第27話 ブランコ

 気がつけば人けの少ない閑静な住宅街にきていた。

「そうだな、オレたちどこに向かっているんだろうな」

 どこに向かっているかなんて考えてもみなかった。 

「なにそれ」と凪は吹き出すように笑った。

「一回立ち止まって考えるか」

「うん」

 オレと凪は歩く足を止めて向かい合った。

 いまオレたちはいったい何をしているんだ? 一緒に帰っているんだよな? だったら帰る場所がわからないと帰れねえじゃねえか、ということで「凪はどこに住んでるんだ? 家まで送るよ」ときいてみた。

「え、でも帰るにはまだ早くない?」

 凪はまだ帰りたくないみたいだ。

「そうか? じゃあどうする?」ときいたら「ん~」と答えに困っていたので「どこかで寄り道でもするか?」と言ったら凪は嬉しそうに「うん」とうなずいた。


「でもどこかって言ってもなぁ……」

 オレが頭をフル回転させて考えていると「あそこは? あそこって公園じゃない?」と凪が指をさした。住宅に囲まれてあまり目立ってはいなかったがそこにはたしかに公園らしい広場がみえていた。

 公園は大好きだ、凪の提案に乗ってオレたちはそこに近づいていった。


「誰もいないよ、貸し切りじゃん、ラッキー! 朝立あさたつ見て! あそこにベンチがあるよ! あっブランコもあるじゃん、一緒に乗ろう!」


 ブランコはテンションが上がる。

 オレたちはすぐにブランコに駆け寄った。


 キュイイィィー キュルルル~


 キュイイィィー キュルルル~


 二人でおもいっきりブランコをこいだ。

 錆びているからかきしむ音がすっごく変でうるさかった。


 ブランコをこいでいると凪と二人きりでいる事に緊張しているのとブランコの勢いに飛ばされそうな恐怖の緊張があいまいになっていい感じだ。

「朝立勢い強すぎじゃない? それ大丈夫なの? 見ててちょっと怖いんだけど」

「大丈夫だよ! すごく気持ちいいぞ 凪もやってみ」

「凪はこれが限界だよ、これでもちょっと怖いし」


 ブランコの勢いにのせて自然と会話も弾んだ。


 夏休みに秋元たちと海に行った話とか、その時に食べたかき氷が可愛くておいしかっただとか、肌の色が茶色なのは日焼けじゃなくて化粧品を塗ってるんだとか、この世で一番好きな食べ物はグレープフルーツだかとか、好きな動物はウォンバットだとか、ウォンバットは四角いウンコをするんだとか、ウォンバットはおしりが硬いんだとか彼女の事を色々知ることが出来た。


 キュイイィィー  キュルルル~


 キュイイィィー  キュルルル~


「凪は高校はどこへ行くのかもう決まった?」

「ん~まだ決まってない、朝立は?」

「オレは大草原おおくさはら国際高校を受けようと思っている」

「え~なんかスゴそう」

「べつにスゴくないぞ」

「何でそこを選んだの?」

「そこだと外国語が学べるし、国際的な感覚も身につくとかパンフレットに書いてあったし、あと新しく出来たばかりの高校で設備とかも最新のが揃っているって、それに制服もカッコよかったから」

「スゴーい、いいな~凪もそこに行きたい~、でも凪はあまり頭良くないからな~」 


「おいコラアアアアア!! ガキども! お前らさっきからキュルキュルキュルキュルうっせえんだよ! いつまでブランコこいでんだよ! ブチ殺されてえのか!」

 どこか高い所からおっさんの声がする。

「すいませーん!」

「何がスイマセーンだっ! 悪いと思ってんならさっさとこぐのをやめろ! いつまでもキュルキュルキュルキュル、なめやがって、いいか、いまからそこに行って説教してやるからな! ちょっとそこで待ってろよ!」


「ヤべぇ、逃げるぞ!」

 オレはブランコから飛び降りた。

 着地に失敗して地面に転がってしまったがすぐに立ち上がった。

 口に砂が入った、ペッ!

 後ろを振り返ると凪はまだブランコにゆられていた。

「何してるはやく、急げ! 凪!」

「ちょっと待って、急には止まれないだもんっ」

「オレが止めてやる」

「待って、あぶない! キャア!」

 凪のブランコを手でつかまえてやろうと正面から近づいたらタイミングを誤って凪の膝蹴りを顔面にくらっておもいきり吹っ飛ばされてしまった。


いてぇ~……」

 オレが地面にうずくまっていると凪がすぐに駆けつけてきてくれてオレを起き上がらせてくれた。

「大丈夫朝立!? やっ、鼻血がいっぱい出てる!」

「だいじょうぶ……それより早くここから逃げよう」


 オレたちはいちもくさんに走って逃げた。

 

 結構とおくまで走った。

 喉が渇いたので自販機で何か買おうってなって「何がいい?」と訊くと凪は「レモンティー」と言った、かわいい。

 オレは野菜ジュースにした。

 そのあとは凪に案内されながら彼女の自宅マンションの前までやってきた。

うちにあがって氷で鼻冷やす?」と言われたけど大丈夫と断って「じゃあまたなバイバイ」と帰ろうとしたら「ちょっと待って」と呼び止められた。

 凪は鞄の中から小さいメモ帳と鉛筆を取り出すと何かを書いて紙をちぎって差し出してきた。

 受け取ったら紙には数字が描かれていた。

「これ、凪のケータイの番号、朝立もケータイもってる?」

「オレはまだ持ってない」

「そっか、じゃあ朝立から掛けてきてね」

 オレはコクリと頷いた。

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