽのせいでみんなに気持ち悪がられ揶揄われるようになってからもう何があっても絶対に誰にもみせないと決めていた。

 母さんにも見せたくなくてお風呂も着替えも自分ひとりでもできるようになるように努力した。

 

 小さい頃はしっぽもちっちゃくて目立たなかったから何の問題もなかったけど小学6年にあがったころから急激に成長してきやがって学校のピタッとした小さい水着を穿くとどうしても毛がはみ出すしもっこりしているのがばれてしまうから水泳の授業には出なくなった。

 どうせなら前の方がでっかくなって欲しかったがそっちの方はほとんど成長がみられないふざけている、まあそんな事は今はどうでも良い。


 中2にあがる頃にはしっぽはさらに成長して制服のズボンの上からでもっこりしてわかるまでになった。

 それで色々考えた結果下着をピタッとしたブリーフタイプの物にかえてしっぽを押さえつけるようにして目立たなくした。

 それだけだと運動着に着替える時にブリーフのケツのもっこりやはみ出した毛でばれるので上からゆったりしたトランクスを穿く事でその問題は解決した。

 それでもどうにもできない事もあった。

 

 修学旅行はみんなでお風呂に入らないといけないから行かなかったし、友達の前で寝るといたずらで脱がされたりする危険があるから一緒に寝泊まりすることも出来ないし海や銭湯や温泉に誘われても全部断ってきた。


 しっぽを隠すためにみんなにたくさん嘘もついた。

 嘘つきはドロボウの始まり。

 サイテーだ。

 

 このままでは誠実な人付き合いなんて一生出来ないし、真の友達もできないし彼女をつくるなんてもってのほかだ。

 

 ていうかこのままじゃスーパーモデルになるのも無理じゃねえか!?

 モデルが人前で着替えるのは当たり前だ、ケツを見られるのが恥ずかしいなんて言ってられねえ、しかもしっぽがあったら下着も服もまともに着れねえじゃん!? 

 そんなのがモデルになんて絶対なれねえじゃん!!

 何で今頃気づいたんだ、やべえ。


「変わらないと……」


 ベットから出て台所へ行った。

 棚の引き出しからビニール袋を1枚とり冷蔵庫の氷をビニール袋にたっぷり詰めて氷嚢ひょうのうの代わりを作った。

 脱衣所のカゴからバスタオルも取ってきた。


 自室に戻ってドアの鍵をかけると学習机の引き出しの奥からカッターを探し出しキリキリキリと刃を伸ばした。


 長く伸びた刃をまばたきも忘れるくらいに凝視しながら憎たらしいしっぽとも今日でお別れだと思ったらなんだか口元だけニヤけてきてしまった。


「切断してやる」

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