第11話 すっっげーかわいい

 昼飯を食べ終わるといつものダラダラのんびりタイムがやってきた。


 シュウゾウとヨースケはケータイで彼女とメールをするのに夢中でゲンタは芝生に寝転がりマンガ雑誌を読んでいた。

 オレはケータイがあまり好きじゃない、最近のやつらは暇になったらすぐケータイをいじる、せっかく友達といるんだから一緒に何かして遊んだ方が楽しいしそのほうが良い思い出にもなるのにせっかくの青春がもったいないと思う。

 母さんは立春たつはるもケータイ持ってたほうが良いんじゃないかと言ってくるけど、クラスで持ってるやつもまだ少ないし今はいらないと言って断っている。

 毎月の料金も高いしな。

 

 シュウゾウのケータイ画面を覗いていたリョウは飽きてきたのか大きくあくびをすると「ふぁ~眠くなってきたぁ~ちょっとひざ貸して~」とシュウゾウの胡座あぐらを枕代わりにしてオレの胡座には足をのせてきた。

 シュウゾウはメールの文字打ちに集中しながらもスッとひざをどけてリョウは芝生に頭を打ちつけた。

いてっ、何でよ~ひざ枕ぐらいさせてくれてもいいじゃ~ん、減るもんじゃないしよ~」

 無視するシュウゾウ。

「彼女にはいっぱいしてあげているんだろ~? ケチー」とリョウは頭の後ろで手を組みながらぼやいた。

「何が嬉しくてお前にひざ枕しないといけないんだよ」

「シュウゾウはいっぱいしてもらう側だったか」

「だまれっ」

「ところでお前達ってどこまでいってる? もうやった?」

「まだ、でもこの前手で抜いてもらった」

「いいなぁオレも年上の女に手で抜いてもらいてぇな~」

「アリサは?」

「あいつは恥ずかしがって何もやってくれないんだよ」

「胸は揉ませてくれるのにか?」

「自分が触られるのはいいみたい」

「ひでえな」


 中学3年にもなるとまわりは彼女持ちだらけだ。

 この5人の中で彼女がいないのはオレとゲンタだけ。

 ゲンタは普段の態度を見るとまあしょうがないかなとは思うけどオレは別にモテないってわけじゃない。     

 女子にモテるための努力はちゃんとしているしオレ的には自分は学校全体の男の中でもトップクラスのいい男だと思っているし女全員がオレに惚れていてもおかしくないと思っている。

