第35話 カラオケ

 思ったよりもカラオケ機の処理が遅くてマイクを構えたまま30秒くらい待たされて微妙な空気のなかやっとでピアノのイントロが流れ出した。

 すると女子達が「「キャーーーーーー!!」」と叫んだのでびっくりして後ろを振り向くとジュリさんとみぃたんさんが笑顔でタンバリンとマラカスを振って「「タッツーがんばれー!」」と応援してくれた。


 俺は苦笑いで軽く頭を下げると再び画面に向き直し歌いはじめた。

「ね~んね~んころ~り~よ~、おこ~ろ~り~よ~♪」


 こういう場面ではバラードよりもみんなが知っているノリノリの曲を選んだ方が盛り上がるので良いと雑誌で読んだ事があるけど、オレがまともに歌えそうな曲がこれしか見つからなかったんだからしょうがない。

思ったよりキーが高いけど全部裏声で出せばなんとかいけそうだ。


「坊や~は~よい~こ~だ ねん~ね~し~な~♪」


         ◎


「ふり~つ~づ~み~♪」

 ふぅ、どうにか最後まで歌いきった。すごくいい歌だった、人々に長く愛される名曲なだけある。

 

 何かやけに静かになったなと思って後ろを振り向いたら女子二人が「イェ~イ……」「よ、よかったよ‥‥タッツゥ……」と苦笑いでマラカスとタンバリンを振ってくれた、シュウゾウはソファにもたれかかって呆れたような顔をしていた。


 その後は歌ってくれと頼まれる事もなく女子達が交互に定番の曲や流行りの曲を歌っていた。

 元からテンションは高めの女子二人だったけどカラオケに来るとさらにハイテンションになって、まるで酔っぱらっているのかと思うくらいだった。

 オレもタンバリンを叩いたり合いの手を入れたりして盛り上げた。

 みんな制服の上着を脱いでシャツ姿になるくらい熱くなった。


 シュウゾウは人気ロックバンドのバラード曲を歌った。

 この盛り上がってる状況でマイペースにバラードを選曲するところはスゲーなと思った。しかも上手いしかっこよかった。


         ◎


 その後1時間の延長をしたけどみんな歌い疲れたのかテーブルの残った料理をちょびちょび飲み食いしながらたわいもない会話をしていた。

 そのうちシュウゾウとジュリさんがコソコソ話をしたりして、だんだんイチャイチャし始めて、何だか良い雰囲気になっちゃって。

「ごめん、俺たち先帰るわ」と割り勘より少し多めの金額をテーブルに置いて部屋を出て行ってしまった。


 個室にはオレとみぃたんさんの二人だけが残された。


 きまずい。


「どうしますか……? オレたちも帰ります?」


「え~延長したばかりなのに~? もったいなくない?」


「じゃあ、もっと歌いますか……?」


「さっき大声ではしゃぎすぎたからさ~、声ガラガラだし~、歌はもういいかな」


「じゃあ……もっと何か注文して食べます?」


「んん、わたしはもうお腹いっぱ~い」


 どうしたら良いんだ!!


「えっと……それじゃあ……なにかゲーム」

「それよりさ、もっと楽しい事しない?」


「たのしい事??」


 隣に座っていたみぃたんさんは上半身をオレの方へ向けると密着するようにして顔を覗き込んできた。

 顔が近い! 

 はだけたシャツからのぞく胸元がエロすぎる!


 みぃたんさんはいたずらっぽい目をしてオレの顔を観察するようにまじまじと見ていたが、そのうち瞳とくちびるだけを集中して見るようになってきて、だんだんと目がトロンとしてきて。


 この表情は……キスを求めている顔だっ!


 ゴクリと唾を飲んだ。

  

 みぃたんさんはまぶたを閉じながらゆっくりと顔を近づけてきた。

 

 オレは焦った。

 だって今日会ったばっかりの人だぞ! 相手の事もよく知らないのにこんな事して良いのか!?


 みぃたんさんのくちびるがどんどん近づいてくる。

 

 みいたんさんは美人だし良い人だけどオレは今恋愛とか興味ないしそんな仲になるつもりもない、でものけぞって拒否するのも失礼な気がするし据え膳食わぬは何とやらって言うし……キスぐらいだったらいいのか!? 海外では友達や家族とも気軽にしてるみたいだな!? 挨拶みたいなもんだよな!? って、みぃたんさん!!


 結局オレは何もできずただ固まったままみぃたんさんの唇を受け入れた。

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