36話 Welcome To The Start
「ミナトが入ってもう2時間は経つぜぇ……」
ぽつり、と。ジュンがしんと静まりかえった静寂を濁す。
広場に残された人々は物言わず、天のみを敬うかのよう空を眺めていた。
すでに争いはなく革命派も穏健派もが一緒くたになって一心に管理棟からの帰還をまつものばかり。
それはそうと革命の矢を送り込んですでに2時間と半刻ほどが過ぎている。
はじめは希望を歌う者もいたが、それももう止んだ。すでに心労がたたって口を閉ざすのみ。裁断の下りを待つだけと状態だった。
ただ指を咥えながら運命を定めを待つのは、筆舌に尽くし難い苦痛だった。いつ終わるかもわからない秒針が1を刻むだけの待機時間にふざける余裕もない。
「死罪を待つ死刑囚ってこんな気持ちなのかもなぁ」
地べたにあぐらをかいたジュンは、ぼんやりとフレイムウォールを見上げた。
憮然と佇む杏が、そんな彼をキッと一瞥する。
「滅多なこと言うもんじゃないわよ。実際にこの場にいて状況を確認出来るだけでも私たちは幸せな方なんだから」
ウィロメナはうつむきがちにはふ、と吐息を漏らす。
「待機組の子たち可哀想……。定点カメラから送られてくる映像をじっと待っているだけなんて……」
人肉を食らう炎獄の壁は未だに健在のままそびえ立っていた。
《フレイムウォール》は、おどろおどろしい斑模様を揺らがせながら人々をなお睥睨している。
ミナトがあの中に消えてこれだけ時が過ぎたが一向に消滅しない。人々は決して口にしたがらないが、正直なところ敗北を察す。
希望の芽、芽吹かず。失敗は、イコール彼の死である。
「本当に飛び込むつもりなのか?」
こつり、こつり。清澄な靴音が近づいてきた。
ミスティは、東の隣に立って軽く髪を振る。
「私たち穏健派を説得するための餌だったことにする、という手もあるにはある」
「…………」
東は取り合おうとはしなかった。
澄んだ焦げ茶色の瞳はじっと階段上の管理棟を見上げつづている。
「甘言はきかず、か。そのポケットのなかにおさめた手が震えていないことを祈るとしよう」
1人でも被害者を減らそうとする優しい女性は薄くはにかんだ。
手にした槍を優雅に回しコン、と杖代わりにする。もう戦う必要も無いためすでに武器は暇を潰すためだけの道具となっていた。
無粋にも第1世代ほどの《
――……ミナト。
ミスティの言うとおりだった。
1時間ほど経った辺りから指先は冷え切っている。それに白羽織のなかで握りつづけた手の筋肉は、ガチガチに固まって氷のようだった。
死を前にして怯えぬ者は死者くらいだ。大の大人でも少しくらいは生に執着する。
「ミナトは……ディゲルの育てた子だ。アイツはアザーに墜ちてからもずっと先代艦長の娘とともに矢を育て抜いたのさ」
東が真実を伝えると、ミスティは僅かに動揺し前髪を跳ねさせた。
が、賢い彼女はすぐに冷静さを取り戻して、すべてを察する。
「……そうか。ならこれはあの時のつづきだったのか」
「ああ。だからもし今回も無様に失敗したのならば俺がきっちりとピリオドを打ってやる。もう無謀にもぶら下げられた希望に人々が騙されぬようにだ」
どういう結果になろうともここが結末となるのだ。
革命が成功すれば新たな世界が広がる。
逆に失敗しようものなら未来永劫の光無き世界が訪れるだろう。
「俺は友に宝物を託された。だからもし革命が失敗したのなら俺自身の身をもってしてこの物語の特異点となってやろうじゃないか」
東は、うつむきがちにふふ、と嘲笑した。
はじめから屈さぬ覚悟を胸に秘めている。どれほど怯えようとも、甘い条件を用意されたようとも、心が揺らぐものか。
「これは男と男の汗臭い契りだ。アザーに墜ちても戦いつづけた友へ送るメッセージでもある」
だから止めてくれるな。東は色気ある微笑を送る。
「フッ。存外……不器用な男だな」
それを受けてミスティは少し呆れたように眉を寄せて笑む。
後どれくらいだろう、なんて。この場にいる者たちが1番知りたがっている。
なかの様子はこちらに一切伝わってこず。潜り込んだ少年の安否さえ定かではない。
こちらでは大人が語らう。するとあちらでは若き少年が飽き飽きしたとばかりに伸びをくれる。
「あー、死ぬのって初めてだけど痛くねぇと良いなぁ。でもミナトが帰ってこなかったら敵討ちしてやらねぇとなぁ」
大あくびをするのはジュンだった。
良い意味でも力の抜けた少年である。
だが、言っている意味が理解出来ない。
「……? お前らはついてくる必要ないぞ? 向かうのは俺1人で十分だからな?」
たまらず東が首を傾げた。
と、マテリアルの面々もまた全員で小首を傾げてくる。
「はぁ? ミナトが死んだってわかって俺たちだけおめおめと生きてられっかよ?」
ジュンは丸くした目で「なぁそうだろ?」マテリアルの面々に問う。
「第1世代の東如きが単身飛び込んでもマザーへ到達出来る成功率は限りなくゼロに近いわね」
「だ、だから第2世代の私たちもアンチナノマシンを打って追従しますっ!」
杏はあたかも当然とばかり。
ウィロメナもぐっ、と愛らしいガッツポーズで応じる。
同調する声に一切の躊躇いはなかった。
すると今度は遠間からここ広場へと、台車の車輪が削れる音が近づいてくる。
「未完成のアンチナノマシンを廃品倉庫から引っ張り出してきたよー! 実験失敗の不良品だから在庫だけは滅茶苦茶あるんだよねー!」
猫の肉球を模したハンドグローブがぶんぶん振られている。
愛の押す台車には大きめのプラスチックケースが乗せられていた。
ジュンは待ってましたとばかりに目を輝かせる。
「おっ、きたきたぁ!」
勢いをつけハンドスプリングでひょいと立ち上がった。
嬉々とした足どりでそちらにむかって走って行く。
「俺には1番つえーの頼むぜぇ! どうせ人体が溶けちまうんだから副作用とかもうどうでもいいしな!」
「順番よ、順番。もういっそこの薬瓶のなかからランダムに引いて運任せって言うのも面白いわね」
「わ、わわっ! 本当にたくさんあるんだね! わ、私はどれにしようかな~……」
ジュンを筆頭に杏、ウィロメナ、愛と、マテリアルメンバーがつづいた。
さらには待機していた革命派の面々もこぞってアンチナノマシンを求めて群がっていく。
人だかりに囲まれてはたまらない。すでに愛の小さな身体は人垣によってもみくちゃにされてしまっている。
「成功は失敗の母って言うくらいだからね! ここにいる革命派全員だけじゃ足りないくらいの失敗品を容易してあるから喧嘩しちゃダメだよぉ!」
若人たちはなんの迷いもなく薬液の入ったガラス瓶を次々に確保していく。
群がった人だかりがさらに人を呼ぶ。徐々に穏健派も少数ながらその祭りに飛びこんで行くのだ。
一連托生というより、この世界にそれだけ魅力が無いのだろう。幸福を知らぬからこそ若人たちは生に執着をもてていない。
それが嬉しくて、だから悲しくて。漏れるのは乾いた笑いくらいなもの。
「はは、まいったな。どうやら覚悟が半端だったのは俺だけらしい」
「こういうときぐちゃぐちゃと考える大人の方が弱いものだ。あるいは苦境に生まれた若者が強いだけなのかもしれないがな」
若人たちの無謀さを垣間見せられる。
そんな光景尾を目の当たりにさせられた。大人たちは、そろって眼を滲ませた。
東はもう1度「……まいったな」小声で繰り返す。
若人たちの鈴を振るような声を聴きながら若き情熱滾る日々を思う。
脳裏によぎるのは、あの日読んだなんてことはないチープでちゃちな物語。健全で、かなふりまでされていた児童書のデータだった。
とある世界に悪が現れ、選ばれし少年が冒険を通じて仲間を集い討伐する。本当にどこにでもある100万回謳われたであろう物語だった。
――……わかっていたことだ。俺に俺の夢を追う資格はない。
そしていつ気づいたのだろうか。
年輪を重ねていくたび描いた夢が夢ですらなかったのだと気づかされる。
ただ偶像に憧れていただけだった。架空の背を羨望の眼差しで見つめていただけ。
それが明確となったのは長岡晴紀が人類総督として管理棟を占拠したときだった。
あの日やっと自分が
