第17話「まーた水着忘れたのかお前は、何回目だまったく」

 雲一つない青い空、照りつけるギンギンの太陽、プールサイドの地面は目玉焼きが焼けるんじゃないかというくらいに熱くなっていた。


 中3になって初めてのプールの授業。

 クラスの男子たちが水しぶきを上げて楽しそうに水球をしているなかオレとゲンタとヨースケとおとなしい系オカマ男子の安達琉偉あだちるいの四人はプールサイドでスクワットをさせられていた。


 あちぃ~ツラい~きつい~疲れた~もう無理~と地面にへたり込むゲンタとヨースケに、「お前らちゃんとやれよ」と剣士がプールの中からバシャバシャバシャと水しぶきを飛ばしてきたが二人は「ああ気持ちいぃ~最高~もっとやってぇ~」と喜んでいた。

 安達琉偉あだちるいはツラそうにしながら休み休みゆっくりとやっていた。

 それを横目に情けねえやつらだなと思いながらオレはひとり黙々とスクワット続けた。


 水着を忘れた罰として体育教師の角田かくだから言い渡されたのは腕立て伏せ60回とスクワット60回だ。

 なめられたもんだ、余裕すぎる。


 ゲンタとヨースケはスクワットをまだ60回こなしていないのにズルをして腕立て伏せを始めやがった。

 ヒョロガリの安達は脚をプルプルさせながらもゆっくり着実に回数をこなしているというのに。

 オレはもうスクワット60回はとっくに終わったけどやり足りなかったから安達が終わるまでいっしょに続けることにした。


 それにしても安達のこの伸びっぱなしの黒くて長い髪の毛は見ているだけで暑そうだ、目にかかったり汗で顔に張り付つくのも鬱陶しそうだし、ファッションにこだわっているようなタイプでもないようだし、見かけるたびに切ればいいのにと思ってる。


    

 安達琉偉あだちるいをはじめてみたのは中1の時だった。

 校内でひとりでいる所をよく見かけていた。ダサいメガネをかけて色白で仕草がナヨナヨしていてまるで女が男子の制服を着ているみたいだったから気味悪かったし結構目立っていた。

 まるでカマ野郎だ。

 ナヨナヨしている女みたいなやつはモテないぞ、もっとシャキッとしろよと思った。

 まあオレとしてはライバルが一人減ってラッキーなんだけど。

 男は全員ライバルだからな。


 今回初めて同じクラスになった。

 おとなしいやつらとたまに話をしているのを見かけるけどほとんどはぼっちで小さい本なんかを読んでいる。

 ちょっと気味悪いからみんなも避けているんだろうな。

 オレもまだ一度も話をしたことがないけどそばで一生懸命スクワットをしている姿をみているとちょっと話しかけてみようと思った。


「安達はいま何回目?」

「えっ……、えっと、四十二……」

「四十二か! あともうちょっとだな」

「う、うん……」

「オレが数えるから一緒にやろうぜ」

「えっ……」

「いくぞ」

「待って、もう、終わってるんじゃ……」

「オレ? 終わったけどどうせやる事ないし、暇だし」

「……」

「いくぞ、よんじゅうさん、よんじゅうよん、よんじゅうご」

「ちょっと待って、はやい」

「そうかじゃあ四十四からもういっかい、よんじゅうよん……、よんじゅうご……」


 安達のスピードに合わせてゆっくりスクワットをやっていると負荷がかかる時間が長いからかすごく脚がパンパンになる、ケツにもいい感じにキテるし最高だと思った。


「ごじゅうきゅう、…‥‥あと一回、がんばれ、……ろくじゅう! おわったー!」

「はぁ…‥おわったぁ……疲れた……」

「よし、じゃあ次は腕立て伏せやるか」

「ちょっと待って…‥、ちょっと休憩させて……」

 安達は地面にへたり込んで脚をガタガタ震わせていたが表情はなんだかいつもより明るくて元気にみえた。

 

 しばらく休憩してから腕立て伏せも一緒に始めた。

 安達のペースに合わせてゆっくりと数を数えていたら、先に終えて休憩していたヨースケが「何でお前はそんなに楽しそうなんだ」と呆れたような顔をしていた。


 筋トレは楽しいだろ、勉強だって掃除だって何だって努力するのは楽しい、やればやるだけ自分のためになるしどんどん人生が良くなっていくのを感じる、むしろ何で頑張らないんだ、めんどくさそうにしているやつらの気が知れねえ。

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