第23話 楽勝、連勝
思えば、ちょっと高身長でスポーツマンタイプとは言え、ただの細マッチョの有沢に、おれがギタンギタンにしてやれたのも、こういうわけだったのかもしれない。
十人(有沢は五十人)の筋力が上乗せされたおれのパンチって、死にかけのヘナチョコでも、熊をふっとばす威力なんだ。とくに、九尾のステは高いからなぁ。
やっぱ、どんだけ強いホールダーをたくさん集められるか。それがバトルの勝敗のすべてをにぎってる。
「おお、熊肉ゲットじゃねぇか! さっすが、おれのマスターだぜ。玲音」
そう言って、紅葉が熊をふつうにさばきだしたんで、ちょっとひいたものの、そうだよな。都市じゃ沙〇の肉を食ってるくらいなんだもんな。熊くらい食うのはあたりまえか。
これで晩飯はできた。
こんだけあれば四人の数日ぶんの食料だ。どうやって運ぶかってとこだけ困るけど。と思ってたら、さばきおえた紅葉が指笛を鳴らした。
「ワーッ! お、狼!」
森のなかから数頭の狼……じゃなく、よく見たらシベリアンハスキーだ。犬や馬がやってくる。しかも、しっかり待てしながら尻尾ふってる。これか。これが獣使役の力か。なるほどね。都市のなかじゃ役立たずだけど、一歩外へ出たら無敵の便利能力だ。
紅葉はカウガールだからか、獣使役スキルだけじゃなく、獣のさばきかただの、そりの作りかただの、ロープの編みかただの、変なことをいっぱい知ってた。おれたちは手製のそりを作って、それを馬や犬にひかせた。動物がなんでも言うことを聞いてくれる。この万能感。
「玲音。どこに行くんだ?」
「西国の王っていうのに会って、同盟組めないかなと」
「それもいいかもな。でも、気をつけたほうがいいぜ? 西国にたどりつくまでには、やっかいな場所も通るからな」
「どんな?」
「奴隷市とか」
出た。出たよ。異世界ファンタジーと言えば、必須ってほど出てくる奴隷市場。
とは言え、人間に出会うことなんて、そうそうないはず。
世界のほぼ全員が沙織だ。
とりあえず、日本に五人(おれぬかして)しかいない男どもにだけ注意しとけばいい。
旅は順調だった。熊肉を焼いて食いながら、犬たちにもわけあたえて、なんかこうファミリーって感じ。いや、そう、パーティーだ。これぞ冒険ファンタジーだね。
途中、何度かモンスターに遭遇した。と言っても、どう見ても、みんな野生の動物なんだが。猪とか、猿とか、カラスとかだ。さきに熊を倒してるんで、楽勝なのなんのって。
「にしてもさ。モンスターって、スライムとかじゃないの? なんで動物? それも凶暴化してるし」
「スライムとはなんじゃ?」
「あれ? 知らないの? ゼリー状の最弱モンスターだよ。ゲームには必ず出るんだけど」
九尾も桃花も紅葉も首をかしげる。彼らはスライムとかゴブリンとか、ゲームのなかに存在する魔物を知らないようだった。
そうか。この世界にはいないのか。そういうの。まあ、滅亡した近未来であって、ファンタジーの世界じゃないもんな。じゃあ、なんで魔法は使えるんだって話だけど、そこは超能力的なものなんだろう。
「あっ、おれ、レベルがあがってる」
「おおっ、玲音。やったな! レベル8か。レベル10も近いぜ」
「なかなかよい成果じゃ」
「この調子で強くなりましょうね」
女の子たちに褒められた。単純に嬉しい。
でも、レベルあがったんなら、ホールダーを増やさないとな。じゃないと数値はあがらない。
「動物たちが凶暴化してるのはなぜなんだ?」
「それはのう。まれに沙織の死肉をむさぼる獣がおるからじゃ。われらの体内にはナノマシンが仕込まれておる。分裂の際には自動で増えるナノマシンじゃ。それがやつらの体に入り、暴走するとモンスター化する。また、沙織の肉の影響によって、やつらの細胞も突然変異を起こし、分裂増殖能力を持つのじゃ。ゆえに、モンスターが絶えることはない」
なるほど。そういう理論か。
もしかして、ナノマシンを通して、加算された数値の攻撃がダイレクトに伝わるから、なぐっただけで大ダメージをあたえるのかもしれない。
けど、野生のツキノワグマが現れた! ツキノワグマはいきなり襲ってきた!
みたいなのがないと、急に戦闘になるから油断がならない。モンスターが近づくとハスキーたちがうなり声をあげてくれるので、わかるようにはなったけど。
そんな日々が続いた。
おれはレベル11になった。
ホールダー、今なら十人は足せるんだけど、肝心の沙織たちがいる場所がない。どっかの都市に立ちよればいいのか? でも、そこをおさめてる男がいるよな? 西国の王と同盟結ぶまでは、召喚者とは戦いたくないしな。ジレンマだ。
だが、そんな悩みがいっきに解決する事態に遭遇した。
旅に出て何日めだったろうか。もとの世界から転移してきてからで言うと、二週間くらい? なんかもう三、四年はこっちにいる気がする。便所もすっかり野糞になれたよ。ウォシュレット? 何それ、おいしいの? 状態だ。
風呂も飲み水も川。
今日も川の見える場所にキャンプ張れてよかった。これで安心して寝れる。
「玲音。おやすみなのじゃ」
「おやすみなさいませ」
「早く寝ようぜ」
最初にしとめた熊の毛皮を乾燥させたやつを敷いて、その上でゴロゴロよこになる。
今、どこらへんだろう?
名古屋までは来たかな?
明日もチャリこいでかないとな。ハイウェイっても、アスファルトひび割れてるし、獣やモンスターも通るし、けっこう大変なんだよな。
毎晩、旅の疲労で、エッチな気分にすらならない。よこになると五秒とたたずに寝落ち。
グウグウ寝入ってたときだ。
とつぜん、犬たちがさわぎだした。同時に奇声が空から降ってくる。
「キエーッ!」
な、何事?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます