第24話 夜襲! 女剣士?♡♤



 奇声と同時に、おれは目をあけた。星空をバックに黒い人影が落ちてくる。いや、違う。飛んでくる? 手に長い棒みたいなもん持ってる。


「チェスト!」

「わー!」


 棒? それどころじゃなかった。目の前に迫ってくるそれは、刃物のきらめきを有してる。か、刀だ。どう見ても、日本刀……。


 さ、サムライに寝込み襲われたー!


 おれはあわてて、両手をつきだした。そんなことしても、相手は日本刀だ。しかも、かなり高い木の上から飛びおりてきた。その勢いで刀ふりおろされたら、両手ごと切断されてしまう。


 冷静に考えたら、そうなんだが、そのときは寝ぼけてたんで、とっさにやらかしてた。

 けど、運がよかった。つきだした両手が、ちょうど二つのやわらかいものにあたる。あたるっていうより、にぎる? にぎにぎ……ああ、このポヨンポヨンはおぼえがあるぞ。


「きゃ……キャー! きさま、何す……やめてぇー」


 月明かりでも赤くなってるのがわかる。女の子は悲鳴をあげてとびすさった。

 おれの頭のすぐ上に日本刀の切先が刺さってる。よかった。危なかった……。


 おれは半身を起こし、女の子を凝視した。ていうのも、なんか変なんだよな。あのポヨンポヨンはまちがいなく、その子が女だってことを示してる。なのに、。一瞬のことだったから、目の錯覚かな?


「あの、野生の沙織さんですか?」

「痴漢! ヘンタイ! 恥知らず!」


 痴漢、ヘンタイはともかく、最後のはだいぶ古い罵倒語だ。女の子は両手をクロスさせて、自分の胸をガードしてる。


「いや、そっちが襲ってきたから、ふせごうとしただけだよ」


 そう。ラッキースケベ的な。おれのせいじゃない。

 それにしても暗い。

 女の子の顔がよく見えない。


「君、誰? おれを殺そうとしたの?」


 でも、女なんだよな……。


 すると、そのとき、急に月が明るく照った。女の子の顔がハッキリと見わけられる。

 な! 可愛い! けどやっぱり、沙織じゃない。顔が違う。


 沙織はもちろん美少女だ。たとえるなら、橋〇〇奈? ラブコメの女王。

 だが、この子は言わば、浜〇〇波だ。環奈に勝るとも劣らない美少女!

 それに、ひさしぶりに沙織以外の女の子みたんで、すごく新鮮。


「なんで、この世界に沙織以外の女の子が? だって、ほかの人間はみんな死んだんだろ?」


 おれがたずねると、当然のことのように、九尾が答える。


「となれば、そのおなごは召喚者じゃろう」

「そうか!」


 召喚者だからって、必ずしも男じゃないってことか。


「召喚者に女の子が……」

「基本的には男しかおらぬはずじゃがのう。召喚機の不具合かもしれぬのう」

「日本に五人しかいない、おれ以外のうちの一人かな?」

「名前を聞いてみてはいかがじゃ?」


 そのとおりだ。


「おれは山田玲音。君と同じ召喚者だけど、怖がらなくてもいいよ。敵対する気はない。アリョーシャのことはゆるせないけど、ほかの召喚者とは、できるだけ和平を結びたいんだ」


 女の子はうろんげな目つき。

 今すぐ信じろって言ってもムリかなぁ。

 困った。このままじゃ、また襲ってくるだろうし。


「ほら、あの、刀も返すからさ。そのかわり、もう襲ってこないと約束してくれ」


 そおっと手負いの獅子のような女の子の前に、日本刀をさしだす。女の子はサッとひろいあげ、それを鞘におさめた。でも、目つきは油断してない。


「君はホールダーつれてないの? あっ、ステータスを見れば、名前もわかるのか?」


 自分の胸を押すと、うん、見れた。

 ネームは……尾張信長おわりのぶなが

 ステータスは、おっと? 極端に低い。おれとくらべても十分の一もない。筋力値二桁って、沙織カスタムゼロと同ていどだぞ?


「女の子の名前と思えない、かたいネーミング! 戦国設定いらないんだって」

「ウルサイな。女だとバレたら、ほかの召喚者たちになめられるじゃない」

「それで、そんなカッコしてるんだ?」


 尾張信長は剣道着みたいな白い和服と紺色の袴をはいてる。黒い髪はうしろで結んで、どこから見ても剣士だ。

 にしても……名前がかたい。


「えーと、ノブちゃんでいいかな?」

「ヤダ! ダサイ!」

「じゃあ、本名は?」

「……小山内おさない


 チェッ。名字しか教えてくんないか。


「同盟結ぼう。不可侵条約っての? おたがいに領土を侵略しない、敵対攻撃しない。おれたちは西日本めざしてるから、西にむかうけど、そのあいだ、小山内の領内を通ることがあっても乱暴や盗みはしない」


 小山内はおれを見つめて考えこむ。が、その直後、グウッという音が響きわたった。

 今のなんだ? 遠雷? 地面をタルがころがる音? 動物の鳴き声っぽくもあった。

 違う。小山内はヨダレをたらしつつ、おれたちの荷物を——肉を見てる。


「もしかして、腹へってんの?」

「う、ウルサイなぁ。そんなわけないっしょ」

「いや、今の腹の虫じゃね?」

「武士は食わねど高楊枝たかようじ!」


 微妙に言うことが年よりくさい。けど、ものすごい美少女だ。乳ももませてもらったし、食料くらいわけてやろうじゃないか。ハハハ。いいぞ。太っ腹なおれ!

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