第28話 ついたぞ、奴隷市♡



 そこは伊勢湾にへばりつくように、横長にひろがった都市だ。

 うーん、都市ってほどじゃないのか?

 おれが最初に召喚された静岡市の都市は、高い塔を持つ立派な構造だった。でも、ここは鉄パイプを組み立てて急きょ建築したみたいな印象を受ける。なんか、ありあわせの街だ。


「ここのどこに、ゴモラがいるのかな?」

「それよりさきに、仲間を救うべきですわ」と、桃花。

「そうだな。売られたら大変だ」


 ということは、まずは市場を探さないとな。


「全員で行くと目立つよな?」

「だろうね。でも、あたしは行くよ?」


 そう言って、小山内はこっちの意見なんか聞きそうにない。ステータス二桁だから、ほんとは足手まといなんだけど。


 ただ、ホールダーとは離れててもシンクロしてるみたいだから、ゾロゾロひきつれていく必要はない。


「そばにいないと使えないスキルあるかな?」

「わらわの大技は範囲魔法じゃ。そばにおらぬと、玲音に効果がないぞえ」

「うちの武器製造も、そばにおらんと、作ったもんが渡せへんよ? 作るんは、うちやし」


 というわけで、潜入メンバーは、おれ、小山内、九尾、ララちゃん。

 ほかの女の子たちは、都市から離れた森のなかで待機しとくことになった。紅葉の獣使役で犬たちがいるし、小技の魔法なら使える苺や瑠璃、翠がいるから、もしものことがあってもなんとか防御できるだろう。


「お気をつけて。危険と思えば、すぐに回復魔法を使ってくださいませね」

「うん。桃花」

「ムチャすんな?」

「大丈夫。用心する」


 心配顔で、やーらかい胸をこすりつけてくる可愛い女の子たちに見送られて、いざ、潜入だ。

 ゴモラのまわりには高い塀が築かれ、その塀の上には……あれ? ロボットか? 巡回の兵士っぽいのがいる。ブリキのオモチャみたいな兵士だ。


「敵に無生物を使役するスキルを持つ者がおる」と、九尾。

「そういうことか」


 これは、やっかいだぞ。敵がゴモラの支配者一人だけなら一対一だ。今のおれなら、そこそこ戦えるんじゃないかと思う。けど、ブリキの兵士が、わんさか湧いてきたんじゃキリがない。

 せめて、水城たちをとりもどすまでは、バレないようにしないとな。


 それにしても、ゲートは以外と無防備だな。馬車が通る。ほろ馬車だ。あっ、さらわれてきた女の子たちを、まさに今、都市に入れようとしてるのか。


「あの馬車に乗りこもう」

「うん。行くよ」

「了解じゃ」

「あん、怖いやん」


 うっ。可愛いからよせ。ララちゃん。


 馬車は三台ならんでた。おれたちは闇にまぎれて侵入する。出発が遅れたせいで日が暮れてから到着したが、結果オーライだ。


 馬車のなかはそこそこ広い。少なくとも八畳の部屋くらいはあるぞ。女の子たちがくさりにつながれてる。全部で三十人はいたか?

 このなかに水城や魔魅がいれば、市場まで行く必要はなくなるんだけどな。

 期待したけど、いなかった。


 みんな、沙織の顔して、助けてほしそうな目でこっちを見てる。さるぐつわされてるんで、さわぐことはできない。

 ごめん。みんな。全員、助けてあげたいけど、今は待ってくれ。ゴモラの支配者を倒せば、奴隷市なんて非人道的なものはなくなる。


「あっ、一子」


 小山内が誰かにとびついた。

 一子? 何そのネーミング?


「よかった。無事だったんだね。一子」


 お、おお……ラプンツェル的プラチナブロンドの超長髪美女! でも、やっぱ、そうなんだ。巻毛じゃないからか! 金髪なのに、ロロのときほどトキメかない!


 小山内がさるぐつわをほどくと、プラチナ美女は口をひらいた。


「二子と三子と離されてしまったわ」


 二子……三子……。

 おい、ネーミング!


 とりあえず、馬車は進みだした。数分もすると、街に入ったようだ。停車して、足音が近づいてくる。

 マズイぞ。まだ見つかるわけにはいかない。


「おい、今回の獲物はコレか?」


 ん? 男の声だ。ゴモラか? さっそくゴモラの支配者か?


「ハッ! ゴモラの支配者さま」と、答える声は女——というか、沙織。

 ゴモラの支配者は、自分のホールダーを使って、野良沙織たちを集めてるらしい。


 見たい。なんとかして、ゴモラがどんなやつか見てみたい。幌のつぎめにすきまがあった。ここからのぞけるかな? おれはそこに目を押しあててみようとした。が、残念。


「ランク別にわけて、競売にかけろ」


 言いすてて、ゴモラの足音は遠のいていく。まにあわなかった。


 でも、おかげで、この馬車の守りには、やつのホールダーしかいないことがわかった。よし。それなら、戦闘になっても問題ないな。

 あっ、その前に、ちょっとでも強くなっとかないと。


「一子……いや、君は今日から……」


 えっと。ラプンツェル……でも言いにくいな。ラプンツェルって野ぢしゃのことだ。はレタスらしいんだよな。子どものころ、本で読んだ。


「レ……レティシアだ。おれのホールダーになってくれ」

「よろしくてよ」


 この子もお姫様キャラか。桃花とちょいかぶり。

 でもいいんだ。何しろ、スーパーレアだからな。てか、この馬車のなかの子、みんなスーパーレアかレジェンドだよな?


 おれのレベルは13。保有してるホールダーは、今この場から離れてる子もよせれば十八人。そのうち、ロロとキャットが死んじゃったから、正確には十六人。てことは、全部で二十三人まで保有できるから、残り枠は七人か。小山内のつれ(二子と三子)はあとでホールドしないといけないだろうし、てことは五人までは足せる!


 このなかに、レジェンドの子はいないのかな?


「みんな、おれはゴモラを倒す。必ず、みんなを自由にしてやる。だから、今は待っててくれ」


 ささやくと、自分の胸を押した。みんなのステータスが見える。スゴイな。スーパーレア、スーパーレア、スーパーレア、スーパーレア——スーパーレア祭りだ。


 どの子にしようかな?

 このなかから五人、ホールドするぞ。

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