第12話 席替えだ!

 6時限目はゲンタが話をしていた通り担任の杉浦がやってきて席替えをする事になった。といっても進行役は飯田汐里いいだしおりらクラス委員に丸投げで杉浦は教卓横にある席に座って何かの書類を読んだり書いたりしているだけだ。


 クラス委員達がくじ引きや座席表を準備している間に他の生徒は机の中の物を全部出してかばんに詰め込みいつでも移動できる状態で待った。

 

 ここ草林くさはやし中学校では何か特別な事でもない限り滅多に席替えは行われない、あっても1年に2回か3回あるかないかだ。生徒からの要望がたくさん出てもやるかやらないかは担任の匙加減で決まるのだ。次はいつになるかわからない、だから生徒たちにとって席替えは一大イベントなのだ。


 みんなは誰と隣になりたいとか、近くになれたらいいねとかそんな話をしてそわそわしていた。

 オレも人見知りなところがあるのでこいうのは結構ドキドキする。

 人気者のキラキラした連中は男でも女でも一緒にいると緊張するのでちょっと苦手だ、できれば隣は大人しくてあまり気を使わなくていいタイプのヤツが良いななんて思いながら机の上のリュックにあごをのせて待っていた。

 

 それから少し経って飯田汐里いいだしおりが「くじ引きの用意が出来ました、今座っている席の順に並んで一人ずつ引いていってください」と言った。

 デフォルトの席は五十音順で決まっていてオレの苗字は朝世あさせだから早い段階でくじを引くことが出来た。


 結果は廊下側の列、後ろから2番目の席だった。

 あまり変わらねえ、後ろに2つずれただけじゃねえか、まあいいや。


 席に着き机の中に教科書などをしまっていたら「なんだ、前は朝世あさせかよ……」とあからさまに不満そうな顔をした酒井和也さかいかずやが教卓のほうからやってきてオレの後ろの席に座った。

 サッカー部のお調子者でオレが一番苦手なタイプだ。

 べつに嫌いってわけじゃないむしろ憧れてすらいる、でもそういうキラキラした奴らといるとなんか緊張するから苦手ってだけだ。


 和也はケータイを取り出すとピコピコとゲームをはじめた。

 オレも特に話すこともないので授業終了のチャイムが鳴るまで机に突っ伏して目をつぶっていることにした。


 そしたら「うげえマジかよサイアク!」とうるさいガラガラのハスキー声が聞こえてきたので気になって頭を起こして振り返ると、クラスのリーダー格の佐々木剣士ささきけんしが窓際の一番後ろの席の所でパンパンに膨らんだバスケ部のエナメルバッグを肩に掛けたまま立ち尽くしていた。

「はあ、せっかく最高の席をゲットしたと思ったのに、石川の後ろとかありえないんだが」


 剣士の視線の先には暗黒色のボサボサの髪が机に突っ伏して寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る