第6話 カスタムゼロ
「にしてもさぁ」と、言いだしたのは、ゆるふわ百合だ。
おれの両肩に手をかけてバックハグしてくる。ちなみに、おれは椅子にすわってるから、後頭部にクッションみたいなパフパフな感触が……。
「レオンくんってぇ、なんで、さおりんのこと第一夫人にしたのぉ? もったいないよぉ」
「えっ? なんで?」
さおりんって、沙織のことだろう。もったいないって、なんだ?
魔魅はクスクス笑った。
紅葉はへの字口。
桃花はすまし顔でうなずく。
そして、九尾が説明してくれた。
「沙織はオリジナルタイプ。つまりじゃな。何一つカスタマイズされておらぬのじゃ」
「カスタマイズ?」
「わらわはカスタムされまくった最強にして、最高のスキルを持っておる。それゆえ、キャラクターレア度もレジェンドじゃぞえ」
「レジェンドって……一人ずつランクづけがあるんだ?」
「うむ」
九尾の説明によると、こういうことだ。
彼女たちの基本は、クローン再生所で造られるオリジナルタイプ。
オリジナルの沙織に近い遺伝子なので、強いスキルやステータスを持たない。当然、等級はノーマル。ただし、分裂増殖能力はもっとも高い。三十年の生涯のうち、一人が平均百回は分裂する。(分裂して若さを半永久的に保てるため、個体の寿命は短い)
分裂するたびに、遺伝子に変異が起こって、容姿や能力がちょっと変わる。
たとえば、沙織オリジナルから分裂した沙織Aはステータスが5%増し、ただし分裂能力は10%減、みたいな感じ。
沙織Aから分裂した沙織Bは、さらにステータスが高く、強いスキルを持つ。が、分裂能力は半減にまで落ちているって感じだ。そのへんの細かい数値はランダムなので、個体によって大きく当たり外れがある。
で、極限まで分裂すると、それ以上、増殖はしなくなるんだけど、そのぶん能力値はきわめて高い。強力な魔法やスキルを持ち、それだけレア度もあがるってわけだ。
つまり、分裂のさいに変異に変異を重ねてきてるから。
ただし、分裂できないから、その能力は一代かぎり。特殊な方法以外では継承されず、個体の死とともに消滅する。
「とくに、オリジナルタイプのなかでも、ノーマルちゅうのノーマル。なんのスキルも持たない者を、カスタムゼロと言うのですわ。ほんとに増殖するだけの下等な個体ですわね」と、これは桃花。
紅葉が補足する。
「マスターと最初につながった第一夫人は、遺伝子間のシンクロによって、マスターの能力値の基礎となるんだぜ。おれらの体内にはナノマシンが投入されててさ。それが都市のコンピューターと連動してるんだ。ナノマシンのデータが集計されて、そいつが玲音の数値になる。つまり、レアで強力な第一夫人を持つことが、強さの秘訣なんだ。玲音はカスつかんじまったから、今後の戦いが厳しい」
「えっ……?」
そうなのか? だから、沙織は裸でおれを誘惑して、とにかく、わけわかんないうちに関係を持ってしまおうと……。
なんか、裏切られた気分。
いやでも、おれが好きな八乙女さんにそっくりなのは彼女だし。
気持ちの整理がつかないとこへ、追い討ちをかけるように、魔魅が言う。魔魅も発言、めずらしいな。
「ステータスを見てみれば?」
「ステータス、どうやって?」
魔魅は片手を伸ばしてきた。白い指さきが、つうっと、エロティックにおれの胸をなぞる。と思うと、ポチッとまんなかあたりを押した。なんか出た!
目の前に浮かんだモニターは、たぶん、おれのステータス。
まわりの女の子たちも胸のあたりに、同じの浮いてる。
おれの数値は、左側がたぶん現状の補正入ったステータス。補正値にはホルダーの全員のステータスが、十分の一ずつ足されてるみたいだ。そのとなりにカッコ書きしてあるのが基本値なんだろう。
おれの基本値はよくて二桁。頭脳値、筋力値、変異値だ。
ゲームでよくある体力やMPは見あたらない。
変異値なんか一桁なんだが?
でも、補正入ると、急にグンと伸びる。
頭脳値は桃花、九尾、魔魅が圧倒的に高いな。
筋力値は紅葉、キャット、あれ? 意外にも水城も高め。ほっそりしてるのに。とくにキャットが異様に高い。それに、筋力増強(20%)ってスキルを持ってる。これは持ってるだけで効果ある系のアビリティのようだ。
変異値はリタ。百合もちょっと高めだけど、リタ一人で補正が百も得られてる。
「うわっ、九尾、数値高いな!」
全体にすべてのステがやたら高いぞ。頭脳値なんか四桁。だから、この子からの補正だけで四百もプラスだ。低めの筋力でも補正百二十。
ほかの子たちにくらべて圧倒的に強いぞ。
ああ、惜しい。
九尾を第一夫人にしとけば、おれの基本値、スゴイことになってたのに。
せめて沙織がビックリするようなスキル持っててくれたらよかったんだけど、カスタムゼロなんだよな? つまり、スキルは使えないってことだ。
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