 今そうなっていないのは女子どもがガキすぎてまだオレの魅力に気づけていないだけだ。

 中にはちゃんとわかっている有能な女もいて、朝世くんってかっこいいねモテるでしょ?とか朝世くんってなんか王子様みたいだねなんて言われた事もあるし。

 バレンタインには知らない先輩とか後輩からもチョコをもらった事があるくらいだしオレが本気で彼女をつくろうと思えばいつでもいくらでもつくれるはずだ。

 ただそういうのは中学生にはまだ早すぎるっていうか、なんていうか、もっと大人になってからでもいいかなって……。

 リョウ達から彼女とあんな事やこんな事をしたって言う話を聞かされるとちょっとはうらやましいなとは思うけど……。



 突然、マンガを読んでいたゲンタが何かを思い出したように口を開いた。

「そういえばこの後の6時限目は席替えをするんだよな」

「まじで!」

「ああ、朝のホームルームで担任が言ってた」

「オレ保健室にいたから聞いてない」

「いいなぁ1組だけ、俺たちのクラスも席替えしたいなぁ」

「俺は美月ちゃんの近くの席になれたらいいなぁ」

「ゲンタお前は石川の隣にでもなっとけよぎゃははは」

「オエー、マジでそれだけは勘弁」

「そうだった俺たちのクラスには石川がいるんだった、あいつの近くになったらマジでサイアクだな」

「もし石川の近くになったら俺登校拒否するかも」

「ぎゃははは」

「俺ならたぶん窓から身をなげ―――

 いじめ話には加わりたくない、早く話題を変えよう。

「おい、見ろよあの雲! チンコみたいじゃね?」


「は?」

「どこが?」


「チンコなんてどこにもねえだろ、お前は変態だからそう見えるんだよ」

「おいヨースケ、おまえあおいと近くの席になれるといいな」

「うるさいゲンタだまれ」

「何でよ、彼女とは近い方が良いだろ?」

「学校でイチャイチャするのは嫌なんだよ」


 ヨースケの彼女は同じクラスにいる。

 それなのに学校では彼女と話しているところをあまりみた事がない。

 そういえば校内で堂々とイチャイチャしているカップルってあまり見たことがないな。

 学校帰りはカップルで歩いているのをよく見かけるけどなんでだろう。

 そんな事を考えながらオレはひざの上にのったリョウのきったねえ靴を見ていた。

 買ってから一度も洗った事がないんじゃないかというほどに汚れてボロボロになった靴をリョウは素足のままで履いている。

 こんなんでも彼女できるんだな、すっごくくさそうだと思って鼻を近づけたら「嗅ぐなヘンタイ」と顔面を蹴られてしまった。

 クサッ!!


 それからリョウは目をつぶってあとの3人はケータイとマンガに夢中で再び静かな時間が流れた。


 オレはこんな仲間内のただダラダラした時間がもったいないと思っていて以前はそばでひとりで筋トレとかストレッチとかをやりながら雑談に参加していたんだけど『お前バカみたいだぞ』とか『恥ずかしいからやめろ』って言われてからはじっとするようにしている。

 

 特に話す事もないので流れていく雲をしばらくぼーっと眺めていたがちょっと飽きてきたのでみんなに話かけてみる事にした。


「弁当美味しかったな~?」

 誰も反応しない。


「今日はいい天気だな~?」

 誰も反応しない。


「風が気持ち良いな~?」

 もちろん誰も反応しない。


 ずっと上を向いていて疲れてきたので顔を下ろして首を揉んでいたら、少し離れたところから女子達のかたまりがぺちゃくちゃお喋りをしながらやってくるのが見えた。

 同じ学年のギャル軍団だった。

 何気なく見ていたら、その中にすごく目立っている金髪の女がいるのに気がついた。


 短めのスカートからすらりと伸びた脚、キラキラした小麦色の肌、おしゃれに着崩した制服、おっぱい、パステルピンク色の唇にひじきみたいなバサバサまつ毛、水色カラコンのでっかい瞳、つるりとした綺麗なおでこ、パーマで盛り上がったでっかい頭には花が咲いている。


 すっっげーかわいいと思った。


 近くを通りすぎる時に彼女もオレに気がついてこっちを見た。

 目が合った瞬間世界から音が消え、まるで映像がスローモーションになったかのような感じがした。


 知らない人をジロジロ見るのは失礼だってわかっているし、いつもなら目が合ったらすぐにらしてしまうのに、何故か彼女の瞳から目を逸らすことが出来ずにガン見してしまった―――。




「おまえ見すぎ」 

「アウッ!!」

 チンコにかかとを落とされて我に返った。

 

「起きてたのか…リョウ……。あの、金髪の女……初めて見た…」とチンコの痛みに耐えながら言ったらリョウが「先週俺たちのクラスに転校してきたやつだぞ」と教えてくれた。

「マジで、名前は?」

「何て言ってたっけな~、たしか鈴木ホ……タコ……タタミ……」

 視線を上に向けて考え込むリョウ。

鈴木凪すずきなぎ」とゲンタが答えた。

「そう! 鈴木凪すずきなぎって何でお前が知ってるんだ」

「転校してきたやつがいると知ったら一応調べるだろ」

「女だったからだろ、スケベが」


 すずきなぎか、いい名前だと思った。

「めちゃくちゃ美人だな」って言ったら、どこがだよあんな厚化粧のバケモノお前目ぇ腐ってんじゃねえのか眼科行けよとみんなは笑っていた。

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