だから今やっていることは英雄的行動ではなく、贖罪。正義でもないただの責任というやつ。
「はは……英雄なんてものは現実に存在しないのだろうな」
「……果たしてそうだろうか」
東は独り言に反応してくれたミスティの方すら見ずに「そうさ」応じた。
だって、という言葉は嫌いだった。そこから先に繋がるのは大抵が言い訳になるから。
わかっていながら彼は作り慣れた笑みで天を見上げる。
「だって、これほどまでに人類が追い込まれているという、のに…………なん、だと?」
なぜ現れない。言いかけて大気が喉を詰まらせた。
空前絶後の衝撃とでも言うべきだろうか。全身に電流が走り、隅々に行き渡り、言葉さえ紡げない。
だが目の前に起きている現実こそが事実だった。
僅かに遅れて周囲の者たちも今起きている奇跡をその瞳に映す。
「フレイムウォールが……消えていく……?」
呆然としているのは杏だけではなかった。
広場に集った人々が軒並み天を仰いで眼を皿にする。
管理棟を包む忌むべき障害がすぅ、と薄明と化して消失していくのだ。
「上! 上に誰か立ってるよ!」
愛がそう叫ぶ。
全員が瞳に蒼を宿し遠視をはじめる。
と、同時に管理棟へ真っ直ぐつづく階段からなにかが転げ落ちてくるのがわかった。
はじめは勢いよく。数段落ちていくにつれて徐々にゆっくりと。赤い絨毯を広げるような軌跡を残す。そしてソレはようやく最下にて止まった。
ウィロメナがその足下の物体を見下ろす。
「――ひッ!? し、死体!?」
理解すると全身に戦慄を走らせるよう剛直した。
階上から転がってきたのは紛うことなき死体だった。
その上、階上から直線に軌跡を残していたのは未だ固まりきらぬ鮮血だった。
死体の面はひしゃげきっておりもはや誰であるかの証明すら叶わない。
しかし東にはこの骸が誰であるかがわかっている。
「コイツは……長岡晴紀だッ!!」
青ざめていた周囲がざわりと動揺を広げた。
その骸が身にまとう紅の衣は、色は変わっているが高官衣である。相応の身分の者にのみ配られる高官軍服のようなもの。
しかも仰向けの骸の胸辺りには勲章や褒賞を強引に引きちぎった毛羽立ちがあった。
「わ、私の目からから見てもこの死骸は長岡本人だ! どちらにせよ後々証明が必要だろうし血液検査なり司法解剖なりを行うとしよう!」
ミスティは矢継ぎ早にそう言って、己の高官衣を脱ぐ。
長岡の元へ歩み寄る。みずみずしい肢体が晒されることさえ厭わず骸に羽織をかけて人目から遠ざけた。
人々は、唐突にぶつけられたような状態となった。ただ呆然と立ち尽くすのみだった。
「革命の元凶が……」
「倒されてるってことだよな?」
愛のつづきをジュンが繋ぐ。
2人ともが胡乱な瞳を泳がせアンチナノマシンを見つめる。
消滅したフレイムウォール、骸と化した7代目人類総督。
事実を脳が理解していく。広場に押しとどめられたどよめきは、歓喜へと変貌していく。
発破するかの如き喝采が舞い上がった。互いに手を取り合う者もいれば、友人たちと抱きしめ合い涙で頬を濡らす。
「はは、は……! や、やりやがったのか……!」
若人たちのはしゃぐ姿を遠巻きに見ながら、東もまた茫然自失の渦中に立たされた。
鼓動が早まる、歓喜の声が耳の奥を反響するたび脳が熱に浮かされていく。
「やったのか……! あれだけの時間ずっとなかで長岡と戦っていたのか……!」
たった1本の革命の矢が元凶の心臓を貫いたということ。
東はどうしようもなく心が震えて仕方がなかった。いい年した大人が感涙に咽びながらあの少年を抱きしめても良いとさえ思えるくらい昂ぶった。
しかももっとも困難かつ絶望的な手段で勝ちをもぎ取った。そうなると途端に冷静さが戻ってくる。
「ミナトは……いったいどこにいる?」
「そ、そうだぜミナトはどうしたんだよ!? アイツだけが帰ってきてねぇぞ!?」
そのジュンのひとことは浮かれた人々を黙らせるだけの威力を秘めていた。
微熱の余韻を残しながらも広場は、波が引いたようにさぁと静まりかえった。
そして杏が瞳に蒼を宿しながら天を指さす。
