第4話 ホールド数10



 みんな同じ顔だけど、なんか細かいとこ違うから、沙織がコスプレしてるみたいで、なかなか楽しいと言えなくもない。

 もう、みんなまとめて面倒見ちゃおっか?


 なんて考えてたんだが、残念なことに、ホールドっての? できるのは十人までだと、最初の沙織が言った。


「十人?」

「わたしをよせて十人。だから、あと九人ね」

「なんで?」

「それは、玲音のレベルがまだ低いから。初めは十。レベルがあがるたびに上限が一、増えるよ」

「そうなんだ」


 レベルってどうやってあげるんだ? まあ、その前に、


「ホールドって何?」

「えっと、自分のパートナーとしてキープしておく人ってことかな。たくさんキープしてると、いいことがあるの」

「えっ? どんな?」

「ホールドしてる子が持ってるスキルを使えるようになる。それに、その子のステータスが、玲音の数値に加算される」


 つまり、おれが強くなるってことか。

 そもそも、なんのためのスキルって気がしたけど、まあ、強くなれる上に可愛い女の子にかこまれるなら悪くない。


「えっと、じゃあ、ピンク髪のツインテールと、振袖白髪と、カウガールのおれっ娘ちゃんもキープしようかなぁ」


 赤いパンツが気になる。


「ホールドね」

「そのホールド。あとは……」


 ロリはいらねぇや。おれ、幼女趣味じゃないし。

 ああ、みんな可愛いのに、このなかから十人しか選べないなんて、残念至極。無念だ。

 こんなチョロくハーレム作れていいもん?


「えっと、じゃあ、あと六人だろ? そこの黒髪のダークなワンピの子」


 黒髪ロングヘアーなのは最初の沙織といっしょなんだけど、なんか黒い。ワンピースも黒い。神秘的でちょっといいな。基本形が天使なら、こっちは小悪魔沙織って感じ。


 どっかに茶髪のゆるふわ巻きの子いないのか? ゆるふわ、やっぱ一人は欲しい。

 いた! ほかの沙織より、ちょっと背高いけど。


「茶髪のゆるふわの子と」

「ちょっと待って」と、最初の沙織が口をはさむ。


「玲音。パートナー選びは慎重にしてね。スキルとか、もっとしっかり見たほうがいいよ? もしかして、見ためで選んでるでしょ?」

「そうだけど」


 だって、どうせなら可愛いほうがいいしなぁ。いや、顔は同じだよ? 同じだけどね。同じだからこそ、似た子は二人も三人もいらない。


「スキルって、そんな大事?」

「強いスキルがあれば、戦闘で有利だから。この子のクマちゃんは持ってたほうがいいよ」

「クマちゃん……」


 ロリかぁ。ロリ、いらねぇんだけどな。しゃーないか。一人くらい遊びがいても。レベルあげれば、人数は増やせるんだし。


「じゃあ、この子も」

「幼体ってめずらしいの。レアなキャラって、変わったスキル持ってることが多いから、注意してね」

「ふうん」


 あとは三人か。もう三人? 早ぇ。あと三十人キープでもいいのに。


 三人しか選べないとわかれば、おれも慎重になる。

 じっくり見分だ。

 あっ、黒髪ショートちゃん、発見。いいなぁ。パンツスタイルのセーラー服着て、少年っぽい。男装の麗人風。


「あれっ? 猫耳いるんだけど!」

「たまにいるよ。獣人型ね。体力増強スキルが多いね。玲音の基本数値を底上げするから、いるだけで強くなれるよ」

「じゃ、猫耳とセーラー服のボーイッシュちゃん。最後の一人は——」


 おれが言ったとたん、場が緊張した。すごい緊迫感だ。空気が張りつめる。

 それに、なんだろうか。急に背筋が寒くなった。ゾッとするような、この感じ……。


「あたし!」

「あたし!」

「あたし!」

「あたし!」

「いいえ。わたしよ!」

「わたしだってば!」

「どいてよ、ジャマ!」

「あたし」

「あたし」

「あたし」

「おまえ死ね!」

「おまえが死ね!」

「死にくされー!」


 ウワッ? とつぜん叫びだした集団が、なぐりあい始めた。可愛い顔にパンチ、パンチ、暴力の嵐。なぐって、なぐられて、ボコボコ……それどころじゃない!


 いったい、誰からだったのかわからない。

 ギャーッて、人影のむこうでものすごい悲鳴がしたと思うと、バタリと誰か倒れた。のぞいてみると、血を流して……。


「わーッ! なんなんだ? 何してんだ?」


 ヒヒヒと笑いながら、ポニーテールの沙織が血にぬれたナイフをふりまわす。

 と思うと、ナース服の沙織が持ちだしたのは、手術用のメスだ。

 あっちこっちで殺しあいが始まった。


 修羅場……地獄絵図……。

 沙織が沙織を殺してる。

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