第31話 付き合っている意味がない

 なぎとはケンカをしてから一度も話をしていない。

 たまに目が合っても凪はすぐに目をそらすし何か無視されてるみたいでムッとくるからオレもできるだけ凪のいる方を見ないようした。

 そんなこんなで2週間と数日が過ぎた。


 放課後、いつものようにシュウゾウ達と帰ろうと教室を出たら廊下に2組の秋元ら女子達が立っていて「朝世あさせくん、ちょっといい?」とオレだけ呼び止められた。

 「なに?」ってきいたら「凪が話がしたいって」と言うのでシュウゾウ達には先に行ってもらってオレは秋元らについていった。


 移動中、女達は無口で神妙しんみょう面持おももちだったのでいい知らせではないのは予想できた。

 人けの少ない廊下の端辺りまできた。

 秋元が「あそこで凪が待ってるから行って」と外階段へと続く扉を指さした。

 言われるままに進んで行くと扉についたガラス窓から凪の後ろ姿が見えた。

 景色を眺めているようだったがその背中は何だか悲しい感じがした。

 ゆっくりと扉を開いた。

 外の空気はひんやり冷たかった。

 凪が気がついて振り向いた。


 凪は気まずそうに「ひさしぶり……」と小さく手を挙げた。

 オレも「ひさしぶり……」と返した。


朝立あさたつ、元気だった?」

「うん、いやっ……まあまあ……」

 彼女と2週間以上も会ってなかったっていうのには流石にないだろと思ってとっさに言い直した。

 凪は「どっちよ」と呆れるように少し吹いた。


「凪は元気だったか?」と聞き返したら少し答えにくそうにして「まあまあ……かな?」と言った。


「何か話があるんだろ?」


「うん……」

 また答えにくそうにしている。


「何だ?」


「‥‥‥わたしたちもうずいぶん会ってなかったじゃん?」

「うん…‥」


「全然電話もくれないし……、朝立は友達といる方がいいみたいだし……」


 何も言えなかった。



「こんなの……付き合ってる意味ないじゃん……」



「だから、もう……別れようか」



「わかった……」


 オレがそう答えたとき、凪は幻滅したというか悲しそうな顔を一瞬だけして何かが吹っ切れたように優しく微笑むと。

「じゃあこれで終わりね、今日は急に呼び出したのに来てくれてありがとね」と言った。


 何て返したらいいのかわからずただ凪を見ている事しか出来なかった。


 そんなオレを見て凪も気まずそうにして。

「……かえでちゃんたちが待っているからもう行くね」


「ああ……」


「じゃあね、バイバイ」

「バイバイ……」

 お互い小さく手を振って、凪は扉を開けて校舎の中へ入っていった。


 扉が閉まりそのガラス窓から廊下を歩いていく凪の後ろ姿が見えた。

 心配そうに見守っていた秋元たちにやさしく迎え入れられると凪は俯くようにして肩を震わせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る