第24話 夏休み初日のプール掃除

 朝、目が覚めて喉が渇いていたのでキッチンへ行き水を飲んだ。

 今日から夏休み、昨夜はテレビをつけたらたまたま昔の洋画をやっていて何となく観ていたら寝るのが深夜0時を過ぎてしまった。

 まだちょっと眠いなぁなんてあくびしをして居間のソファに寝そべって目をつぶっていたら、トイレの水が流れドアが開く音がした。それから洗面所で手を洗う音、そして「あ、立春起きてたの、おはよう」

 母さんの声だ。

「おはようございます‥‥」オレは目をつぶったまま答えた。

「きのこパスタ作ってみようと思うんだけど」

「え、なんで、めずらしい……」

「麺って買ってあったっけ?」

「下の戸棚の奥のほうに半分使った残りがあったはず、ていうか何でこんな朝早くから、寝なくていいの?」

「昨日は早く帰ったし、ひと眠りしたから大丈夫……あ、あった!」

 昨日って今日の事だろ。


「麺を茹でる時って塩もいれるんだっけ?」

「入れるよ」

「何分くらい茹でたらいいんだっけ?」

「好みで……」

「好みでって言われても」

「袋に茹で時間書いてあるんじゃない? ちゃんと読んで……」

「あ、書いてあった」

 はぁ、オレは眠いっていうのに質問攻めやめてくれ。

「立春のぶんも作っておくから後で食べてね」

「やった、ありがとう……」

「私は昼から出かけるから、帰りは遅くなるかも」

「はい……」

「そういえば昨日学校から電話があったよ」

「え、何で、いつ?」

「出勤前で慌てていたから詳しくは聞かなかったけど、男の先生が明日も学校に来るように伝えてって言ってたよ」

「は? 明日って今日じゃん!?」オレは飛び起きてキッチンの方にいる母さんを見た。

「メモして置いてあったでしょ?」

「見てないし!?」

「そこのテーブルに、見つけやすいように置いておいたよ」

「はあ? メモなんてないけど?」

「おかしいな、その辺に落ちてない?」


 オレはソファから降りてローテーブルの下を探した。

 そしたら一枚の紙きれが落ちているのを見つけて拾った。

[立春へ、明日は9時半までに職員室へ行く事]と書いてあった。

 壁の時計を見たらもう9時過ぎてるじゃねえか!

 急いで顔を洗って髪をセットして歯を磨いて制服に着替えてアパートを飛び出した。


         ◎


 時間はなんとかギリギリ間に合った。

 職員室の外窓からこっそり中をのぞいてみたら、先生たちは居なくて制服を着た石川陽菜乃いしかわひなの安達琉偉あだちるいが少し距離をあけて立っていた。

 「何をしてるんだあいつら」とついひとりごとをもらしたら後頭部をポンと押され「お前が何をしているんだ、早く入れ」と体育教師の角田かくだに言われた。


 職員室に入ると角田は自分のデスクの所へ行き回転イスに大股開きで座ると「お前たちちょっとここに集まれ」とオレたち三人を手招きした。

 

「今日はどうして呼ばれたのか分かるか?」

 角田の問いかけに石川か安達が答えるかと思って二人のほうを見たら、俯きがちでもじもじしているだけで何も答えようとしなかった、だからオレが角田の目を見て首を横に振った。

 角田は少し呆れて「お前たち三人だけ水泳の授業に一度も参加していないんだよ、だから今日は罰としてプール掃除をしてもらう事にした」

 はい、と鍵を渡され「終わったら呼びに来い」と角田はデスクに向き直すと何かの書類に目を通していた。

「何を見ている? 早く行け」


 ミ~ンミンミンミンミ~ン


 とりあえずプールに来た、水はすでに抜かれていた。

 石川と安達はどうしていいのかわからない様子でもじもじしてつっ立っているだけだった。このまま待っていても何も始まらなさそうだったのでオレがしっかりしなければと思った。

 安達と石川はオレの事をどう思っているのかわからないけどここは多少強引にでも指示を出して進めよう。

 靴下を脱ぎ、ズボンの裾をくるくると巻き上げた。

「よし、じゃあ掃除はじめようぜ」

 掃除用具入れからデッキブラシ2本とホースを取りだし、蛇口にホースをさし込んで水を出した。

 石川にホースを渡して「これで浮いている汚れを流して」とお願いして安達には「はい」とただデッキブラシを渡した。

 背中を見て学べではないけどオレがブラシで汚れをこすっているのを見れば何をやればいいかはおのずとわかるよな。


 安達はちゃんと分かってくれた。

 プールの底はすっげーヌルヌルしていてオレだけ滑って制服の半分がびしょ濡れになった。

 夏といえどもまだ午前中は涼しいほうで、濡れたところが少し冷たかった。

 

 石川も安達も真面目で黙々と作業をすすめてくれるので1時間半くらいで掃除は終わった。

 

 オレが角田に報告しに行くと、ちゃんとキレイになっているかを角田がプールまで確認しに来てOKがでて「おつかれさん、これで冷たい飲み物でも買って飲んで帰れ」と三人とも120円ずつもらった。ラッキー。


         ◎


 紙パックのトマトジュースを飲みながらスキップでアパートに帰ると母さんは出かけてて台所にはまな板やら包丁やら汚れたままの調理道具がたくさん出されていた。

 はあ、料理する時は片付けながらしろよな……。

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