五章 奴隷市場へGO!

第25話 最初の同盟



 小山内は食った。信じられない量を食った。三人……いや、五人前?

 いくらタダでわけてやってるとは言え、少しは遠慮するかと思いきや、まるで牛〇の焼肉食い放題を制限時間ギリギリまで食いつくそうという勢いだ。食いっぷりは美少女に見えん。


「武士は食わねど高楊枝とか言ってなかったっけ?」

「はあ? 三日ぶりなんだよね! 美味い。美味いわぁ。泣ける」


 おとなしくて、つくし型で、一途でけなげな沙織も可愛い。けど、こういうハチャメチャな子もいい。少なくとも、話してると楽しい。どうこうする気はないんだけど。


「なんで、おれのこと襲ってきたんだよ? 召喚者だから敵だと考えたのか?」

「それもあるけど、あんたがゴモラの支配者かと思ったから」

「ゴモラ……」


 美術にくわしいおれは知ってるよ? それはわりと絵画のテーマに選ばれるからな。聖書に出てくる背徳の町の名前だ。ソドムが姉妹都市。


「なんだ? そのゴモラの支配者って?」


 答えたのは肉いっぱい頬ばってモゴモゴしてる小山内じゃなかった。桃花だ。美しいピンク色の眉をひそめてる。


「奴隷市場ですわね」

「えっ?」

「各地からマスターのいないわたしたちを集めて、売りさばく奴隷市が存在するのですわ。その市場のある町がゴモラ」


 前に話してた難所か。


「そこに君臨する男が、自身をゴモラの支配者と名乗っているの」


 うーん。聞いただけでも、ゲスっぽい匂いがただよってる。有沢みたいなやつなんじゃないかな?


「おれがそんなクズいやつに見えたんだ?」

「暗いし、お腹へってたし、女の子集めてて、食べ物持ってるから」

「いやいや、女の子、三人しかいねぇよ? 全部、おれのホールダーだし」

「さらわれたのが、ちょうど三人なんだよね」

「さらわれた?」

「うちの女の子たちがさ。ヒドイと思わない?」


 つまり、こういうことらしい。

 小山内は女なので、召喚者だが女の子をホールドできない。なので、山野に隠れ住んでいたが、いつごろからか、各地から逃げてきた沙織が集まってきた。彼女たちと隠れ里を築いて幸せに暮らしていた。が、つい先日、ゴモラの支配者がやってきて、里を破壊したあげく、とくにレア度の高い三人をさらっていった、というのだ。


「でもさ。沙織をさらって、どうするんだ? だって、都市に行けば、いくらでもいるよね?」

「それは都市を持ってるやつの言いぐさだよ! 今、じっさいに稼働してる都市がどのくらい残ってると思ってんの? それに、レアな子は少ないから」

「そうなんだ」


 つくづく、おれは恵まれてたんだな。召喚された場所が都市のなかだったし、てきとうに選んだのがレジェンドだったりスーパーレアだったり。


「えっと、分裂たくさんして変異がつみかさなると、めずらしいスキル持つ、レア度の高い沙織になるんだろ? たしかに確率は低いにしても、二十億人もいれば、それなりにレジェンドなりスーパーレアなりはいるんじゃないの?」


 たとえば、一億人に一人だとしても世界中に二十人のレジェンドが、一千万人に一人なら二百人いることになる。まあ、世界に散らばってるだろうから、日本にいるレジェンドはそのうち五十分の一ていど? あれ? 日本に四人しかレジェンドいないことになるな。


「レジェンドは二百万人に一人くらいじゃ。じゃが、寿命が短い。主人に出会う前に死ねば、そのスキルは失われる。同じ変異が出ることは、まずなかろう」と、九尾。


 そっか。そんなに貴重だったか。レジェンド。二百万人に一人なら……えっと、世界中に千人はいることにはなるけど、それにしても少ないよな。


「それでレア度の高い子を集めてるのか。あまった女の子たちは、ほかの召喚者に売りさばく……ヒデェやつだな。ゴモラの支配者」


 小山内が大きくうなずく。


「でしょ、でしょ? だから、とりもどしに行かないと! ね、山田?」


 ああ、なんか、イヤな予感……。


「いっしょに手伝ってよ!」


 やっぱり……。


「いやぁ、悪いけど、おれ、今、急ぎなんで。なるべく早く西国の王に会って、同盟結んで、強くなって、んで、アリョーシャのやつ、ぶっ倒すんで!」

「アリョーシャか。ゴモラのお得意さんだって聞いたよ。親友だって」


 ん? 親友……そういうことか。世界征服したい有沢は、強いレジェンドを一人でも多く欲しい。自分で世界征服したくはないけど、強いやつの傘下さんかにおさまって安穏に暮らしたいゴモラ。二人の利害が一致したってわけだ。


 つまり、ゴモラは有沢の隠れた支援者。有沢の強さの秘密でもある。

 これ以上、レジェンドを有沢のものにするわけにはいかない。ゴモラをつぶしておくのは、有沢を倒す前に必ずやっとかないといけないことなんだ。


 でもなぁ。さきに西国の王と和平して、力借りとくほうが無難じゃね?


 なんて考えてたのに、さらに小山内はこんなことまで言いやがった。


「あっ、そうそう。うちに来たとき、すでに何人かめずらしいスキル持ちの子、捕まえてたね。セーラー服のボーイッシュな子と、黒いワンピース着て顔にベールかぶった子。一人はアンコモンだけど、スキルがめっちゃユニークなんだって、やつらが仲間内で話してた」


 う、うぬっ! 水城と魔魅だ! 絶対、とりかえす!

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