第15話 気持ちはよくわかる

「私はワニである。名前はジョージ。動物保護区の中にある小さな池の中で生まれた。水が濁っていて何も見えずキューキューと鳴いていた―――

 

 たいくつな国語の授業。

 いつもの先生が産休に入ったらしく今日から別の女の先生が代わりに来ていた。

 

 クラスメイトが教科書を読む声をBGMにして頬杖ほおづえをついて空に浮かぶ雲をぼーっと眺めていたら意識がどこかへ飛んで行きそうになる。


 楕円形の雲だ。

 ハンバーグみたいだな、うまそう。

 


―――しかしその時はお腹がいっぱいだったから特別に美味しいとは思わなかった」

「ハイそこまでー,座っていいです。じゃあ次は……石川さん」

「は、ハイッ」

 前の席の石川はびっくりしたように返事をすると自信なさげにゆっくりと立ち上がった。

 嫌な予感がした。


「じゃあ続きのところから読んで」 

「ハイッ」


 石川は小さく深呼吸してから読み始めた。

「……ヵ…ぅっ……ふゎ……ゎ……ぃ……ぅ」


 声ちっちゃすぎ! 

 すぐ後ろにいるオレでも聴き取れねえ。


「もっと大きい声でー」

「ハヒッ! こぅし……ぅえっ……ぃぉぃ……ゅる……」

 石川は一生懸命に大声を出しているつもりのようだがそれでもまだまだ小さかった。


「もっとおおーきくはきはきと、あともう少~しゆっく~り落ち着いて読んでみてー」

「ハイッ、だぃぃちもぅ…ぉもってしょそくさぇ‥‥べきはず…」


 石川の背中は微かに震えていた、声も震えているしちょっと早口気味になっていて不自然な感じでよけいに聞き取りにくくなっていた。


 小学六年の時にも同じような事があった。

 あれから2年以上経って中学3年生にもなったから石川も少しは変わったかなと思っていたけど何も変わっていないみたいだ。


 わかる、気持ちはよくわかる。

 大勢の前で喋るのって緊張するよな。

 オレだってめちゃくちゃ緊張するし苦手だ。

 失敗したらどうしようとか、変だと思われたらどうしようとか考えちゃうんだよな。

 でもこういう時は思い切っていかないとダメなんだよ。

 弱みを見せたら終わりなんだよ。

 たとえ答えが間違っていたとしても変だったとしても、堂々と胸張って自信持っているように見せないと舐められてキモいって笑われてバカにされんだよ。


 まあオレはそんな事で笑ったりバカにしたりはしないけどな。

 そういうのは引き立て役の雑魚のモブ共のする事だしな!

 頑張れ石川!


「でこぼこ、…ぃてまるで、‥‥わぁやまだ…ぉのごの」

「もういいですありがとう座って。じゃあ次は……白石さん」「はい」

 案の定、教室のあちらこちからクスクスと笑い声が聞こえた。


 何あれ。

 ぷっ。

 キモー。


 俯いたまま席に着く石川。


 見てらんねえ。

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