第10話 金髪しか勝たん、からの……♥︎



 ロロが来て十日。

 おれの十枠は埋まった。

 沙織、九尾、紅葉、魔魅、桃花、水城、キャット、リタ、百合。


 そして、ロザリー。

 金髪碧眼の美少女って、これか。これなのか。いいよ。やっぱ金髪サイコー。金髪しか勝たん!


「今晩もロロちゃん、ご指名ねぇ。ベッド行くよぉ」

「あーん。エッチィ」


「今晩もロロちゃんねぇ」

「あーん」


「今晩もロロ」

「あふん」


「ロロ」

「……」


 もうね。くびったけって、こういうことなんだろう。

 ロロ以外、見えてない。

 セクシィキュートな白い肌。適度に豊かな胸。足も長い。流れるブロンドのお姫さまが、おれの下で(たまに上で)スィーティーな歌声を聞かせてくれる。ゆれる。ゆらゆら。


「ねえ、玲音。あのね。あんまり、一人に集中しないほうがいいんじゃない? ほら、まだ一回もおとぎしてない子もいるし、みんな、気分悪いんじゃないかな?」


 沙織の忠告なんて、聞く耳持たない。沙織はおれをだましたんだからな。


「ほっとけよ。おれ、ロロが第一夫人だったらよかったな。なあ、ロロ」

「ねえ、玲音」


 おれとロロはラブラブだ。

 そんな傷ついた顔したって……知らないぞ。


 でも、たぶん、沙織の忠告はもっと真摯しんしに受けとめとくべきだったんだろう。

 おれはまだこのとき、ほんとの恐怖を知らなかった。ここが異世界であり、しかも一度は滅びた恐ろしい世界なんだってこと、忘れてた。


 おれの前では可愛い女たち。

 でも、彼女たちのなかには、大きな闇があったんだ。


 その夜。

 いつものように焼肉。なんでいっつも肉なんだ。もちろん、好きなんだけど。牛肉ばっかり。たまには鷄カラとか、豚の生姜焼きとかも食いてぇ。


「じゃあ、ロロ。ベッドに行こうなぁ」

「もう、玲音。たまには寝させてよぉ」

「だって、ロロ。可愛いんだもんな」


 二人で寝室に入る。

 そのあと、とうぜんのことながら、イチャイチャした。あれして、これして、いいことしたあと、人間だから、もちろん眠くなる。


 たしかに毎晩なんで、絶倫スキルを得たおれでも疲れてたんだろうな。それとも、誰かに眠り薬でも盛られてたのか? 不自然なくらいグッスリ寝入ってしまった。


 ふと、夜中に目がさめた。


 ベッドはキングサイズ。おれたちの世界で言うウォーターベッドみたいなもんか。ベッドもポヨンポヨン。女の子もポヨンポヨン。布団は薄いタオルケットみたいなのが一枚。室温が空調で完璧に管理されてるから、なくてもいいくらいだ。


 いつもフカフカ快適なんだが、今日にかぎって、足元がしけってるな、とは、起きてすぐに思ってた。もしかしたら、何か不快な要素を察知して目がさめたのかもしれない。


 それに、しだいに頭がハッキリ覚醒してくると、鼻につく匂いに気づいた。

 これまでの人生でかいだことのないような……いや、違う。一度だけある。この吐き気のこみあげてくるような、強烈な鉄サビに似た臭気。


 血だ。血の匂いが部屋じゅうに充満してる。

 前に女の子たちが殺しあったときに感じた、あの匂いで満ち満ちてる。


 なんで……血が?

 だって、ここには、おれとロザリーしかいない。


 おれは自分の体がふるえてくるのがわかった。見るのが怖い。でも、見ないわけにはいかない。何があったのか知らないと、もっと怖いじゃないか。


 恐る恐る、おれはぬれた感触の足元へ視線をなげる。いっきに核心をつくことができないで、のろのろとベッドの上を目でなめていく。


 あっ、手だ。真っ白なあの肌色はロザリー。きれいな指。桜色の爪。この世界、ちゃんとマニキュアも製造してるんだなとか、どうでもいいことが、ふっと頭に浮かんだ。


 でも、そこから、さらに視線をおろすと、すぐに赤い色が目についた。血、血、血、血、血……大量の血だ!


「ろ……ロロ?」


 ロロ、こんなに血を流してるのに、なんでさわがないんだ? 痛いだろ? 痛いはずだろ? 寝てるのか?


 あっ、そうか。これ、本物の血じゃないんだ。そうだ。きっとそうだ。だから、ロロの身には、なんにも起こってない。ただのインクとか、そんなんで、ロロがおれをからかってるんだ。


 おれは、そう信じたかったんだと思う。


 だが、次の瞬間、おれは信じがたいものを見た。

 華奢な腕をたどっていくと、金色の巻毛が扇状にひろがっていた。それに続く頭部。白いなめらかなひたい。ブルーグリーンの澄んだ瞳。細くまっすぐな鼻梁びりょう

 でも、その下に続く、ふっくらと可愛いピンクの唇は——


「うわーッ!」


 思わず、金切声をあげていた。それもしかたないだろう。ロザリーのこの上ない美貌。でも今、その口は両端が刃物で切り裂かれていた。

 く、口裂け女ー!


 おどろいた拍子に視界が泳ぎ、首から下の全身が目に焼きつく。


「ワーッ! ワーッ!」


 なんでだ。なんで、こんなことになったんだ?

 ひ、ヒデェ。これはあまりにも残酷すぎる。


 ロザリーが泣きもわめきも痛がりもしないのは、あたりまえだ。もうとっくに息がない。

 美しい顔を切りきざまれ、その上、白いお腹をひらかれて、そこから、はらわたがたくさん、とびだしてた。

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