第32話 なんで泣くんだ
なんで凪が泣くんだよ、別れようかって言ってきたのはそっちのほうだろ。
4階の外階段にひとりとり残されたオレは手すりにもたれて下をボーっと見下ろしながらさっき起きた事を考えていた。
何が『わかった』だ。
サイテーだ。
凪に『もう別れようか』と言われて、このまま無理してこの関係を続けても意味がないと思ったから『わかった』と言っただけだ。
一緒に居ても緊張してお互い気を使うだけで何もしない時間を過ごしても意味ないだろ?
だったら友達といて笑っていた方が有意義な時間が過ごせるし。
凪だって友達といる時の方が楽しそうだったし。
だから凪も意味がないって言ったんだろ?
凪だってこれでよかったんだろ?
なのに何でこんな最低な気分になるんだ。
何故か無性にシュウゾウ達に会いたくなって、みんながよくたむろしている場所に行ってみた。
公園にはいなかったからシュウゾウの家に向かったらその途中にあったコンビニ横の駐車場で学ランを着たガラの悪そうな少年達が
凪に振られたことは言わなかった。
あれこれ聞かれるのも嫌だし、話したい気分でもないし。
いつものようにケータイをいじったり冗談を言いあったりマンガを読んだりしているみんなを見ていると何か少しだけほっとした。
みんなの横に腰を下ろしてひとりで色々考えていたら、リョウのケータイのメール音が鳴って―――。
「おい立春、おまえ凪の事振ったのかよ!」
「振ってない」
「は? でもいま凪すげー泣いてるってよ、楓からメールがあったし」
「まじで? 振ったのか立春?」
「振ってない」
「じゃあ何だよ」
「……振られた……? というか…‥」
「なんだ、振られたのかよ」
「ダセェ、振られてやんの」
「何で振られたんだ?」
「えっと……あまり相手してなかったから…‥?」
「おまえって釣った魚には餌をやらないタイプか?」
「ひでぇ男だな」
「良かったじゃねえか、あんなブスと別れられて、なあ?」
みんなは茶化すだけ茶化して笑ったら何事もなかったかのように別の話題で盛り上がっていたが、シュウゾウだけはずっと真剣な表情で聞いていてオレの傍にきて腰を落とすと「大丈夫か?」と肩をたたいてくれた。
オレが「おぅ、大丈夫」と返すと「そうか、まあそんなに気を落とすな、何かあったら言えよ」と立ち上がってコンビニの中へ入って行った。
シュウゾウは恋愛経験豊富だからきっと恋人と別れた男の辛い気持ちがよくわかるのかもしれない。
だけどオレは本当に大丈夫だった、自分でも引くくらいに。
オレだってちょっとは寂しいって気持ちはある、何か心にぽっかりと穴が開いたような泣きたいような変な気持ちはある、でも悲しくて辛くて涙が出るってほどじゃない。
別に永遠の別れってわけでもないし、学校に行けばいつでも会えるし、機会があればまた付き合う事だってあるかもしれない、それにこの世界に女は凪ひとりだけじゃないしいくらだっている。
凪だって楽しい恋愛がしたければ別にオレじゃなくても代わりの男は他にもいっぱいいるんだし、次に進めてよかったじゃねえか。
なんで泣くんだよ。
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