第6話 キラキラした大人になりたい

 オレは小学校低学年の時はおとなしくて引っ込み思案な性格で昼休みは自分と似たようなおとなしい友達とゲームやマンガやアニメの話などをして遊んでいた。

 スポーツはヘタクソだったけど勉強は得意だった、授業中に先生の話をちゃんと聞いていれば100点なんて簡単にとれたし友達に学年1位をとるくらいの頭が良い奴がいてそいつとテストの点数を競いあったりなんかもした。

 そんな学校生活で特に何の問題もなく何も気にしていなかった。

 

 でもある日突然気づいてしまったのだ、世の中には2種類の大人がいると言う事に。


 何がきっかけだったかは覚えていないけど、世の中には明るくて元気があってキラキラしたカッコイイ大人と、暗くてどんよりとしたダサくて目立たないかわいそうな大人がいると言う事に気がついてしまったのだ。

 テレビで見かける成功しているスポーツ選手や有名人などはみんなキラキラしていてお洒落で華やかでモテモテで表情も声も明るい、それに比べて犯罪者やオタクやホームレスはボロボロで虚ろな目をしてダサくてボソボソ喋って元気がない事が多いし、街を歩くだいたいの大人たちは暗い色か地味な色の服を着てつまらなさそうな表情をしていて挨拶をしても無視するような人が多い。

 同じ大人でも何でこんなに変わるのか。

 

 そういう目でクラスの皆をみてみたらなんてことだ!? もうすでに小学生の段階でキラキラした大人になりそうな奴らとどんよりした大人になりそうな奴らに分かれているじゃねえか!

 オレは確実にどんより側の人間だった。


 誰だってキラキラした大人になりたいよな?みんなにモテモテのカッコイイ大人になりたいって思うよな?

 このままではダサくて目立たなくてかわいそうな大人になってしまうと危機感を持ったオレは転校をきっかけに変わる事を決心した。

 


 オタク趣味をやめた。

 僕と言っていた一人称をオレに変えた。

 話す時は大きくはきはきと喋るようにしたし、鏡の前では笑顔の練習もした。

 新しいクラスメイトとは人気者の奴らと仲よくなれるよう出来るだけ自分から話しかけに行くよう努力をした。

 それでまあまあ相手はしてもらえるようにはなった。


 せっかく上を目指すのなら人類の頂点を目指したほうが良い、世界一の男になるためには世界を知らなければいけない。

 世界の流行も知らないといけないし英語も話せるようにならないといけない。

 それでオレは洋画や洋ドラマを好んで観るようになった。

 洋画の主人公はだいたいがマッチョだ。

 筋トレをはじめた。

 


 中学にもなると女にモテたいという気持ちが出てくるようになった。

 テレビや雑誌のモテる男特集には必ず目をとおすようになった。

 身長を伸ばすために大嫌いだった牛乳を飲むようになった。

 女性のエスコートの仕方とか女性が喜ぶデートコースやプレゼントも調べた。

 どういった時に彼氏に対する熱が冷めたかとかなぜ熟年離婚したのかとかの記事もたくさん読んだしそういう男にはならない様にしようと気を付けるようになった。

 ファッションや流行にも興味を持ち清潔感にも人一倍気を使うようになった。


ただ一つだけオレにもどうしようもできない事はあった。

 スポーツだ。

 

 スポーツが出来る男はモテる。人気者グループにいる奴らはだいたい運動系の部活に入っている。これは常識だ。


 中1の時は「お前ガタイがいいから」とクラスメイトのキラキラしたやつに誘われて野球部に入った。

 身体を動かすことは大好きだったからボール拾いやトレーニングは楽しかったけど試合だけが大嫌いだった。

 コケまくってヘマをしまくってチームにたくさん迷惑をかけた。

 運動神経が絶望的だったのだ。

 監督はずっとベンチじゃ可哀想だからと練習試合には出してくれたが余計なお世話だと思った。練習試合といえども負けたら悔しいしヘマをしたらへこむ、先輩たちは立春たつはるだからしょうがない次は頑張れという感じで優しく見守ってくれていたけれどそれが毎回続いていたら罪悪感も凄い。


 結局1年もたたないうちに退部届を提出した。

 こういう時って誰かが引き止めてきそうなもんだけどみんな凄く納得して快く送り出してくれた。

 母さんは練習用のユニフォーム一式せっかく揃えたのにもったいない、結構高かったんだよとグチグチ言ってきたけど。

 それは申し訳ないと思っている。


  スポーツが出来ないとなるとオレはただの勉強の出来るがり勉だ。

 勉強だけできてもモテないし何もいい事はない、ガリ勉と言われてかげでバカにされるだけだ。

 

 正攻法で行けなくなったオレが進む道は一つしかない。

 不良の道だ。

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