第8話 5月

 ピピピピッピピピピッピピピピッ

 目覚まし時計の音で目が覚めた!


 時刻はちょうど6時30分、オレは早起きが大好きだ。

 ベッドから飛び起きてカーテンと窓を全開にする!

 思い切り深呼吸をして伸びをした、キモチイイーッ!

 いつ吸い込んでも朝イチの澄んだ空気は美味いなー。

 東の空が明るくなってきていて綺麗だ。


 人の気配を感じて下の道路に目をやると薄汚れた格好の2人組のおじさんが仲良く肩を組んでよろよろと歩いていくのが見えた。

 ホームレスだろうか。

 一人は片手に一升瓶を握りしめ、もうひとりは紙袋と新聞のようなものを握っていた。

 何か声が聞こえる、耳を澄ましてきいてみた。


 チンチンドンドンチンドンチン~♪ チンチンドンドンチンドンチン~♪


 よく分からない陽気な歌を2人で歌っているのが微かに聞こえた。

 あいさつしてみよう。

「おはようございまあああああああす!!!」

「うっせえばかやろうシネーッ!!」

「何時だと思ってんだクソガキぶっころすゾ!!」

 オレはすぐに身を隠した。 

 怖えーっ。

 オレたちの大声に反応してどこかのニワトリとどこかの犬も吠えだした。

 あんな大人には絶対になりたくないなと思った。


 気分を上げようとCDコンポで流行りの洋楽を流した。

 ノリノリでトイレに行きノリノリでションベンを済ませてから部屋に戻り、朝の筋トレの開始だ。

 まずは軽くストレッチをして身体からだをならす。

 寝起きすぐの運動は控えめにしたほうが良いって雑誌か何かに書いていたから腕立て伏せ、腹筋、スクワットは各60回だけ声に出して数えながらやった。

 学校はやるかやられるかの戦場だからいつでも身を守れるように普段からちゃんと鍛えておかないといけない。


 運動の後は栄養補給も大事だ。

 汗だくのまま台所へ行ってシェイカーに牛乳をそそぎ、マルチビタミンミネラル配合チョコレート味のプロテインの粉をぶち込む。フタをしておもいっきり振りまくったら栄養満点チョコレートシェイクの完成だ。バナナと一緒に食べるとチョコバナナ味が楽しめる。


 朝食をとりながら母さんの部屋のふすまをそーっと開けて中をのぞく。

 今日はちゃんと部屋着に着替えて布団の上で気持ちよさそうに寝ていた。

 もう一度トイレに入ってクソをした後シャワーで軽く汗を流してから髪をセットしたりなんかして学校に行く準備をほぼ済ませた。

 自分が脱いだ服と母さんが部屋中に脱ぎ散らかした服を拾い集めて洗濯機に入れようとフタを開けたら中に衣類が結構たまっていたので洗剤を入れてスイッチを押しておいた。

 台所へ行きテーブルの上に置いてあるバナナの房からもう一本もぎ取って制服ズボンの後ろポケットに挿し込む。

 お昼のおやつ用だ。

 今日はまだ時間があったので自分もつまみながら母さん用の簡単な食事も作っておくことにした。


 フライパンに卵を割って目玉焼きを焼いている間にレタスとトマトと玉ねぎを洗って食べやすい大きさにちぎったり切ったりしておく。


 レタスをムシャムシャ食べながら食パンを袋から2枚取り出してみみを切り落とす、切り落としたみみをムシャムシャ食べながら1枚目の食パンの上にチーズとハムと缶詰のツナをのせてマヨネーズをぶっかけてその上に先程切った野菜をのせて食パンをかぶせてサンドイッチの完成だ!

 食べやすいように真ん中からバツ印に四等分したものを皿に盛り付けラップをしておいた。


 目玉焼きが丁度いい感じに半熟になってきたので火を止め、余った野菜は小皿にとって缶詰のコーンを振りかけてサラダにした。


 後はキッチンテーブルの上に並べて置くだけだ。


 母さんはズボラな人でひとりの時はインスタントラーメンとか菓子パンとコーヒーだけで食事を済ませたりすることがあるので出来るだけ栄養価の高い卵とか野菜を食べてもらいたい。


 おっとドレッシングを忘れていた、ちゃんと冷蔵庫から出してサラダの隣に置いておかないと。

 ズボラな母さんはサラダだけ置いておくとそのまま食べられるものだと思って何もかけずに食べてしまうことがあるのだ。まあそれでもワイルドでいいんだけど、どうせならおいしく食べてもらいたい。

 冷蔵庫を開けたらおいしそうなオレンジもあったので四等分に切って小皿にのせてラップしてサンドイッチの隣に置いておいた。


 本当はサラダもオレンジも冷やしておいたほうが美味しいんだけどな、ズボラだから冷蔵庫の中まで確認するかもわからないしこうしてテーブルの上にわかりやすく並べておくしかない。


 もっと栄養がほしいな。

 そばにプロテインも置いておこう。

 

 ノートから紙を1枚ちぎって[お昼ご飯 食べて プロテインは牛乳と混ぜて飲んで]とマーカーペンででっかく書いて、風で飛ばされないようにお皿の下に挟んでおいた。


 壁の時計を見たら8時16分!! 

 やべー!!のんびりしすぎた!

 ダッシュで洗面所へ行き超高速で歯磨き舌磨きブクブクぺーした後、居間のソファに置いていたリュックをしょって、玄関でスニーカーを履き母さんの脱ぎ散らかしたパンプスを揃えて並べて小声で「いってきまーす!」と叫んでダッシュでアパートを出た。

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