第26話 突然の
夏休みが終わって2学期がはじまった。
福本尊は転校していた。
担任の杉浦が言うには転校の理由は親の仕事の都合だそうだ。
オレはみんなの嫌がらせも理由にあるんじゃないのかなとも思ったが本人に会う事はもうないだろうし真相は闇の中だ。
◎
帰りのホームルームが終わったあと、その日は教室の掃除当番になっていて同じく当番だった安達に警戒されながら机を運んだり床のモップ掛けをして、同じく当番の
リュックを背負ってゴミの入った袋を持って教室を出たら、廊下に集まっていた女達が急に騒ぎ出したのでびびった。
2組の女子らがなんかやってんなと思って反対側の方向から行こうとしたら。
「朝世くんちょっとまって」と秋元に呼び止められた。
オレが振り向いたら。
「ほら、いって」と背中を押されるようにして女子達の中から
秋元たちはキャッキャと2組の教室に姿を消して廊下にはオレと凪だけになってしまった。
なんなんだいったい。
凪が少し気まずそうに「よっ……」と小さく手を上げたので。
オレも手を上げて「よう……」と返した。
それから少しの沈黙。
凪と会うのは野外活動の時以来だ、ひさしぶりって言おうとしたら、「がんばれ凪~」「早く言っちゃえ」「行け~」「がんばって~」と女子達の茶化すような声援に
ていうか、2組の窓からさっきの女子達にすげー見られてるし。
「あのさ、
シッコを我慢しているかのようにもじもじしている凪。
耳が凄く赤い……。
「……付き合って」
「いいよ」
答えるまでに2秒もかかっていなかったと思う。
勝手に口から出ていた。
突然の告白ですごく驚いたし、返事をする前に色々考えないといけない事もあるのだろうけどためらったのは一瞬だけで気がついた時には「いいよ」と言っていた。
凪は「ほんとに!?」と驚きと喜びが混ざったような顔をした。
「うん」
「「キャーーーー!!」」「おめでとー!」「よかったねぇナギー」
凪は騒ぐ2組の女子達の方をクルリと振り向いて小さく拳を突き上げていた。
ふと視線を感じて自分の教室のほうを振り返ったら安達たちがスッと顔を引っ込めた。
再び凪のほうを見ると、凪は恥ずかしそうに「どうしようか……?」と言った。
ここに居ると落ち着かないのでとにかく移動したい。
「とりあえず、一緒に帰るか?」ときいたら凪は嬉しそうに「うん」と答えて、「
中からキャーキャーうるさい声が聞こえてきた。
そのあと、鞄を持って戻ってきた凪と一緒にゴミ捨て場にゴミを捨てに行ってそのまま一緒に帰る事になったんだが――。
どうしたらいいんだ!
初めて彼女が出来たんだが! しかも学校でいちばんかわいい女と付き合ってしまったんだが!
キラキラした女だしすげーお洒落だし大人っぽいし恋愛経験も多そうだし。
がっかりさせないように頑張らねえと前の彼氏の方が良かったなんて言われてすぐに振られそうだ。
で、どうする!?
とりあえず彼女と一緒に道を歩くときは男が道路側にたつという恋人の基本はクリアした。
彼女の歩幅のペースに合わせて歩くというのもクリアだ。
次は何だ?
こういうのは男がリードしてひっぱっていかないといけないんだよな。
手を繋ぐか?
カップルは二人でいる時は手を繋ぐんだよな?
凪が付き合ってと言ってきたのもやっぱ彼氏がほしかったからだろうし、イコール手を繋いで帰ったりしたいからだろうし。
なんか手にすげえ汗かいてきた。
握った時にベトベトしてキモちわるいと思われたら嫌だ、ズボンで拭いておこう。
ていうか付き合って30分も経ってねえんだぞ、まだそこまでの仲じゃねえだろオレたち!
チラッと凪の顔を見たら困惑しているような嬉しいような何とも言えない表情をして歩いていた。
気まずい……。
会話だ!
まずは会話が先だ!
なんでそんなあたりまえの事を忘れていたんだバカかオレは。
で、
何を話せばいいんだ!
なにも思いつかないんだが!
テンパり過ぎだろ! 一回落ち着け、緊張しているのがばれたらよけいに恥ずかしいしダサイ、男らしく堂々としろ堂々と、顔をあげて背筋伸ばして胸を張れ。
余裕を見せろ。
そうだ余裕だ、余裕のある男は無理して喋らなくても良いんだよ。
沈黙? それがどうした、沈黙なんて気にするのはガキだけだ、爺さんばあさん夫婦を思い出せ、お互い無言でもまったく気になんかしてないだろ。
それでいいんだ、それがカップル長続きの秘訣だ。たぶん。
「あのさ……凪たち今どこに向かって歩いてんの?」
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