第3話 据え膳食ったら♡



 黒髪ボブ。

 茶髪ショートヘア。

 ピンク髪ツインテール。

 着物の白髪。

 ああ、幼女もおるわ。おれ、ロリじゃないから、いらないんだけど、七歳ぐらいでクマのぬいぐるみかかえてる。


 ほかにも、ザッと見ただけで五十人くらいのが、せまい入口からいっきになだれこんでくる。

 とたんに室内は人だらけ。

 この世界、人間滅んだんじゃなかったっけ?

 あっ、そうかぁー。って沙織、言ってたなぁ。ハハハ……。


「って! 分裂? 増殖? なんだ、これー!」

「だから、言ったよね? わたしたち、分裂して増殖するの。そうしないと人間が死にたえちゃうから」

「ええー!」


「わたしはね。オリジナルタイプ。姿形が基本のまま変わってない。クローン再生ルームで生まれてくるの」と、最初の沙織が言った。

「でも、分裂するときに軽い変異が起こるのね。それで、髪の色とか目の色、肌の色、体型や年齢。細部のちょっと違うわたしができる。一人が死ねば、かわりにどこかで別のわたしが二人になる。そんな感じで人口を保ってる」


 なっ、ちょっと待ってくれ。

 たしかに、おれ、沙織のこと好きだよ? でも、これはなんていうか……怖い?

 同じ顔がズラーッと際限なくならぶ、この地獄のような構図。

 あっ? 二十億とか言ってなかったか? 世界人口、二十億? それ全部が……沙織?


 まあ、美少女でよかったけどさ。よかった……けど。


「おい、こら!」


 うわっ、ビックリした。

 急におれのひざに片足(ヒール高いブーツのかかと)乗せてきたのは、茶髪ショートの沙織だ。ウエスタンなカウガール風のミニスカ姿。これはこれで、違う魅力の沙織だな。ちなみにパンツは見えてる。情熱の赤だ。


「おまえ、おれを第一夫人にしろよ? いいな? するだろ? するよな?」

「いけませんことよ? むりじいしては。玲音さまのご意思で決めてこその正当なパートナーシップですわ」


 カウガールをとどめたのは、ピンクツインテールの沙織。白いフワフワしたドレスを着て、これもこれで可愛い。いいなぁ。ちょっと話しかたがくどいけど、貴族のお姫様風で悪くない。ピンクの髪に薄紫の瞳もキレイだ。


「何を申すか? 第一夫人はわらわに決まっておる。何しろ、わらわには最強ランクのスキルが備わっておるからのぅ」


 そう言ったのは、赤い振袖着て、白髪を長く伸ばした沙織。みんな、沙織。どうにかならないのか? 呼ぶとき、どうしたらいい?

 ん? スキル?


 このワクワクするワード。

 も、もしや、この世界、ゲーム要素あるんだ?

 そういえば、さっき、ステータスがどうのこうのって沙織が言ってた。


 今すぐ説明してほしいのに、今は猛りたつ女の子たちの言いあいに気おされて、なんも言えない。


「スキルなら、おれだって、スゲェのがある!」

「あたちのクマちゃんだって役に立つもん」


 どうでもいいけど、あの幼女。七歳のわりに口調が幼すぎないか? あれじゃ、三歳児だろ?


 みんながワアワアとさわぐなか、最初の清楚沙織が、どこか自慢げに言い放った。


「第一夫人には、わたしが選ばれました」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「ええーッ!」


 沙織たちの声がそろう。

 なんだろう? 第一夫人って、そんな大事なことだったのか?

 それにしても、こんなにたくさん沙織がいるなら、もうちょいよく考えてもよかったか?

 もちろん、最初の沙織こそ、おれが好きなクラスメイトの八乙女さんだ。でも、もしかしたらだけど、もっとこう、おれ好みの子がいた……かも? 何しろ、顔はみんな同じだ。みんな同じで、みんな可愛い。


「なんだよ! バカ! なんで、おれにしなかったんだ!」

「あきれるのう。わらわにすべきじゃったに」

「えーん! ヒドイよぉ。クマちゃんプンプンでちゅー」


 泣いたり大声でわめいたりしていたが、次の瞬間、彼女たちはいっせいに、おれにのしかかってきた。お、重い……内臓、はみだす……。


「じゃあ、てめえ、今すぐ、おれをホールドしろ!」

「ダメぇー! あたちでちゅー!」

「いやいや、わらわは外せぬぞよ? 最強スキル、そなたとて欲しかろう?」

「あたしのほうが」

「違う! あたし!」

「わたしよね?」


 スゴイ。おれ、モテモテだ。

 一生でこんなにモテることが、ほかにあるだろうか?

 うん? あるのか? これからは、ずっとこうなのか?

 て——天国ぅ!

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