第20話 フォークダンス

 午後の体育の授業は2組と合同でフォークダンスの練習をするということでジャージに着替えて体育館に集合した。

 授業が始まるまで友達同士で固まって喋った。

 ゲンタは女子と踊ることに緊張しているのかちょっと大人しくなっていて、逆にリョウは1組の女子たちとも手を繋げるチャンスだと浮かれているようだった。

 オレは鈴木凪すずきなぎの事が少し気になっていた。

 いま鈴木は体育館の入口の所でギャルの女子軍団に混ざっておしゃべりをしている。

 今日はパーマの髪を後ろでまとめてポニーテールにしていた。

 似合っててめちゃくちゃかわいい……。


 目が合った。

 すぐに逸らした。


 鈴木を初めて見かけてからもう2か月くらい経ってるけどまだ一度も喋った事はない。

 廊下ですれ違ったり図書室にいたり校庭だったり校門のところだったり学校付近のコンビニとかで彼女をちょくちょく見かけるようになったけどその度に目で追ってしまって見つめ合っては目をそらすというのを何度も繰り返している。

 今まで女の人をガン見する事なんてなかったんだけど何故か鈴木がいるとつい見てしまうんだ。

 あまり見すぎてキモいと思われたら嫌だからこれからはできるだけ見ないようにしよう。


 チャイムが鳴って体育教師と担任たちがやってきた。

 オレたちは男女別で列を作って並べさせられおおきな輪を作り、男が内側で女が外側になるようにして向き合った目の前の人とペアにさせられた。


 輪の真ん中で先生たちが陽気な曲に合わせて踊りだし、それを見よう見まねで真似て踊れと言う。

 最初はみんなどうしたらいいのかとまごまごしていたが何とか手を取りあって踊り始めることができた。

 踊りは結構簡単ですぐに覚えられた。


 それでもやっぱ恥ずかしがるやつが多くて指だけ絡めていたり指一本だけを握って踊っているやつなんかもいた。隣で踊っている福本尊ふくもとたけるにいたっては指先だけちょこんと触れているような感じで踊っていた。なんかそっちの方が逆に恥ずかしい気もするんだが。

 オレも恥ずかしさはあったけどここは堂々としている方がかっこいいと思ったから平気なふりして誰とでもガッツリと手を握っていた。


 一通り踊り終わると男子がひとつずつ横にずれてペアを交換していく、鈴木はどの辺にいるんだろうと探してみたら15人くらい先の所にいるのを見つけた。

 男子と踊ることに緊張しているのか運動が嫌いなのか表情はちょっと暗い感じだけどそれでもやっぱりかわいい。

 また目が合ってしまった。

 すぐに逸らした。


 そんなとき、鈴木の前の前のペアの男子が列の輪からはみ出すようにしてひとりで踊っているのに気がついた。何だか焦っているような感じで変な踊り方だった。

 何をしているんだとよく見てみたら、そいつの相手は石川陽菜乃いしかわひなのだった。

 石川に触れたくないから距離を取りながらフォークダンスを踊っていたのだ。


 そのまま観察していたら石川とペアになった男子はみんな距離を取って石川に触れないようにしながら踊っていた。 石川とぶつからないように「うわっ」とか「あぶねっ」とか言いながら避けているやつもいた。それを見て回りの男子も笑っていた。


 ガキだなと思った。


 どんどんペアは変わっていき、次はオレの隣にいる福本尊ふくもとたけるが石川とペアになる番がきた。

 福本はどうするんだろうと注目していたら、緊張しているような恥ずかしがっているような何とも言えない表情をしながら石川と指先だけ触れるようにして踊っていた。

 他の女子の時と同じじゃねーか。

 でもそれって福本は石川の事を特別差別してないって事でもあるよな。

 なかなかやるな福本。


 もうすぐオレの番だ。

 差別は良くないのは分かっている。

 差別なんてクソ野郎のする事だ。

 オレはさっきから女子達の手をがっつり握っていたから石川の手もがっつり握らなきゃ差別になってしまう。

 でもオレだけ石川の手をガッツリ握ったらどうなるんだ。

 見たやつらにどう思われるんだ?

 ラブラブ~とか言われて福本みたいにみんなに揶揄からかわれるのかな。

 ってか福本は絶賛揶揄からかわれ中だっていうのにそれでも他の女子と同じように接してるじゃねえか!


 そんなこんな考えているうちにとうとう俺の番が回ってきた。


 ええい、もうどうにでもなれ。

 どうせ今はみんな自分の事でいっぱいで人の事なんてほとんど気にしている余裕なんてないはずだ。

 石川の手をちゃんと握ろう、そう覚悟を決めてオレは思いきり両手をひらいて石川に差し出した。

 さあいつでもこい石川!



 石川はオレの両手の中指の先っちょに軽く触れるだけだった。

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