チャラ男に惚れてたまるか!!

薄井百合花

第1話 喪男、生まれて初めてナンパされる。

 「オニーサン、可愛いね!」

「1人?」

 まさか俺に声をかけてきているとは思わず、無視を決め込んでいた。

 「ちょっと、聞こえてないのっ?」

 地面を見つめる俺の顔を、そいつは覗き込んできた。

 「なっ、何ですか…?」

 「ナンパだよ、ナ・ン・パ」

そいつは、語尾に音符マークでも付いたような調子で俺の問いに答えた。

 「オニーサン、可愛いなって思って。」

そいつは、急に真剣な面持ちになった。

 「良かったらさぁ、LINE、とか、交換しない…?」

「えっ、何でですか…。」

 ドン引きである。

 急にこの、冴えない男である俺に話しかけてきて、可愛い…?

おまけにLINE交換!?

 「何でって、ヤりたいからに決まってんじゃん!」

「言わせるなよ~。」

さも当たり前のように言うので、怖くなった。

 性的な目で見られるって、こんな怖いんだ…!?

今までオカズにしてきた女の人達に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 「無理です。俺、女の子が好きなんで!」

俺はそう言って、逃げ出そうとした。

が、奴が手首を掴んで来て、逃げられなかった。

 ナンパ、超怖い…!

 「あ、女の子にはこんなことしないよ?」

 そういう問題じゃないだろ…!

 てか、女の子にも声かけてるんだ…。

 「別にいいじゃ~ん!」

「1回くらい減るもんじゃないし!」

 よくない。

こちとら童貞だぞ!

彼女いない歴=年齢だぞ!

 「あ、もしかして、オニーサン童貞!?」

「大丈夫だって!オレ入れる側だから!」

 「いい加減にしろ!!嫌に決まってるだろ!!!」

人生で1番大きいんじゃないかってくらいの大声を出してしまった…。

 視線が集まる。

 痛い、痛い、痛い、やめてくれ…!

 俺を見るな…。

 怖い、怖い、怖い…。

 目が覚めたら俺は、奴に膝枕されていた。

えっ、なんで…?

 「目、覚めた…?」

さっきとは打って変わって、優しく甘い声を奴は発した。

 「しつこくして、ごめん。」

「あの後、オニーサン失神しちゃって…。」

「オニーサンは、人の視線が苦手なんだね。」

 それは事実だったので、コクリと頷いた。

 「今日は諦める!」

今日”は”って…。

 「あ、1人で帰れる?」

 失神なんて、慣れたものだ。

 「へ、平気…。」

 奴は、手を振って俺のもとから去っていった。

 変な奴だった…。

チャラチャラヘラヘラしてるだけの奴かと思ったら、優しい声で語りかけてきて…。

 ああやって色んな人を惚れさせてるのかもな。

そう思ったら、気持ち悪い奴。

 正直、もう二度と会いたくない。

アイツとつるんでたらロクなこと起きなさそうだし…。

またいじめに遭うかもしれないし、誠実な恋愛のできる女の子はよってこなくなりそうだし…。

まぁ、今までもよってきたことないけど。

 生まれて初めてのナンパが、あれかぁ…。

 綺麗なお姉さんが良かったなぁ~。


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チャラ男に惚れてたまるか!! 薄井百合花 @usuiyurika

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