「見て、上に人がいる! それにかなりぼろぼろで今にも倒れそうだわ!」
「しかも2人いるよ!? 倒れそうな男の子を……ささえる男の子がもう1人!?」
ウィロメナも前髪を揺らがしながら天を仰いだ。
そうなると上に誰がいるのであるかは、言うまでもない。
東は、こちらを見下ろす影を視界に捉えた。
「……?」
階上には2つの影があり、もう一方の少年の姿は見覚えがない。
そして逆に見覚えのない少年に支えられるほうの少年が、なんらかの言葉を呟いている。
しかし周囲のどよめきが邪魔をしてなにを言っているのか聞きとることは難しい。
東はハッ、として《ALECナノマシン》の回線を開く。
『……う……な、の……』
声はノアに乗船する全員に向けて発されていた。
「全員急いでALECナノマシンに繋げ! オープンで送られてきている回線に切り替えろ!」
東が命じると、革命派も穏健派も揃って耳に手を当てる。
広場が静まりかえると、ようやく彼の声が人々の耳に届きはじめた。
『もう、こんなのはクソ食らえだ……! 誰かが殺して殺されて……そんなことを延々繰り返す生き物なんかいっそのこと絶滅しちまえばいい……!』
誰もその声を聞き間違えることはない。
なにせ作戦行動中ずっと全員がずっとその声を頼りに行動していたのだから。唯一の希望によって勇気づけられていたのだから。
しかも彼はもう1人の少年に肩を支えられやっと立っている状態だった。
ぼろぼろなんて言葉でさえ安く思えるほど、満身創痍で今にも崩れ落ちてしまいそう。
『なあ、クソ大人どもよぉ……? テメェらに今日を繰り返さない明日が作れるか……?』
そしてミナトは顔を上げてこちらを見下ろす。
顔は血に濡れ、涙に濡れ、鼻水がしどと流れ伝っていた。
『答えやがれよぉ……! みんなが幸せではないにしろ安心して眠れるくらい当たり前の明日を作れるかって尋ねてんだ……!』
彼は、よろめく転倒ぎりぎりの足どりで、口汚く叫ぶ。
その濡れそぼってなお激昂をおさめた瞳は、確実に個人を睨んでいた。
「可能だ! 全員が幸福を歌う気色の悪い世界をご希望というのでなければ約束してみせよう!」
通信越しに問われた東は、はっきりと断言した。
回線を使用せずその声そのものが届くよう腹から張り上げた。
『んなもん信じられっかよ……! もっとどうやって導いていくか考えてから抜かしやがれ……!』
「お前の信頼を得られるだけの詳細を話すには議論の余地がいる! だが俺自身のなかで1つだけ確定していることは、軍を解体するということだ!」
東は姿勢を正し一切の無礼なく問答に応じつづける。
そこに秘めたるは礼儀であって敬服でもあった。この問答に大人や子供という余分な概念は必要ない。
『名前変えて頭すげ替えてってことかよ……! 汚ぇ大人らしい簡単にやれそうなことを企んでるだけじゃねぇか……!』
「軍を解体した暁にはノアに住まう人々が自由に参加可能な1固体のチームを作っていく! ある程度の指揮系統の構築は必要不可欠だが圧力の原因となる上下関係や格差は生まれぬよう改善を進めていく!」
ぶちぶち、と。白衣の胸を飾る飾りものを引き千切りとる。
それは東が長き軍歴によって得た己を誇示する功績だった。
それらを剥いで地べたに投げ捨てひと思いに踏み潰す。
「そうすることにより人類は研鑽を繰り返す! そしてチームはやがて細分化されチームメイトそれぞれの輝き認め合うだろう! そうなればより精神と秩序が磨き上げられていくこととなる!」
ノアには、若者たちが集う旗本、数多くのチームが存在している。
彼が率いる《マテリアル》だってそう。東主導によって構築されたチームという新たな概念だった。
「この宙間移民船ノアでは互いに互いの得意不得意を埋め合い称え合えるような空間を作り上げてみせよう! だからお前の望む世界を作り上げるためもうしばし時間の猶予をくれ!」
『…………っ』
それこそが1人の人間としての夢だった。
東は己が失敗した罪を、若者たちが背負わぬように考えつづけてきた。
