第3話 今日から中学3年生

 ハッ!


 目を覚ましたら自室のベッドの上で横向きになって寝ていた。


 ゆっくりと上半身を起こして手の甲でよだれを拭う。


 なんか嫌な夢を見た気がする……。

 

 まだ4月だというのに寝汗がびっちょりで気持ち悪い。


 ふとカーテンが明るくなっているのに気がついて慌てて枕元の置き時計を確認したら7時56分、「やべー!!目覚ましセットするの忘れてたー!!」

  急いでベットから飛び起きてダッシュでトイレに駆け込みションベンをぶっ放した後ダッシュで洗面所に向かいヘアアイロンのプラグをコンセントに挿し込んで220℃にセットしておいた。


今日は中学三年初登校日だから絶対に遅刻はしたくない。

 しかしだ! 第一印象はとても大切だ、時間がないからといって身だしなみに手を抜くわけにはいかない、超スピードで整えろ!


 鏡で目ヤニと鼻くそと鼻毛とニキビがないかを確認! スウェットを腕まくりして、水を出し、両手ですくって口をゆすいだら顔にも適当にパシャパシャっとかけて傍に掛けてあるタオルで拭く!

 ついでにわきの匂いもチェック! 別にクサくはないけど洗面台の棚に置いてある制汗スプレーを取りTシャツの中から適当にシューシューして台所にダーッシュ!

 

 棚からシェイカーを取り出し、冷蔵庫から牛乳を……、あれ? ないっ!?

「どこだ牛乳ー!? どこに行ったー」


 居間かっ!?


『今日は高気圧に覆われ、全国的に晴れてお出かけ日和になるでしょう』

 予想通り居間のこたつの上に牛乳は置いてあった、飲み口開けっ放しで。

 こたつ布団から半身を出して万歳をして気持ちよさそうに寝ている酒臭い派手な格好の女はオレの母親だ。


 どんな寝相だよ。

 牛乳飲んだらすぐに冷蔵庫に戻せよな。

 テレビも観ないなら消せよもったいない。

 ピッ!

 寝るならちゃんと自分の部屋でふとんで寝ろよ、まったく。


 心の中で愚痴をいいながらこたつテーブルの上に広げられた食べ終わったカップ麺や割りばしやお菓子の袋や食べかすを集めてゴミ箱に……ってそれどころじゃねえ!乾燥しかけの牛乳の飲み跡がついたコップと牛乳を持ってキッチンへいき、流し台にコップを置いて水を入れておいた。それからシェイカーにマルチビタミンミネラル配合チョコレート味のプロテインの粉をぶち込んで、牛乳を注いでフタをしておもいっきり振りまくって栄養満点チョコレートシェイクの完成だ!


「いただきます」

 一気に飲み干す。

「うわ、ぬるっ!?」


 キッチンテーブルの上に置いてあったあんパンの袋を破り捨てて口に咥え、牛乳は冷蔵庫に戻してシェイカーをシンクに置き、水をそそいで再び洗面台にダッシュした! 


 良い感じに温まったヘアアイロンで寝ぐせをおさえつつ適当に動きをつける!このあんパンうめえ!? どこのあんパンだ!? まあいいや。 ワックスを手の平で伸ばして適当に髪の毛に揉み込んでツンツンに立てたらヘアアイロンのコンセントを抜き、その辺に置いてあったヘアスプレーを適当にプシューーーっとまいて、まきすぎて鼻から吸い込んじゃって咳きこんで、髪型はこれで完成!うん、オレイケメン! 歯磨き舌磨きブクブクぺーして口臭対策も万全!フロスは時間がないから今朝はパス!


 ダッシュで自室に戻り部屋着を脱ぎ捨て制服に着替えた。

 パーカーの上から学ランを着る。ボタンは閉めないでいい。ズボンは腰パン、今は着崩して着るのがオシャレだ。

 学習机の引き出しからちいさいシルバーのピアスを取り出し姿見で確認しながら左耳につけた、片方だけにつけるのが今の流行り。

 靴下も履いた。学習机の上に置いてあった香水をシュッシュッと空間にスプレーしてそれをあびる、これで準備万端。

 どんなに急いでいる時でも身だしなみには手を抜かない、それができる男ってもんだ。


 自室からでて、居間で寝てる母さんに向かって小声で「いってきまーすっ」と言って玄関の方へ行こうとしたが、まだ4月になったばかりだしなんか寒そうだなと思っって居間へ引き返し、こたつ布団を首元までかけてやった。


 いい夢でも見ているのかな、ほんとに幸せそうな顔で寝ていやがる。


 玄関へ行き、脱ぎ散らかされた母さんのパンプス? を揃えて並べて小さい声で「いってきまーす」と叫んでからアパートのドアをゆっくり閉めて鍵をかけてダッシュした。


         ◎


 フンフンフン~♪と鼻歌しながら軽快に走っていたら何かを忘れている気がした…………カバン!! 

「忘れたああああああ!!」


 急いで逆戻り、アパートに戻って自室に入り学習机の横に掛けてあったリュックを背負って、キッチンテーブルの上に置いてあったバナナの房から1本もぎ取って、玄関で再び小さい声でいってきまーすと叫んでドアをゆっくり閉めて鍵をかけてまたダッシュした!

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