第5話 残り一枠をめぐって♡



 可愛い女の子たちが血まみれで、たがいを刺す、切る、なぐる、つきとばす。首をしめたり、妖術みたいなの使ってる子も……。


 今日、何回めだ?

 おれがまたまた呆然としてるうちに、争いは終わった。というより、全員、死んだ。

 残ってるのは、おれが選んだ九人だけだ。


 こ、こえーよ。怖い。きょわいよー。お母さーん。


 ハッ! 今一瞬、意識とんでた。しょせん男って最後は母さん呼ぶんだな……。


「あら、残念でしたわね。魔法使いがいたのに。ホールドしておけば、きっと、あなたさまのお役に立ちましてよ?」と、ピンクツインテール。


「まあ、回復スキルは、わたくし一人いれば充分ですわ」

「君は回復技使うんだ」

「使うのは、玲音さまですわよ」

「おれかぁ」


 おどろきすぎて、なんかもう、どうでもいいや。

 なんでおれ、こんなとこにいるんだろ? 帰りたい……かも? もとの世界が早くも恋しい。


「それより、玲音。ここにいたら、また別の集団がかぎつけてくるよ。早く逃げよう?」


 最初の沙織に手をとられて、おれは部屋を出た。どっちみち、大量の死体を前にして薄気味悪いから、もうここにはいられない。


「なんで、あの子たち、殺しあいなんかしたんだ?」

「だって、残り一枠だったろ? おれだって選ばれてなきゃ、やってるね」


 カウガールが反対側から、腕をくんでくる。

 おっ? おおっ! 押しつけられる感触が豊か。この子、めっちゃ巨乳やん? そっか。バストサイズも一人ずつ違う!


 あっ、いやいや。今はそれどころじゃなかったな。


「でもさ。おれがレベルアップすれば、いずれはあの子たち、みんな、ホールドできたし?」


 おっと、カウガールを押しのけて、今度はゆるふわ巻きが胸をすりよせてくる。みんなバストから来るあたり、自分の武器を知ってる。


「この都市だけでぇー、何人のあたしたちがいるとぉ、思ってんの? レ、オ、ン」

「えっと……」


 全世界の人口が二十億だから、おれのいた世界の約四分の一くらいってこと?

 この都市が東京に該当するのか、それとも、おれが住んでた地方都市ていどなのかでも違ってくるけど。


「んと、三百万……くらい?」

「ああ、けっこう惜しいぃ。レオンぅ、あったまいい!」


 ゆるふわは口調もゆるい。早口で話したいときの相手にはむかないな。

 すると、反対側から最初の沙織が告げた。


「五百万人です。レベルはマックスでも、99。あなたがどんなにレベルアップしても、都市全員をホールドはできない」

「そっか」


 そんなに、みんな、おれが好き? 男がおれだけなんだもんな。そりゃ、ハーレムにもなるか。


 でも、なんとなく、さっきの殺伐とした感じは、それだけじゃなかった気がする。おれに選ばれなかった子は明日の朝には処刑されるんだってくらいの気迫と悲愴ひそう感がみなぎってた。


 とにかく、廊下を走っていく。部屋のなかと同じ銀の壁が、えんえんと続く。廊下は複雑に入り組んで迷路みたいだ。

 おれ、もしも一人になったら、もとの場所に帰れるかな?


「とりあえず、ここならいいんじゃない?」


 そう言って、沙織が一室にとびこんだ。なかは、さっきの部屋となんら変わりばえしない銀色の箱。ただ、こっちには床に作りつけのテーブルと椅子がある。


「おれ、腹へったなぁ。それに走りまわって、喉かわいた」

「とってきてあげるね。食堂が近いから」


 最初の沙織がニッコリ笑って一人で出ていった。

 おっと、一人で大丈夫なのか? さっきみたいな殺しあいにまきこまれたりしないかな?


「問題ございませんわ」と言ったのは、ピンクツインテール。

「旦那さまのいない女は、ホールダーを害することはできませんから。もしも傷つければ、即刻、マザーからの電磁パルスを浴びて抹殺されますわ」


 旦那さまってのは、たぶん、おれ。ホールダーはホールドした女の子たちのことかな。

 マザーってのは?


「世界じゅうの都市を制御しておる、マザーコンピューターのことじゃ」と、白髪振袖。


「ああ、もう、めんどくさいな。一人ずつ、名前つけちゃっていいかな?」

「おお、わらわは高貴な名にしてたもれ」


 高貴? よくわかんないんだけど。


「お、お菊さん、とか?」


 ギロンと白髪振袖ににらまれた! ごめん! センスなかったよな!


「じゃあ、えっと、九尾の狐っぽいから……」

「おお、九尾か。よいな。わらわはこれより、九尾と名乗ろうぞ」


 ホッ。よかった。機嫌なおった。


「おれは? おれは?」


 犬っぽくとびついてくるカウガール。情熱の赤。


「……紅葉くれは?」


 くれないパンツ。


「ギャー! いいじゃん。カッコイイよ。おれ、気に入ったぜ!」

「あーん。レオンくんぅ。あたしは?」


 ゆるふわ、か。

 ゆるっと、ゆるゆる。


「ゆ……百合?」

「ふうん。平凡だけどぉ、まあいいんじゃない?」


 もう決めてる子もいるんだぜぇ。


「君は桃花ももか。髪がピンクだし、桃の花みたいに可愛いから。黒ワンピの子は魔魅まみ


 小悪魔の魅力で、魔魅だ。

 この漢字あてると、魑魅魍魎ちみもうりょう的な意味があった気もするが、そこは気にしない。


「セーラーちゃんは水城みずき


 なぜなら、セーラー服ってもともと西洋の水兵さんの軍服だったからだ。水、水……水城だ。

 それにしても、この子、しゃべらないな。でも、名前は悪くなかったみたいで、嬉しそうに微笑んだ。


「最初の沙織は、もちろん、沙織だから、あとは——」


 ロリか。それと猫耳。


「猫耳は……猫耳でよくない?」

「ニャー! ヤダ。まんまじゃん! そんなんヤダー!」

「じゃあ、キャット」

「横文字! それならオッケーにゃん」


 えっ? オッケーなんだ?

 この子、頭の中身も猫なみか?


 残るロリは、じいっと、おれのこと凝視ぎょうししてる。恨みがましい目つきだな。最後になったからか? その上、クマかかえてるから、クマ子とか言ったら泣きわめくよな?


「リタ! リタにしよう!」


 ロリータ、リータ、リタだ。

 よしよし。幼女も笑ったぞっと。

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