そのために革命失敗後、2年を費やす。どうすれば人類が未来をともに歩めるか構築するために必要な期間だった。
「目指すのは国ではなく連立する《チーム》だ! やがて俺たちノアの住人はあふれかえるほど《チーム》となって互いを律し尊重し合うよう成長していく!」
嘘偽りは捨てた。言葉にも虚偽は含まれていない。
幸せは作れない。だが人々が幸せになる地盤と権利は与えられる。これが東なりに彼へ返せる唯一無二の真意だった。
と、いよいよをもってミナトは膝を屈しがっくりと体勢を崩す。
『その世界では昨日まで当たり前に語り合ってたはずのヤツが……唐突にいなくなったりしないのか?』
もはや支えられていても立っていることすら限界なのだ。声にだって気迫が微塵もない。
それでもなお半分ほど開いた眼差しは力強い。階下にいる東を射貫くほどの精気が満ちている。
「せめてサヨナラくらいなら言えるようになるさ! サヨナラをする必要がないくらい優しい世界が理想だがな!」
『その世界では今日まで暖かかった隣にあるはずの手が……明日になって冷え切ってるようなことはないのか?』
「ならばその隣にいるヤツがさらに隣にいるヤツとともに守りぬく! 互いに互いを守り合う仕組みこそが俺の目標とする勇敢な世界だ!」
そして時を告げる鐘の音が広場一帯へと響き渡った。
『そうか……そいつは……いいかもな』
最後にミナトが笑ったような気がした。
崩れ落ちる彼をささえるのにもう1人の少年も四苦八苦している。
そこへマテリアルの面々が迷いなく駆け寄ってミナトの救護を開始した。
「わ、私がお姫様抱っこして医務室まで運びます! だから他の人はお医者さんに連絡を入れて下さい!」
「止めろウィロ! お前がその抱えかたすると胸が当たってミナトは窒息して死ぬ! 運ぶ役目なら愛に代わってもらえ!」
「その言い方だと釈然としないよねぇ!? だったら僕と同じくらいシャープなジュンくんが運べば良いんじゃないかなぁ!?」
「私が連れて行くから全員退きなさい! あとそこのイケメンも治療するからついてきなさい!」
「お……おう? それは、俺のことか?」
なにやら慌ただしそうにしているが、どうやら怪我人は無事のようだ。
しかもああやって賑やかにしていられるのだから直に回復するだろう。なによりノアの医療設備があれば大抵の怪我や病気は安静にしてさえいれば治る。
チームマテリアルが去って行く姿を見送った東は、ガラにもなくほっと胸をなで下ろす。
「あんな安請け合いをして良かったのか?」
するとミスティがこちらへ歩み寄りながらふふ、と「吐いた唾は飲めんぞ?」麗しい微笑を作った。
どうやら穏健派に長岡晴紀の骸を供養するよう命じてきたばかりらしい。
「フフン。なにも安請け合いというわけではないさ。もとより《チーム》という仕組みはなんとしてでも発足させる手はずだった。それを公言したため先送りに出来なくなったというだけの話だ」
「まったく、これからは忙しくなりそうだな」
2人は隣り合って同じように目を細めた。
見つめる先では鎖から外された若人たちが自由を得ている。
なにもない未来がここから始まろうとしていた。
つづく先に見えるのは闇でもなければ光でもない。永遠とも思えるほどにつづく1本の道があるだけ。
「私もこれからを作るお前の夢を手伝ってやろう。彼の望んだのは大人たちすべてへの要望でもあるのだから無視は出来そうにない」
「ハァーッハッハ! ならば8代目人類総督の座はミスティに決まりだな! 己で吐いた言葉には責任をもってもらうとしよう!」
人類は、長く止められた時を動かし、光を目指して歩み始める。
なのだが、歓喜と賑わいを上げる広場の人々のなかでただ1人ほど――
「……は? 8代目人類総督? はあああああああああ!?」
ミスティ・ルートヴィッヒだけは、凜々しい尊顔を真っ白にしていた。
Chapter1 【Revelator ―キボウ―】 END
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