第25話 夏まつり

 夏休みに入ってすぐの頃、クラスの人気者たちが企画したクラス会兼ビーチパーティーに誘われたが行かなかった。


 リョウがスーパー銭湯の割引券をたくさんもらったからみんなで行こうぜってなったけどそれも断った。


 ゲンタの家族が旅行で2日間帰ってこないというのでみんなでゲンタの家に泊まろうぜというイベントもあったが、オレは友達と一緒だと落ち着いて寝れないのでその日は夜まで一緒に遊んでみんなが眠くなる頃には一人で歩いて帰った。


 その後はとくに何もなくいつもの放課後と変わらないようなダラダラした日常を過ごして一ヵ月はあっという間に過ぎた。


 そして今日もシュウゾウの部屋でダラダラとたむろっていた。

 シュウゾウの部屋は冷房が効いているしマンガもゲームも沢山あるからみんな大好きなのだ。

  いつものようにシュウゾウとヨースケは床に座ってテレビゲームをしてリョウとゲンタはベッドに寝そべりマンガを読んでいた。

 オレはゲームもマンガもとっくの昔に卒業した、よくみんなが盛り上がって話をしているアニメの話題も興味はない、そんなものはガキが見るものだ。


 じゃあオレはこんな所で何をしているのかというとシュウゾウの年の離れたDJをしているお兄さんのファッション雑誌を読んだり、たくさんコレクションしている洋楽CDの棚からジャケットが気になるやつをコンポで流してリズムをとりながら歌詞カードを読んでいた。

 外国人はテンションもたけーしすぐパーティーするしすぐ踊りだすしリズム感もすげえ。

 オレは将来グローバルに活躍するから今から海外の文化や流行には敏感にならないといけない、英語のリスニングの勉強にもなるし一石二鳥だ。


 じっと座っているのも飽きてきたころたまたま再生したCDがめっちゃご機嫌な曲だったので「みんなも踊ろうぜっ」と立ちあがって踊りだしたら全員に無視された。

 

 楽曲に合わせてノリノリで「フーーー!!」と叫んだらシュウゾウに「うるさいバカ音楽を止めろ」とキレられた。


 コンポの音量を絞り椅子に反対向きにもたれ座って、ゲームやマンガに夢中になっているみんなを見おろした。

「はぁ、せっかくの夏休み、しかも中学最後の夏休みだぞ、こんなんでいいのか? もっと何か楽しい事しようぜ」ってつぶやいたらヨースケが「今度映画でも観に行くか?」と言って、ゲンタが「今面白いやつやってないだろ」と。

「じゃあカラオケにでも行くか?」とシュウゾウが言ったら。

「俺今あまりお金持ってないんだよなぁ」

 ゲンタお前はマンガの買い過ぎだ。

 まあオレも映画とかカラオケよりも野外で自然を感じながら体を動かすことがしたいなと思っていたから「たまには運動公園に行って思いっきり運動するってのはどうだ? お金も使わないし楽しいんじゃないか?」って言ったら。


「今週末夏祭りがあったよな? 彼女たちも誘ってみんなで行くか?」とリョウが言い。

 みんなは「「いいねー」」と答えた。

 オレもいいねと思った、お祭り楽しそうだ。

 


        ◎



 夏祭りの日。

 いつもの5人とヨースケの彼女の渋谷葵しぶたにあおいとリョウの新しい彼女のエリカの合計7人でタクシー2台で割り勘で祭り会場へ向かった。

 ちなみにエリカは中学2年らしい。

 茶髪の不良少女だ。


 まつりのメイン会場にはこれから色々な催しが行われるであろう舞台があったり、たくさんの屋台、キラキラ光るおもちゃにおいしそうな焼きトウモロコシ、りんご飴、わたあめ、チョコバナナ、たこ焼き、焼きそば、お面、金魚すくい、ふわふわと浮遊するキャラクターの風船、くるくる回る蛍光色のフローズンドリンクにカラフルなかき氷、フルーツやクリームがたっぷりのクレープもあった。


 どれを買おうかなってすっごくワクワクした、それもつかの間、他校の不良集団に目をつけられてオレたちは逃げるように人けの少ない近くの公園に避難することになった。

「ねぇ何で逃げなきゃいけないの~?」と不満そうにエリカが言う。

「あいつら人数多過ぎだろ」

「めっちゃガンつけてきてたな」 

「無視すればいいじゃん」

「無視すればいいって問題じゃねえんだよ、お前は何も知らねえんだから黙っとけよエリカ」

「リョウひどっ……」

 ほんと酷いな、彼女に向かって黙っとけとか、何でこんなのと付き合ってるんだこの女は、もっといい男は他にもいるだろ、たとえばオレとか。


「交番に行っておまわりさんに助けてもらえばいいんじゃない?」と渋谷葵が言った。

「それはさすがにダサ過ぎ」

「どうせ警察に言ってもあいつらまともに取り合ってくれないぜ」


 何だかみんなはもめているが、オレはとりあえずかき氷だけは買えたのでよかった、レインボー味うめえ。

 隣りにいたゲンタがちょっとだけ味見さしてっていうからカップごと渡したらスプーンに山盛りにすくって一気に半分以上食べやがった、しかも頭にキーンときたとか言って吐き出してるし何て野郎だ。


「暑いな~、これからどうする~?」とヨースケ。

「祭り会場には戻れないしな」

「エリカお腹空いた~」

「もうお昼だし、どこかで食べるか」

 それで向かったのが近くにあったどこにでもある有名なファストフード店。

 ポテトとハンバーガーとシェイクを食べた、美味うま

 しばらくその場でダラダラした後、どこか行こうってなって、外は暑いからと冷房の効いているゲーセンに行くことになった。

 シュウゾウは高校生の彼女と約束があるからと先に別れた。

 

 ゲームセンターで皆が楽しく遊んでいるところをオレは少し冷めた目で見ていた。

 テレビゲームには興味ねえしぬいぐるみとかお菓子はUFOでつかまえるより普通に買ったほうが確実に手に入るし安く済むし、パンチがしたけりゃクッションにやればいいし。バスケットも公園に行けばいくらでもボール投げれるしダンスも音楽さえあればどこでも踊れるし、太鼓だって棒が2本あればどこでも叩けるし。

 おこづかいがもったいねえ。

 ただしパンダの乗り物は面白そうだったのでおごるからとゲンタを誘って一人1台ずつで乗った。楽しかった。

 ゲンタは最初恥ずかしいから嫌だと断っていたけど、遊ぶ金がないから2000円貸してくれってしつこく言ってくるので「パンダに乗るんだったら貸してもいいぜ」と条件を出したら渋々だが乗ってくれた。


 こいつら不良たちにお金を貸したらほぼ戻ってくることはない。

 ヨースケとシュウゾウにもずっと前に貸したままだが未だに返してこない。

 返せ返せとしつこく言うのも関係がギスギスするだけだし付き合い費用みたいなものだと思ってあきらめている。

 人に金を貸す時はあげるつもりで貸せっていう言葉はマジでいい言葉だと思う。



 その後はリョウたちカップルとは別行動になって、残った4人でタクシーを割り勘して帰る事になった。ゲーセンで持ち金を全部使い果たしたゲンタの分はオレとヨースケで割り勘した。


 タクシーの中でちょうど20時を迎えて、ビルの隙間からほんのちょっとだけ打ち上げ花火を見ることが出来た。

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